お見舞い
しばらく雫と茉優の話を聞いていたらそれなりに時間が経過していたらしい、時計を見て気付いた。そろそろ家から出ないと葵のお見舞いの時間が無くなってしまう。なので俺が雫にスマホでメールを送っておいた。出発するよと。
雫はメールの既読が異常に早いためすぐに気づくだろう。
というかメールの着信数が限界突破しているんだけど?
そのせいでスマホがフリーズしている。
何とか雫にはメールを送れたけどこれどうにかしなくちゃな。
雫はすぐに2階から降りてきた。
「……優馬シャワーに時間かかりすぎよ。」
「ごめんごめん。」
そっか、雫は俺の事を待ってい間に茉優と話していたと思っているのか。
「それで、茉優とは上手くいったの?」
「……なんで優馬がその事を知っているの?」
「いや、2回から降りてきたからさ。茉優と話しているのかなって。」
「……まぁそうだけど。」
「それで?上手くいった?」
「……ええ、連絡先も交換した。仮だけど認めてもらった。」
それは良かった。雫と茉優の関係は上々じゃないかな?
「じゃあ行くか。」
「……ええ。」
俺と雫は葵のお見舞いに行くため家を出た。
☆☆☆
かすみさんの運転で病院に到着した。
「ありがとうございますかすみさん。」
「いえ。お帰りの際は連絡して下さい。」
そう言って、かすみさんから連絡先が書かれた紙を貰った。
そういえば俺はかすみさんの連絡先を持ってなかったっけ。これで家にいる全ての人の連絡先をゲットした。
「それと、お見舞いの手土産です。お見舞いに行くのでしたら必要かと思いました。予め買っておきました。」
かすみさんは紙袋を取り出した。
な、なんて気が利く人なんだろう……素直に驚きだ。
「すいませんかすみさん。忘れていました。」
「いえいえ、問題ありませんよ。」
俺は手土産が入った紙袋を貰った。多分和菓子かな?葵は林間学校の買い物で知ったことだけど渋めのお菓子が好きだ。多分、和菓子も大好きなはず。ナイスチョイスです、かすみさん。
「……それで、優馬。どうやって葵の病室まで行くの?」
雫が車から降りる準備をしながら言う。
「あー、わかっているよ。マスクを付けて行けば大丈夫でしょ。」
この世界の女の人のほとんどが男を見たことが無いはずだ。だから男が一体どんなものなのかなんて分からない。マスクで顔を隠せばバレる可能性はほとんどない。
「それにフードを被っていくよ。」
「……ふーん。完全に不審者ね。」
雫の言う通り確かに俺は不審者かもしれない。フードを被ってマスク姿、警備員に止められそうだ。
そうなった時面倒なことになるな。絶対に。
「そっか、ならマスクだけで行くか……」
「ご安心下さい。優馬様こちらも付けていれば全く問題無くなります。」
そう言ってかすみさんから見覚えのある物を渡された。
これって…俺が女装で使ったウィッグじゃねーか!
俺は2度と女装はしないと誓った。だからこれは付けたくなかった。それに雫もいるんだぞ。
「これはさすがに………ちょっと。」
「もう、時間がありませんよ。早く行ってください。」
「……分かりました。ありがとうございます。優馬行くよ。」
「え、ちょっと。待ってよ雫。」
雫がかすみさんに促されて先に車を降りてしまった為、俺もすぐに降りなければならなくなった。
俺はウィッグは手に持ったままだ。
かすみさんめ……勝手に俺の部屋に侵入して、俺が封印していた女装道具の封印を解いたな。
まぁ、いつも部屋に鍵をかけない俺が悪いんだけどね。
「……優馬、それ付けないの?」
雫は少し笑いながら言う。
「うん、……付けるよ。」
しょうがなくだ。しょうがなく俺はウィッグを頭に付けた。
この感覚は久しぶりだ。
「……へー、なんか普通になったかも。それにそのウィッグよく馴染んでる。」
雫は笑いこらえながら言った。
「ねぇ、それって褒めてんの?」
「……ええ。優馬って案外女装も行けるのね。」
「いや、誤解だよ!?」
やっぱり雫には見せたくなかったんだよ。
「はぁ……」
だけどマスクとウィッグのおかげで誰からも男だと認識されず葵の病室まで行く事ができた。
そこで俺はウィッグを取った。家に帰ったら2度と女装が出来ないように、かすみさんが見つけられない所に封印しよう。
☆☆☆
今から雫に報告しなければならない。もしかしたらケンカになるかもしれない……なんて悪い想像ばかりしてしまう。雫と葵の仲が悪くならないか不安だった。
コンコン──
そんな嫌な緊張をしながらノックをする。冷や汗も少しでてきた。
葵の病室に入った。
「あ、優馬君!!それに雫さん!!」
葵はまだ足のギブスは取れてないが元気そうだった。顔色もすごくいい。
俺と雫のことを笑顔で迎えてくれた。
「よ!葵。」
「……どうも葵さん。」
俺も笑顔を返した。雫はいつも通りだ。
「体の具合はどう?」
「はい、打撲の方はだいぶ痛みが引きました。頭の方も大丈夫です。足はまだまだですね。」
「そっか、あ、そうだこれ葵に。」
俺はかすみさんから貰った手土産を葵に渡した。
「ありがとうございますっ!!これって私がずっと前から食べたかったやつです。ありがとうございます。」
もしかしてかすみさんは葵の好みを調べたのか?なんという情報収集能力だ。逆にかすみさんが怖かった。
「それでね。今日は雫に俺と葵の事を報告しようと思うんだ。」
「そうでしたね。優馬君にその事は連絡を貰っています。」
「……ええ、そうね。」
さっきまで雫とは雰囲気が違う。顔も真剣な表情になっている。
「それでね、葵とは恋人なったんだ。そのことを雫に認めて欲しい。」
「……ええ、わかってる。だけどまず、葵と2人で話をさせてくれない?」
「わかったよ。」
俺の返事は一旦保留なのか?俺を部屋から追い出された。2人でゆっくり話すのか……
この話し合いて2人の運命は決まる。頑張れよ葵!
俺はいい結果になって次に俺が病室に入る時2人とも笑顔で迎えてくれたらいいな思った。
☆☆☆
優馬が病室から出て行ったことを確認した雫は話し合いを開始した。
「……さて、優馬もいなくなった事だしこれで腹を割って話せるね。」
「はい。そうですね。」
葵は雫とは2人きりで話したことが無い。だからすごく緊張していた。
「……まず聞くけどあなたは優馬のことが好き?一生愛せる?」
「もちろんです。私は優馬君のことが大好きです。」
葵は考えることなく即答した。考える必要すらないからだ。
「……まぁ、当たり前だよね。そうだ、どちらから告白したの?優馬から?」
「いえ、私からです。でも優馬君はすぐに返事をしてくれてあの時はすごく嬉しかったです。」
「……そっか。」
雫は深呼吸をして覚悟を決めて言った。
「……単刀直入に言うよ。葵さん……いや葵。これからよろしく。一緒に優馬の事を支えよう。」
「へ!?」
葵からしたら、絶対に拒否されると思った。自分は優馬の恋人に値しないと。だが葵の想像とは真逆の事を雫が言ったため、葵は動揺した。
「……私が拒否するわけないでしょ。私は優馬の事を信用してる、だから葵を認める。これから増えるかもしれない人も認めるつもり。それに私自身も葵の事を見てきてすごくいい子だと思ってたから。」
雫は1晩考えた。葵を認めるか、認めないかを。
そして1つの答えに辿り着いた。
自分が愛している優馬が選んだ子だ。その子は絶対にいい子に決まっていると。自分と同じ優馬の事が大好きな子だと。
「あ、ありがとうございますっ!!雫さん。」
葵は雫に感謝した。少し泣き目になっていた。
「……葵も雫でいいよ。」
「いえいえ、恐れ多いですよ。せめて“雫ちゃん”でいいですか?」
「……まぁ葵が呼びたいように呼べばいいけど。」
「分かりました!!今日からよろしくお願いします雫ちゃん!!」
2人の関係はすごく良好になっていた。
「……予想するけど次葵が優馬とデートに行く時に告白されるかもね。俺と婚約してくれーなんて。」
「いやいや、まだ早いですよ!!」
葵はまだ恋人。雫は婚約者。優馬は恐らく関係性を分けている。優馬に婚約者だと認めてもらえればゴールだ。恋人の状態だとまだ曖昧だ。雫は早く葵に婚約者になって欲しかった。
今の所優馬の婚約者は雫1人だけでその重圧、嫉妬が計り知れないからだ。特に学校生活ではその圧が半端ではない。いくら雫でも参ってしまう。
そこで葵だ。葵がいれば重圧は半減する。それに優馬の愚痴を話し合える。
でも、優馬はヘタレだから……まだ告白は葵の言う通り早いかもしれないけど……
雫は優馬から貰った婚約者の証を葵に見せた。
「……こういうものを貰ったら正式に優馬の婚約者になる。早く葵も貰えるように頑張って。」
「はい!!」
葵は羨ましそうに雫の指輪を見ていた。
「……まぁ、早く怪我を治して学校来てね。待ってるから。」
「はい!!」
「……早く婚約者になるためだったら自分から攻めた方がいいかも。婚約者の証をねだってもいいかもね。」
「な、なるほど……参考になります!!」
雫と葵は時間を忘れて話し合いに没頭した。
病室の外にいる優馬のことはすっかり忘れ去られていた。
優馬が呼ばれた時は1時間後だったとか……
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