茉優の想い
俺が葵と恋人になった事をうっかり口に出してしまった。
「優君……」
「……優馬、私もそれは知らないけど。」
2人から疑惑の目で見られる。
「あ、はは、別に隠していたわけじゃないんだよ。ただ報告する機会が無かったって言うか………」
疑惑を解消しようとしたけどいっそう疑惑の目で見られる始末だった。
「……ところでそれって誰なの?」
暗いオーラを放ちながら雫は聞いてきた。
正直怖いと思った。
「え、あぁ。葵だよ。葵が2人目だよ。ごめん伝えるのが遅れて…」
俺は慌てて言った。
「……そう、葵さんか。」
雫はそれを聞いて少し安心したような表情になった。
「そこのところの詳しく説明お願いね優君。」
「あ、はい。」
俺はお母さんに言われ、林間学校から病院までの葵との進展を話した。
お母さんは話の途中で葵の事で再び泣き始めたりしたけどちゃんと伝えることは出来たかな。
「……優馬、明日葵のお見舞いに行くよ。そこでしっかりと葵と話をしましょ。」
「うん。そうしよう。」
葵には後で連絡しておこう。
雫はそこでそろそろ家に帰らないと家の門限に間に合わなくなって、親が心配すると言って帰ってしまった。
雫は空気を読んでくれたのかな?
☆☆☆
「茉優、出てこいよ!まだ夕食食べてないだろ。一緒に食べよう。」
俺は茉優の部屋の前で茉優をの事を呼ぶ。
「お兄ちゃんの裏切り者……こんなに近くに私っていう女がいるのに。どうしてまた……」
茉優の薄暗い声がドア越しに聞こえてくる。最後の方はあんまり聞こえなかったけど……
「別に裏切ってないよ。それに茉優は俺の妹だろ?」
「妹なんて些細なことなの!!!」
「いやいやいや、ダメだろ。よく考えて茉優。妹だよ。」
「それが何?妹だとダメなの?そんなの理不尽だよ。だったら……」
茉優はドアを開けて俺の手を掴んだ。
「ん!?」
「決定的な肉体関係をつくっちゃえばお母さんも誰も何も言えないよね!!!」
そのまま腕を引っ張っぱられ茉優の部屋に連れ込まれた。
急だったため俺は抵抗できなかった。
「ちょ!?」
茉優はこれでも日本一のサッカー部を率いたキャプテンでもある。鍛えているのだろう…その力はあの運動神経抜群の春香に並ぶだろう。
その力で俺の事をベットに押し倒した。茉優の匂いがベットからして幸せな気分になるけど今はそんなことを考えている場合じゃない。
「何するんだよ!茉優。ちょっと落ち着けって。」
俺は必死に茉優を落ち着かせようとした。だけど茉優は聞く耳を持たなかった。
「はぁはぁはぁ。お兄ちゃんっ、」
茉優は息遣いが荒く手使いがいやらしい。俺にまたがると自分の服を脱ぎ始めた。
「おいって!茉優。」
俺は茉優の腕を掴み服を脱ぐ行為をやめさせた。
それでも少し止めるのが遅く茉優は上半身下着姿になっている。
黒色の下着が見える。茉優も年頃の女の子なんだと思った。って、何ガン見してるんだよ。自分の馬鹿野郎。妹だぞ。
そう自分に言い聞かせ、下着から目を逸らした。
「一体どうしたんだよ。」
「お兄ちゃんは全然わかってないよ。お兄ちゃんのことを私は生まれた時からずっと愛おしく想い続けて来たんだよ。なんで私の想いにお兄ちゃんは気付いてくれないの?私はいつもお兄ちゃんの事だけ考えて行動して来たんだよ……一時期話さなくなった時だって本当に辛かったんだよ。けどお兄ちゃんの事を思って、必死に耐えたんだよ。どうして私じゃダメなの?ずっと待ち続けて来たんだよ!私の何がダメなの……妹だから?たったそれだけで私はお兄ちゃんのお嫁さん候補から外さないで欲しい。私はお兄ちゃんの理想になるから……それでいいでしょ!だから私が一生お兄ちゃんを支えるから、家族としてじゃなくて一人の女として私のことを見て!……だから…………私と……」
茉優が最後に言おうとした時、俺が止めた。
「で、でも茉優は家族だ。俺の妹だ。一人の女として見ることは……できないよ。ごめん。」
茉優の言葉で茉優の想い人がわかった。俺は今まで茉優には違う男のことを想っているのだと思っていた。だけどその男は俺だったって言うわけか……
「…………………っぅ。どうして。私は早くしないとお兄ちゃんがどんどん女の人に囲まれていって私の居場所が無くなっていくの……」
茉優は涙を流した。こんな悲しそうにする茉優を見たことがなかったので俺も少し動揺する。
そして俺の胸ぐらを掴んで言う。
「どうして………私じゃあダメなの?
だから私は肉体関係を築けば……お兄ちゃんも私を隣に置かなくちゃならない。私の事を少しでも考えてくれる。」
茉優の手から震えが伝わる。
茉優が言っているのはこの国の法律の事だろう。
俺は学んだから知っている。
[男は女を自ら抱いたらその抱いた女と必ず結婚しなければならない]
その対象は全ての女だ。そのことを知っていて茉優はこんなことをしているのだろう。それにたとえ俺が茉優の事を嫌ったとしても絶対に捨てたりはしないと俺の思考を読んでだのか!だからこんな強硬手段に及んでいるのだろう。
「だからってそんな事するの?そんな事したら俺に嫌われるかもしれないんだぞ?それでもいいの?」
「いいよ……お兄ちゃんに軽蔑されたとしても、世間から白い目で見られたとしても、私はお兄ちゃんの隣にいたいから……取り残されなくないの…1人になるのは嫌なの。」
茉優はそれなりの決意を持って答えたのだろう。
………だけどそれは出来ないんだ。
俺は茉優を抱きしめた。
「ひゃっ!」
「茉優。」
「お兄ちゃん……そのつもりになってくれたの?」
「いや、違うよ。ごめんね。俺と茉優は家族だ。結婚は出来ない。」
キッパリと言った。
茉優が黙ってしまったが俺は言葉を続ける。
「一人ぼっちにさせちゃうと思ったのかな。安心して俺は茉優の事が家族として大好きだし、たとえ俺の婚約者が何人か増えたとしても茉優を一人ぼっちにさせない。約束する。口約束だけど約束してくれるかい?」
「お兄ちゃん……でも、絶対に女の人が増えたら私に割く時間が減ると思うの。」
「だったら見ててくれないかな行動で証明してみせるから。」
俺は茉優の顔を真剣に見て言った。
「わ、わかったよお兄ちゃん。ここまで真剣に言われたは私は断れないよ。お兄ちゃんの言う通り見てるよ……」
「ありがとう茉優。」
俺はそう言って茉優を再び抱きしめた。
コンコン──
「おーい、優君と茉優?部屋で何してるの~?ご飯冷めちゃうよ~?」
お母さんが来た。
恐らく茉優に説明に行くと言ってから中々俺が戻ってこないから心配して様子を見に来てくれたのだろう。
今は茉優が上半身下着の状態で馬乗りになっていて体勢だ。こんな所お母さんに見られたら、今日色々な報告で疲れ切っているお母さんにトドメを指してしまう。それにシスコン野郎って思われそうだ。
まぁ、俺はシスコンだと自覚してるけどね。
でもお母さんにそう思われるのは嫌だったので俺は急いで茉優から離れようとした。
「!?茉優ど、どうした?茉優にも今の状況が危険だって分かるだろ。お母さんに見られたら色々と後から大変なんだぞ!もしかしてまだお前……俺と。」
茉優の足はがっちり俺の腰に密着している。
「あ、誤解しないで私はもうお兄ちゃんと肉体関係を持とうとは今のところは持ってないから。」
「だったら早くどいてくれ。茉優がいるから移動出来ない。」
俺はお母さんに聞こえないようにコソッと言った。
時間が無い。今にでもお母さんは入ってきそうだ。とにかく馬乗りの状態させ解除出来ればいくらでも言い訳は効く。
「ごめん…お兄ちゃん。私……お兄ちゃんと触れ合えるのが久しぶりで、突然抱きつかれたから腰が抜けちゃって………ごめんお兄ちゃん。また迷惑をかけちゃった。」
茉優は半泣きで言う。全部俺のせいじゃねーか。
「気にするな。だったら……」
考えろ……今の俺は退院したばかりで筋肉達が衰えていて本領を発揮出ない。そんな状態で力が必要な事はやめておきたい。失敗したらそれで終わりだからだ。
そうだ、いいことを思い付いた。
咄嗟に妙案が閃いた。俺は手で茉優の事を再び抱きしめた。
「えっ!?」
「少し回転するぞ!」
そのまま横に一回転。
こうすれば上手く、そして余分な力を使わずに上下逆になれる。咄嗟の判断としてはいいだろう。
「部屋に入るからね!」
お母さんの声が大きくなり、茉優の部屋で何か起こっているのだろうと察したお母さんはドアを開けた。
俺はドアが全て開いてお母さんが入ってくる前に急いでベットから飛び退いた。着地に失敗して腰をぶつけたけど上手く離れることに成功した。茉優は動く手を使って毛布を被り下着姿を隠した。
「あれ?どうしたの?……なにかしてたの?呼び掛けに答えなくて心配したんだよ?」
「あぁ、ごめんごめん。茉優との話に夢中になってたんだよ。な、茉優。」
目配せして茉優に話を合わせるように指示した。
「う、うん。そうそう。楽しかったなぁー」
「?、ならいいんだけど……優君、ちゃんと茉優に説明はできたのね?」
若干棒読み感が強い茉優にお母さんは疑問を思ったようだけど特に何かは言ってこなかった。
「うん。」
「なら夕食の続きをしましょ。かすみが待ってると思うし。」
「そうだね。色々と疲れたからまたお腹減ってきたし。」
「わ、私もまだ何も食べてないからお腹減ったよ。」
「うんうん。家族は常に仲良くしていなくちゃね。」
俺と茉優が仲良く話していることにお母さんは嬉しそうだ。
「先に行ってて私少し用事があるから……」
茉優は毛布で顔を隠しながら言った。
あぁ、服を着るのか……
「わかった先に言って待ってるからすぐに来いよ。」
「……………………………うん。」
茉優は静かに返事をした。
「さぁ、行こお母さん。」
「わかった優君!」
俺は先に行って茉優の分の料理を取り分けておこうと思った。
☆☆☆
茉優は優馬とお母さんを見送った。
さぁ、早く服を着て下に行かなくちゃ。お兄ちゃんにまた心配かけちゃう。
茉優は起き上がり自分が脱いだ服を探す。
「あ……っれ?」
服が見えない……いや違う。自分の目から涙が溢れて前が見えないんだ。
「うっ……自分でもわかってたことでしょ……お兄ちゃんにとって私は妹なんだって……妹から上にはランクアップできないってことも……」
優馬は茉優に見ててくれと言った。そして自分の告白も断られた。茉優の想いはこれで終わってしまったのだ……
自分で止まれと思っても止まりようがない。涙は流れ続ける。手で拭っても拭っても止まらない。
「うわぁぁぁぁぁん。」
気付かぬうちに茉優は声を出して泣いていた。
自分ではもう抑えきれなかった………
茉優の初恋が儚く散った。
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