雫の嘘
「おかしいわね。私が知る雫の家は優馬の家とそれなりに距離がある場所にあると記憶しているけど……?」
「え!?」
俺は声を出して驚いた。
「そうなの…?」
「確かね。でも前に奈緒先生の仕事を手伝った時にクラス全員の住所と電話番号が書かれている書類を見たんだけどその書類では優馬と雫の家はそれなりに距離があって、どうして2人は毎日一緒に登校しているのかが疑問に思っていたのよ。」
雫……もしかして嘘をついていたのか?それに毎日一緒に学校に行っているわけだけど、遠回りして来ているのか?
でもなんで?
俺は疑問に思った。
「ま、まずその真相を明らかにしてその事がもし本当だったら雫に理由を直接聞いてみるよ。」
「そうね。」
そういうことで俺と夜依は雫の事を尾行することにした。
でもまず、雫にある程度追いつかなくちゃならない。
「夜依ちょっと急ごう。」
雫と別れてからもう数分が経ってしまっているからだ。
「そうね。」
俺と夜依は少し急ぎ、数分後に雫の背中が見える所まで追い付いた。
ここからは尾行なので、雫に気付かれないように、そして見失わないように注意して尾行する。
数10分歩いたけどまだ雫の家にはつかない。
つまり、雫の家が近いということは嘘になることが確定した。それに俺の家と雫の家の方向は学校とは逆側で、雫は明らかに遠回りをしていた。
でも、どうして雫はそんな嘘を言ったんだろう。
俺はその事で頭がいっぱいだった。
「優馬、気を付けて。ここら辺、あまり隠れる場所がないから雫が振り向いたらバレるわよ。」
「あ、うん。」
さっきまでは電柱や看板、木など隠れやすい場所が沢山あって上手く尾行することができていたけどここら辺からは隠れられる場所が少なく、尾行の難易度が極端に上がった。
「1回ギリギリまで距離をとった方がいいかもね。」
「そうしましょう。」
俺と夜依は相談して雫の姿がギリギリ見える範囲まで下がり慎重に尾行して行った。
びっくりするほど冷静な夜依に比べ俺はいつ雫にバレるのかと思ってしまいドキドキしていた。
でも突然、雫が視界から姿を消した。雫は何かに気付いたのか突然走り出し俺と夜依の視界から急に消えたのだ。
「え?なんでもしかしてバレた?」
「その可能性は限りなく低いはずよ。だって、細心の注意を払って尾行していたのだから。」
夜依も焦る。
だけど、何故だ?俺と夜依はバレる行動は極力避けたはずだ。
そんな2人で焦っていると、
「……そこで何をしてるの!?」
突然後ろから大きな声で怒鳴られた。
「「!?」」
俺と夜依はビクッと驚いた。俺は驚きすぎて腰を着いてしまうほどだった。
なんと後ろにいたのはさっきまで前にいて尾行していたはずの雫だった。雫は息を切らしていることから走って回ってきたことがわかった。
「……優馬!?そ、それに……夜依。どうしてここに……いや、どうして私のことを尾行してたの?」
雫は俺と夜依にかなり驚いていた。
雫は元々尾行には気づいていたらしいが、その尾行者が俺と夜依だとは分からず、とっ捕まえて警察に連行するつもりだったらしい。
「その……なんで雫は尾行に気がついたの?夜依が言うには尾行は完璧だったはずなんだけど。」
夜依は雫とは口を聞きたくないのかそっぽを向いていた。だけどよく見てみるとしっかりと耳を傾けている。夜依も理由が聞きたそうなので代わりに俺が聞いた。
「……別に、なんとなく視線を感じたの。もう感覚と言うしかないのだけど。一度尾行されたことがあるから何となく分かってしまうの。」
「へぇ………」
すごいな。それでバレたのか……
「その、それで……聞きたいんだけど、雫は俺に嘘をついてない?」
「……うん。ついてる。」
その嘘とは……雫の家は俺の家からそれなりに離れているという事。
俺の問いに雫は素直に頷いた。
雫自身も気づいているのだろう。
「ど、どうしてそんな嘘をついたのか理由を聞いてもいいかな?」
雫は俯き、そのまま少し間が空いた。
──数秒経ち、ようやく雫は口を開いた。
「……だって、だって。優馬とできる限り離れたくなかったんだもん。」
理由が……幼稚園生みたいだった。
雫はが一瞬だけ幼児退行したようだ。
口を少しだけ膨らませ、軽く地団駄を踏んでいた。
「「………………」」
俺と夜依は何も言えなかった。
雫は冷静を取り戻し、前を向き俺の顔を見ながら言う。その顔は少し赤くなっていて、涙ぐんでいたかもしれない。
「……優馬と初めて会った時は、近くに住んでいたんだけど中学の時に引越しをしたの。その事をずっと言いたかったんだけど、それを言ったら優馬は一緒に帰ってくれなくなると思ったの。」
「そうなんだ…」
「……嘘をついていてごめんなさい。」
雫は頭を下げた謝ってきた。
「いや、別に大丈夫なんだけど……毎日登校と下校を遠回りするのは大変だよ。部活もやっているんだし。今日だってだるそうにしてたでしょ?」
「……いいの。好きでやっている事だから。」
まぁ、それならいいんだけどさ。
「あんまり無茶しないでね。」
「……うん。分かってる。」
雫は頷いた。
「あ、そうだ。これ、忘れないうちに返しとくよ。」
そう言って俺は体育祭のアンケートを雫に返した。
体育祭のアンケートを渡した事で雫がなんで俺と夜依が尾行してきたのかが分かり少し悔しそうな顔をした。
「じゃあ、俺と夜依は帰るよ。」
時間的にそろそろ門限だと気にした俺は帰る事にした。
「いいえ、私は少し残るわ。優馬は先に帰っておいて。」
俺が帰ろうとした時、今まで黙っていた夜依が急に口を開いた。
「え、え?2人っきりってこと?」
俺は夜依が言ったことが信じられなかった。
「そうよ。」
夜依は俺に問いに頷く。
だけど大丈夫なのか!?2人は犬猿の仲の様なものなんじゃないのか?
「俺はいちゃダメ?」
一応仲介する人が必要だと思うんだけど。
「ダメ。」
夜依はキッパリ断る。
「どういう話をするの?」
じゃあせめて、話をする内容を……
揉めそうな話をするんだったら勿論、止めるつもりだ。
「内緒。」
夜依はそれ以上何も教えてくれなかった。
正直俺は心配だ。
──だけど、今回は2人に任せようと思う。
夜依は何も言わないけど、目を見て大丈夫と言っているような気がしたからだ。
「さすがに優馬を1人だけで帰えらせるのは危険だから予め、かすみさんを呼んでおいたから。」
「あ、うん。……わかった。」
本当は帰るふりをして遠くから様子を観察したかったんだけど…どうやらそれを見越してなのか対策をされてしまっていた。
それほどまで俺には聞かれたくないのか?
じゃあ一体どんな話をするんだ!?
「じゃあ先に戻ってるから遅くならないように帰って来るんだよ。」
「分かってるわ。」
「雫も、親御さんが心配するから早く帰るんだよ。」
「……ええ。」
すごく結果が、気になるけどここは行くしかない。
お母さんみたいに2人に言った後、俺は踵を返した。
そして、途中で迎えに来てくれたかすみさんと合流し家に帰った。
☆☆☆
優馬がかすみさんと帰っている頃、優馬の家にある郵便物が届いた。その宛先には“男会”と書かれていた。
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