表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

最後の最後に現れた最悪最強の敵は、最悪な病状の俺が最適だ!

 あと数歩。

 あと数歩で俺達の戦いは終わったのに……!


「よくも魔王(ちち)を……! 絶対にお前達を生かして帰さない!」


 こんなボロボロの状態で……魔王の娘と遭遇するなんて……!


「……みんな、戦えそうか?」


 タフなことが売りの戦士は顔を曇らせ。


「……ちぃとキビしいな……」


 どんな傷でもたちどころに回復させる治療士は。


「……もう……MPが……」


 強大な魔力を操る魔術士は。


「……すまぬ……もう火球(ファイアボール)一つ撃てぬ……」


 ……万事休す……か。あと少し、もう少しで……俺は……!


「さあて、どっこいしょと」


 普段なら絶対に言わない掛け声と共に、戦士が立ち上がる。そして。


 パリィィィン!


 クリスタルを地面に叩きつけて割る。そ、それは!?


「強制脱出用のリザーブクリスタル。一つだけ残しといて正解だったぜ」


 バカな! それは……!


「お前らだけ(・・)なら脱出できる」


 定員が三人だけ……!


「な、何を考えている!? 早くお前も脱出を」


 バキバキバキ!


「結界によって囲まれた。もう、俺は脱出できない」


「ちょっと、何のつもりよ! 悪い冗談は止めなさいよ!」


「まだ手立てはあるはずです! 諦めないで下さい!」


 俺達の声を聞いた戦士は、フッと笑顔を浮かべた。


「おい、そこの二人」


 戦士は治療士と魔術士の二人を指差す。


「……幸せになれよ」


「な、何を言って……」


「お前らとはガキの頃からの付き合いだ。お前らが好き合ってること、俺が気付かないとでも?」


「まて! 君は彼女のことを愛し」


「おっと、そこから先は言うなよ。お前らを祝福してやるっつってんだ、ありがたく祝われろっての」


「そんな、私……!」


「お前も何も言うな。ただ……幸せになってくれ」


「うっ……うう……!」


 我慢できずに泣き出す治療士。大量の涙が頬を濡らす。


「……それとよ。コイツらのことを頼むぜ、親友」


 ……!


「お前と知り合えて、友情を深めることができた。それだけで、俺の人生は意味があったと思えるよ」


「ま、待て! 君だけ残るなんて許さない! 僕のことを親友だと言うのなら、一緒に脱出するんだ!」


「……言うまいと思ってたんだが……俺は不治の病でよ。あと半年の命なのさ」


 う、嘘だ! そんなはずは……!


「その短い命でお前らの未来を守れるなら……俺は喜んで……」


「止めろ! 止めるんだ!」

「待って! 逝かないで!」

「君だけ犠牲になど……!」


 結界が振動を……! もうすぐ転送が……!


「……じゃあな。俺の分も……生きろ」


 ブウウウン!!


 ドサッ! ドサドサ!


「……! あ、あいつは……!」


 ズゴゴゴゴ……!


 あ……あ……魔王城が……崩れていく……!


「う……なんで……なんでなんだよおおおお!」

「うああああああああああああっ!!」

「……神よ……何故……何故……あいつを連れていったのだあああ!」



 ……こうして。

 戦士の尊い犠牲によって、勇者達は生還を果たした。

 後に勇者達によって語られた戦士の物語は、等の勇者達以上に知られることとなり。

 この戦士は、全ての戦士達の憧れと崇拝の対象として、永きに渡って語り継がれていったと言う……。



 だが実際は。



「……行ったか。さて」


「…………」


「始めるとしようか。俺の最後の晴れ舞台を。悪いが、付き合ってもらえるか?」


「…………」


「? ……あの? 聞こえてるか?」


「……う」


「う?」


「うええええええええええええんんん!!」


「な、何だ!?」


 この人……凄い!

 自分の命を省みず……仲間を助けるために……!

 それに比べて、私は……! 自分の気持ちに振り回されて……!


「うええええええええええええええええんんん!」


「お、おい。何でいきなり泣き出すんだよ……調子狂うなあ……」


「うええええんんん!」


「ほら、涙拭けよ」


「あ、ありがどうござびばず……チィーン」


「うわ、定番通りに鼻かみやがって……」


「あ、ありがとうございました。お返しします」


「いらねえよ! お前にやるよ」


「鼻水が付いたハンカチなんかいるかよ!」


「逆ギレかよ!」


 ち、違う。私がしたい会話はこんなんじゃなくて。


「あの……よければ、仲間のところへ行って下さい」


「……………………は?」


「あ、いえ。は? じゃなくて。流石に戦うには気が退けますから……」


「あ、いや、その…………このタイミングで、あれだけ啖呵切って、どのツラ下げて仲間の元に戻れと?」


 ああ、確かに! 戻ったとしても立場が無さすぎます!


「それによ……どうせ半年も持たない命なんだぜ……」


「あ、そう言ってましたね。ちょいと失礼」


「な、何だよ!?」


 無理矢理籠手を外し、脈をとる。ついでに魔力を流して、病気を確認。あぁ、これは……。


「……重度の腫瘍ですね。確かにこれは……」


「……手の施しようがないだろ」


「十秒チャージで…………えいっ!」


 パアアアア……!


「な、何だ!? 身体が光に包まれて……!」


「はい、完治しました」


「………………は?」


「は? の多い人ですね。治りましたよ。もう完璧に腫瘍は消え去りました」


 魔王の娘ですから、このくらいはチョチョイのチョイです!


「さあ、これで胸を張って仲間の元へ行けますよ!」


「余計に戻れるわけねえだろおおっ!」


「な、何で治してあげたのに怒るんですか!?」


「返せ! 俺の一世一代の決意を返しやがれえええ!」


「何か理不尽ですぅぅぅっ!!」


 パラ……


「……ん? 何だ、今のは?」


「な、何がって……」


 パラパラ……

 ギギギ……メキメキメキ……


魔王(ちち)の魔力が消えたから……それによって支えられていた魔王城が崩れ……」


 ズズズズ……ドドドドド!


「「に、逃げろおおおおっ!!」」



「あああああっ! お城が! 私のお家がああああ!」


「何か……すまん」


「母の形見が! 祖母の形見が! 祖父の形見があああ!」


「ますます……すまん」


「曾祖父の形見が! 曾祖母の形見が! その母の形見がああああ!」


「つーかどんだけ形見だらけなんだよ!」


「人の家を崩したヤツが言うセリフかああ!」


「「……ハア、ハア、ハア……」」


「……これからどうすりゃいいんだ……」

「……これからどうすればいいのよ……」


「ん? お前は魔王の後を継ぐんじゃないのか?」


「父の後を継ぐのは弟。まだ修行中の身だから、まだ二百年はかかるわね。ていうか、あんたは仲間の元に」


「…………初恋の相手にあんだけの啖呵切って、その結婚式に出る気になるかよ……」


 ……確かに。


「それじゃあどうするの?」


「それを悩んでるんだよ! お前こそどうするんだよ?」


「私も……魔王は死んじゃったし、お家も崩れちゃったし……」


「「……どうしよう……」」


 ……マジで。



 ……小一時間ほど、二人して黄昏てたけど……結論なんて出るはずもなく。


「とりあえず……決着つけよう」


「何で!?」


「迷ったら戦うのが一番だ、うん」


「脳筋はこれだからイヤなのよ……!」


 だけど、魔王(ちち)の仇には違いない。私もこの戦いを越えないと、前に進めない……かも。


「……わかったわ。なら、決着を着けましょう」


 私も……脳筋かも。



 そして、再び小一時間。


「……う、うぐ……」


「ハア、ハア、ハア……勝ったどおおおおっ!」


 ……完膚無きまでに負けた。

 この男、病魔に侵されてなければ……ここまで強かったの……?


「よし、立てるか?」


 ……は?


「止めを……刺しなさいよ」


「戦いは終わった。だから敵じゃない。なら、殺す必要はない」


「な、何よ、その変な理屈……」


「それに……女の子を殺すのはまっぴらだ」


 女の……子?


「わ、私が?」


「そうだ。こんな綺麗な女の子(・・・・・・・・・)、滅多にいないぞ」


 はうっ!


「き、綺麗なって……う、嘘よ……」


「いや、嘘じゃない。ここまで魅力的な女性(・・・・・・・・・・)、見たことない」


 はううっ!


「あ、あんた……自分が何を言ってるか、わかってんの!?」


「ん? わかってるよ?」


 ……こいつ……! 天然で口説いてやがる……!


「さあてと。実はさ、さっき思い付いたんだが」


「こ、今度は何よ」


「俺さ……お前となら一緒にやっていけそう(・・・・・・・・・・)でさ」


 はうううっ!


「もし良ければ、俺と一緒に旅に出よう(・・・・・・・・・・)


 はううううっ!


「や、止めて! お願いだから!」


 ほ、惚れてまうやろおおっ!


「なぜだ? ……つーか、お前ひどい出血じゃねえか!?」


 お前がやったんだよ!


「待ってろ、ポーションがある。飲めるか?」


「り、両手骨折してるんですけど!?」


「あ、そりゃ無理だな。なら……」


 お、おい。何で自分で飲んで……ってまさか!?


「ちょっと待ちなさふぐっぅふ!?」


 く、口移しっすかああ!?


「こくこく……ぷはあ! これで大丈夫だろ!!」


 べ、別に口移しじゃなくても……。


「ん? 何で赤いんだ?」


「そそそそういうことは聞かないの!」


「……あ、そっか。すまんな、無理矢理だったからな」


「そ、そんな事は……」


「でも心配するな。これだけ傷つけたんだ。俺がちゃんと責任とる(・・・・・・・・・・)


 ズッキュゥゥゥゥン!


「もう無理! もう我慢の限界!」


 ガチャ! バサバサ!


「うおっ!? 何で急に脱ぎ出すんだよ!」


「何でですって!? あんだけ意味深なセリフ吐きまくったんだから、きちんと責任とりなさいよおおお!!」


「うおおおっ!?」


 ……そこから半日は省略させて下さい。



 ……次の日。


「おはよ!」


「お、おはよう……お前、元気だな……」


「そう?」


「まだ腰が痛いんだが……」


「あはは。まあいいじゃない。それよりさ」


「ん?」


「あんた……フルネームは何なの?」


「俺か? 俺はナークス・ソワードだ」


「ナークス・ソワードかぁ……なら、私はリマ・ソワードになるわけね?」


「え?」


「何よ、責任とってくれるんでしょ?」


「え、あ、まあ……」


「まさか……ヤリ逃げするつもり?」


「そんなわけあるか!」


「なら決定ね♪ じゃあ……ダーリンって呼ぼうかな?」


「はあああ!? は、話の展開が激しすぎないか?」


「いいのよ。私のことはリマって呼んでね♪」


「はああ……わかったよ」


「そのうち父にも挨拶してね。多分三百年くらいで復活するから」


「魔王復活するのかよ!」


 ……実は。

 こんなカップルが……誕生してたりする。

勢いで書いた。後悔はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ