最後の最後に現れた最悪最強の敵は、最悪な病状の俺が最適だ!
あと数歩。
あと数歩で俺達の戦いは終わったのに……!
「よくも魔王を……! 絶対にお前達を生かして帰さない!」
こんなボロボロの状態で……魔王の娘と遭遇するなんて……!
「……みんな、戦えそうか?」
タフなことが売りの戦士は顔を曇らせ。
「……ちぃとキビしいな……」
どんな傷でもたちどころに回復させる治療士は。
「……もう……MPが……」
強大な魔力を操る魔術士は。
「……すまぬ……もう火球一つ撃てぬ……」
……万事休す……か。あと少し、もう少しで……俺は……!
「さあて、どっこいしょと」
普段なら絶対に言わない掛け声と共に、戦士が立ち上がる。そして。
パリィィィン!
クリスタルを地面に叩きつけて割る。そ、それは!?
「強制脱出用のリザーブクリスタル。一つだけ残しといて正解だったぜ」
バカな! それは……!
「お前らだけなら脱出できる」
定員が三人だけ……!
「な、何を考えている!? 早くお前も脱出を」
バキバキバキ!
「結界によって囲まれた。もう、俺は脱出できない」
「ちょっと、何のつもりよ! 悪い冗談は止めなさいよ!」
「まだ手立てはあるはずです! 諦めないで下さい!」
俺達の声を聞いた戦士は、フッと笑顔を浮かべた。
「おい、そこの二人」
戦士は治療士と魔術士の二人を指差す。
「……幸せになれよ」
「な、何を言って……」
「お前らとはガキの頃からの付き合いだ。お前らが好き合ってること、俺が気付かないとでも?」
「まて! 君は彼女のことを愛し」
「おっと、そこから先は言うなよ。お前らを祝福してやるっつってんだ、ありがたく祝われろっての」
「そんな、私……!」
「お前も何も言うな。ただ……幸せになってくれ」
「うっ……うう……!」
我慢できずに泣き出す治療士。大量の涙が頬を濡らす。
「……それとよ。コイツらのことを頼むぜ、親友」
……!
「お前と知り合えて、友情を深めることができた。それだけで、俺の人生は意味があったと思えるよ」
「ま、待て! 君だけ残るなんて許さない! 僕のことを親友だと言うのなら、一緒に脱出するんだ!」
「……言うまいと思ってたんだが……俺は不治の病でよ。あと半年の命なのさ」
う、嘘だ! そんなはずは……!
「その短い命でお前らの未来を守れるなら……俺は喜んで……」
「止めろ! 止めるんだ!」
「待って! 逝かないで!」
「君だけ犠牲になど……!」
結界が振動を……! もうすぐ転送が……!
「……じゃあな。俺の分も……生きろ」
ブウウウン!!
ドサッ! ドサドサ!
「……! あ、あいつは……!」
ズゴゴゴゴ……!
あ……あ……魔王城が……崩れていく……!
「う……なんで……なんでなんだよおおおお!」
「うああああああああああああっ!!」
「……神よ……何故……何故……あいつを連れていったのだあああ!」
……こうして。
戦士の尊い犠牲によって、勇者達は生還を果たした。
後に勇者達によって語られた戦士の物語は、等の勇者達以上に知られることとなり。
この戦士は、全ての戦士達の憧れと崇拝の対象として、永きに渡って語り継がれていったと言う……。
だが実際は。
「……行ったか。さて」
「…………」
「始めるとしようか。俺の最後の晴れ舞台を。悪いが、付き合ってもらえるか?」
「…………」
「? ……あの? 聞こえてるか?」
「……う」
「う?」
「うええええええええええええんんん!!」
「な、何だ!?」
この人……凄い!
自分の命を省みず……仲間を助けるために……!
それに比べて、私は……! 自分の気持ちに振り回されて……!
「うええええええええええええええええんんん!」
「お、おい。何でいきなり泣き出すんだよ……調子狂うなあ……」
「うええええんんん!」
「ほら、涙拭けよ」
「あ、ありがどうござびばず……チィーン」
「うわ、定番通りに鼻かみやがって……」
「あ、ありがとうございました。お返しします」
「いらねえよ! お前にやるよ」
「鼻水が付いたハンカチなんかいるかよ!」
「逆ギレかよ!」
ち、違う。私がしたい会話はこんなんじゃなくて。
「あの……よければ、仲間のところへ行って下さい」
「……………………は?」
「あ、いえ。は? じゃなくて。流石に戦うには気が退けますから……」
「あ、いや、その…………このタイミングで、あれだけ啖呵切って、どのツラ下げて仲間の元に戻れと?」
ああ、確かに! 戻ったとしても立場が無さすぎます!
「それによ……どうせ半年も持たない命なんだぜ……」
「あ、そう言ってましたね。ちょいと失礼」
「な、何だよ!?」
無理矢理籠手を外し、脈をとる。ついでに魔力を流して、病気を確認。あぁ、これは……。
「……重度の腫瘍ですね。確かにこれは……」
「……手の施しようがないだろ」
「十秒チャージで…………えいっ!」
パアアアア……!
「な、何だ!? 身体が光に包まれて……!」
「はい、完治しました」
「………………は?」
「は? の多い人ですね。治りましたよ。もう完璧に腫瘍は消え去りました」
魔王の娘ですから、このくらいはチョチョイのチョイです!
「さあ、これで胸を張って仲間の元へ行けますよ!」
「余計に戻れるわけねえだろおおっ!」
「な、何で治してあげたのに怒るんですか!?」
「返せ! 俺の一世一代の決意を返しやがれえええ!」
「何か理不尽ですぅぅぅっ!!」
パラ……
「……ん? 何だ、今のは?」
「な、何がって……」
パラパラ……
ギギギ……メキメキメキ……
「魔王の魔力が消えたから……それによって支えられていた魔王城が崩れ……」
ズズズズ……ドドドドド!
「「に、逃げろおおおおっ!!」」
「あああああっ! お城が! 私のお家がああああ!」
「何か……すまん」
「母の形見が! 祖母の形見が! 祖父の形見があああ!」
「ますます……すまん」
「曾祖父の形見が! 曾祖母の形見が! その母の形見がああああ!」
「つーかどんだけ形見だらけなんだよ!」
「人の家を崩したヤツが言うセリフかああ!」
「「……ハア、ハア、ハア……」」
「……これからどうすりゃいいんだ……」
「……これからどうすればいいのよ……」
「ん? お前は魔王の後を継ぐんじゃないのか?」
「父の後を継ぐのは弟。まだ修行中の身だから、まだ二百年はかかるわね。ていうか、あんたは仲間の元に」
「…………初恋の相手にあんだけの啖呵切って、その結婚式に出る気になるかよ……」
……確かに。
「それじゃあどうするの?」
「それを悩んでるんだよ! お前こそどうするんだよ?」
「私も……魔王は死んじゃったし、お家も崩れちゃったし……」
「「……どうしよう……」」
……マジで。
……小一時間ほど、二人して黄昏てたけど……結論なんて出るはずもなく。
「とりあえず……決着つけよう」
「何で!?」
「迷ったら戦うのが一番だ、うん」
「脳筋はこれだからイヤなのよ……!」
だけど、魔王の仇には違いない。私もこの戦いを越えないと、前に進めない……かも。
「……わかったわ。なら、決着を着けましょう」
私も……脳筋かも。
そして、再び小一時間。
「……う、うぐ……」
「ハア、ハア、ハア……勝ったどおおおおっ!」
……完膚無きまでに負けた。
この男、病魔に侵されてなければ……ここまで強かったの……?
「よし、立てるか?」
……は?
「止めを……刺しなさいよ」
「戦いは終わった。だから敵じゃない。なら、殺す必要はない」
「な、何よ、その変な理屈……」
「それに……女の子を殺すのはまっぴらだ」
女の……子?
「わ、私が?」
「そうだ。こんな綺麗な女の子、滅多にいないぞ」
はうっ!
「き、綺麗なって……う、嘘よ……」
「いや、嘘じゃない。ここまで魅力的な女性、見たことない」
はううっ!
「あ、あんた……自分が何を言ってるか、わかってんの!?」
「ん? わかってるよ?」
……こいつ……! 天然で口説いてやがる……!
「さあてと。実はさ、さっき思い付いたんだが」
「こ、今度は何よ」
「俺さ……お前となら一緒にやっていけそうでさ」
はうううっ!
「もし良ければ、俺と一緒に旅に出よう」
はううううっ!
「や、止めて! お願いだから!」
ほ、惚れてまうやろおおっ!
「なぜだ? ……つーか、お前ひどい出血じゃねえか!?」
お前がやったんだよ!
「待ってろ、ポーションがある。飲めるか?」
「り、両手骨折してるんですけど!?」
「あ、そりゃ無理だな。なら……」
お、おい。何で自分で飲んで……ってまさか!?
「ちょっと待ちなさふぐっぅふ!?」
く、口移しっすかああ!?
「こくこく……ぷはあ! これで大丈夫だろ!!」
べ、別に口移しじゃなくても……。
「ん? 何で赤いんだ?」
「そそそそういうことは聞かないの!」
「……あ、そっか。すまんな、無理矢理だったからな」
「そ、そんな事は……」
「でも心配するな。これだけ傷つけたんだ。俺がちゃんと責任とる」
ズッキュゥゥゥゥン!
「もう無理! もう我慢の限界!」
ガチャ! バサバサ!
「うおっ!? 何で急に脱ぎ出すんだよ!」
「何でですって!? あんだけ意味深なセリフ吐きまくったんだから、きちんと責任とりなさいよおおお!!」
「うおおおっ!?」
……そこから半日は省略させて下さい。
……次の日。
「おはよ!」
「お、おはよう……お前、元気だな……」
「そう?」
「まだ腰が痛いんだが……」
「あはは。まあいいじゃない。それよりさ」
「ん?」
「あんた……フルネームは何なの?」
「俺か? 俺はナークス・ソワードだ」
「ナークス・ソワードかぁ……なら、私はリマ・ソワードになるわけね?」
「え?」
「何よ、責任とってくれるんでしょ?」
「え、あ、まあ……」
「まさか……ヤリ逃げするつもり?」
「そんなわけあるか!」
「なら決定ね♪ じゃあ……ダーリンって呼ぼうかな?」
「はあああ!? は、話の展開が激しすぎないか?」
「いいのよ。私のことはリマって呼んでね♪」
「はああ……わかったよ」
「そのうち父にも挨拶してね。多分三百年くらいで復活するから」
「魔王復活するのかよ!」
……実は。
こんなカップルが……誕生してたりする。
勢いで書いた。後悔はない。