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6.性奴隷はお好きですか?

 曰く。涼風曰く、数多あるエロ漫画の中でも俺の作品とその作者(おれ)を断トツで愛しているらしく、更新するたびに速攻で閲覧して一人自分を慰めているらしい。何でも、ピクシブR-18初投稿作品が、彼女がドM化した原因なんだとか。こいつがドMになったのも、俺に付きまとってくるのも、ある意味全部俺のせいという事である。俺は今、人生で初めて絵師になんかならなきゃよかったと思ったぞ……


 しかもよく考えたら俺は、涼風の好きそうなSMものばかり描いている。

 これは別段俺がドSだったりドMだったりするわけではなくて、単純にウケやすいからだ。えっちい作品ばかり書いているのもそれが理由である。それを証拠に、俺は人生で一度たりともエロ漫画で興奮したことも快感を覚えたこともない。


 さて、以上のような経緯を経て、いつしか涼風は作者である『Yuu』つまり、俺に会いたいと願うようになっていた。

 結果、偶然俺のスマホを除いたことで俺がYuu本人であると発覚した暁には、家に帰った後飛び上がって喜んでいたんだとか。


 最初は嫌われてしまう危険を回避するためにも、普通の少女を装って俺と接触を図ったらしい。だがしかし、俺の一連の行動が彼女に火をつけてしまい、ついに我慢ならなくなって先程の告白に至った、というのが涼風の独白の要約である。


 何というか──聞きたくなかった、こんな話。


「と、取り敢えず涼風が何故なにゆえこんな告白をしてきたのかは分かった」


「さっすが! 理解力がすごいね♡」


 ……こんな些細なことで褒められてると、むしろ情けなくなってくるんですがそれは。


「でもな、俺にもメリットがなきゃ涼風の願いは聞き入れられん。付き合うとかならまだしも、主従関係とか俺は一切合切望んでいないからな。俺が主人になれば、涼風は何をしてくれるつもりなんだ?」


「何でもだよっ! ゆうっちの描いたエロ同人みたいなこととか、ちょっとした雑用でもいいし…… とにかく誠心誠意ご主人様に尽くすから!」


「何でもって、どれくらいの範囲を指してるんだよ……」


「何でもは何でもだよっ!」


 俺は、何と無く直感した。


 こいつはちゃんと分かってはいないのだ、エロ漫画とは何なのかを。

 どれだけエロ漫画を読んで楽しみ快楽にふけていたとしても、本質は全然理解出来ていない。


 エロ漫画は、エロ漫画だからこそ。自分とは関係のない人間しか登場しないフィクションだからこそ、楽しむことか出来るのだ。

 世にあふれかえるレ〇プものや痴漢もの、束縛ものも、自分には被害がないから。自分は害を与えていないから。だからこそ、悦に浸れる。


 けれど、実際に当事者になれば、話は別だ。

 実際に犯し犯されるのは、妄想や空想とは別種のもの。ただただ気持ち悪い、悪行でしかない。

 そんなことは、まともな人間なら誰しも理解している事柄だ。


 でも、涼風は分かっていない。彼女は、想像力が欠如している。当事者になった時、一体どのような気持ちになるのか。実際の性奴隷が、一体どれほどの苦しみを味わっているのか、それを知り得ていない。


 このままでは危険だ。至極危ない。

 相手が俺だったからよかったものの、もし性欲旺盛な変態キモ男だったらどうなっていただろうか。今頃アソコの膜は残っていないに違いない。

 だから、涼風にはこの告白の危うさを理解させてやらねばならない。いずれ同じことを俺以外の誰かにしでかしたとき、取り返しのつかないことになってしまうかも知れないのだから。


 では、涼風に分からせるにはどうしたらいいだろうか?

 想像力が足りないのなら、実際に身をもって理解するしかない。しかしだからと言って、俺がレイプ犯になるわけにもいかないだろう。


 それなら──


「ひゃっ!」


 俺は黙って、涼風を押し倒した。


 急に涼風を押し倒した俺に対し、彼女は小さな悲鳴を上げる。

 涼風の様子は気にせず、俺は更に床に手をついて、涼風が俺から逃れられないようにした。昨日とは違い、これぞモノホンの床ドンである。

 真剣な目で少し怯えた風な涼風を見据える。さらに、顔を涼風の耳元に近づけて。


「黙って犯されろ」


 そう、囁いた。

 これまで何度も赤面していた涼風だが、今回は今までで一番赤い。赤鬼と見まがうほど赤らんでいた。

 そんな涼風を横目に、俺はズボンのベルトに手をかけ──


「冗談だ」


 ずに、不敵な笑みを作りながら立ち上がり、涼風を解放した。


「どうだ、怖かっただろ? これが実際のエロ漫画だ。あんなもん、現実じゃ気持ちよくもなんともないんだよ。あるのはただ恐怖だけ、ってな」


 少々カッコつけながら、涼風を諭す。

 当の涼風は既に立ち上がっていたが、俯きながら微動だにしない。そんなにショックが大きかったのだろうか。


「ぐ、ぐえへへへ」


「ん? 何だ?」


 まさか、強固なトラウマが植え付けられて、精神が狂ってしまったんじゃないだろうな。それは困るぞ。最悪俺、退学になっちゃう。


「えへへへへ/// ゆうっちはやっぱ最高のドSさんだよ! めっちゃドキドキした♡ やっぱりゆうっちの奴隷にしてもらうの、諦めるわけにはいかないねっ!」


「は、はあぁぁぁ!?」


 こ、こいつは本格的な精神異常者なのか……? あれだけのことをした相手おれを嫌悪するどころか、最高と評するなんて、どう考えても間違っている。


「それにゆうっちはただドSなだけじゃなくて、すっごく優しいもんね。……さっきの床ドンだって、あたしを気遣ってくれたからしたんでしょ?」


 それはない。俺が優しいのだとしたら、全人類は仏様か何かということになってしまうだろう。何それ、最高の世界じゃん。


「でも大丈夫っ! あたしは正真正銘のドMだから! ゆうっちならあのまま犯されたって、むしろ喜んだくらいだよ?」


「あ~あ。お前、ホント救いようがねぇな」


「あ、あぁんっ/// しゅ、しゅくいようのないダメダメ奴隷でごめんなしゃいぃ///」


 一々反応されると、ちょっと面倒になってくるな。


「それでそれでっ! ホントにあたしのご主人様になってくれないのぉ? 本当に何でもするよ? あたしの事は全然気にしなくていいからね♥」


 涼風が異常者過ぎてもうどうでもよくなり、俺はお言葉に甘えて俺の利益だけを考えることにした。


 何でもしてあげる。

 そう言われても、何か特別やらせたいこととかはない。強いて言うなら、家の掃除とか? だが、俺は基本的に独り好きなので、毎日家に誰か来るというのは苦痛以外の何物でもない。


 やはり、この告白は断ろう


 いや、待てよ。一つあるじゃないか、メリットが。


 ──涼風にイラストのモデルになってもらう、というメリットが。


 元々俺はエロいイラストがあまり好きではないので、ピクシブデビューをするまでは健全な絵しか描いてこなかった。だから顔とか服とかを描くのはそこそこ上手いと自負しているが、18禁イラストの醍醐味である裸体やら下着姿やらははっきり言って微妙である。

 そのせいで、ユーザーからは「顔だけで抜いてる」とかいう失礼なコメントが来たりしてる。ふざけんな。


 けれど、誰かモデルになってもらえば別だ。

 一応プロの絵師さんたちを参考にして描くというのも一つの手だが、そうなると自由に描写することは難しくなってしまう。既に誰かが描いたポーズしか描けない。

 それに対し、三次元ならどんなポーズもシチュエーションも書き放題だ。

 とはいえ、この方法には人権とか倫理とかそういうより重大な問題が付属してくるのだが、幸いにも涼風は“何でも”していいと公言してくれている。むしろ、喜んでくれる可能性も微レ存。


「……分かった。お前を奴隷にしてやろう」


「えっ、ホント!? やった♡ えへへ、これでいっぱいゆうっちとエッチなことができるよぉ///」


 残念ながらご期待には沿えそうにない。いや、女子を脱がせるというのも立派な“エッチなこと”なのか?


「と、とりあえず、放課後美術室に来い。最初の命令をしてやる。あ、あとお前には美術部に入部してもらう。これは強制だ」


「はふぅぅぅぅ/// きょ、強制……///」


「お、おう。と、とにかく絶対に来いよ」


「はいぃぃ♡ ごめいれー承りましたぁ!」


 しまりけのない、けれど可愛らしいことには変わりのない満面の笑みで敬礼して、一目散に屋上から退散していく。


「全く、とんでもない奴だな、涼風って」


 涼風無き屋上には一人、先が思いやられて落胆するも、呆れるあまりふっと口元を緩めてしまう俺が佇んでいた。

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