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5.告白されるのはお好きですか?

 突然だが、俺は朝気持ちよく起きれたためしがない。それどころか、一日中怠かったり、疲れていたりする。原因は別段深刻な病とかではなくて、単純な話寝不足だからだ。

 俺は夜行性の人間で、大体日が昇る時刻までパソコンを使っている。つまるところ、睡眠時間は僅か約3時間ほどということになる。だが、授業中の大半を使って睡眠をとっているので問題はない──はずだった。


 しかし残念ながら、いよいよ俺の寝不足は脳に深刻なダメージを与えるに至ってしまったらしい。


 昨日よりさらに雲のない、圧倒的快晴の4月27日。つまり涼風と一緒に昼食をとった翌日。

 ──俺は我らが琵琶高校の昇降口でラブレターの幻覚を見ていた。


 ハートのシールで蓋されている、イマドキ中々見かけないタイプのラブレーター。その紙切れが、俺の下駄箱の中に入っていたのだ。俺は現在、そのラブレターを手に取り、ただただ呆然と眺めているところである。どうもこの幻覚は中々高精度なようで、質感までしっかり再現されていた。


 ──えぇ、分かってますよ。俺だって流石に分かりますよ。


 幻覚じゃないんだよなぁ……


 リアルで現実で、紛れもない事実。正真正銘、モノホンのラブレターである。


 何故先程まで、あんなにも現実から目を背けていたのか。その理由は単純に、告白を拒むことに心が痛むからだ。

 いくら三次元の女子=クズという方程式を信じている俺とは言っても、少しくらい良心みたいなもんが残っている。人の気持ちを無下にすることをあまり気持ちいいとは思えない。


 ここで『えっ何? お前みたいなぼっちがラブレター貰えるとか思ってんの? 絶対罰ゲームか何かだろ』という声が天から告げられたので、お答えしたい。確かに、その線がないとは言い切れない。だから、俺も普段から話半分に告白を受けている(・・・・・)


 だがしかし、告白された経験があるというのも事実なのだ。

 自分でいうのもなんだが、顔だけはそこそこ良いほうだと思っている。そのため、俺が恋愛アンチとなった原因たる某事件以前は勿論の事、今でも面食いの肉食系女子が告白してきたりするのだ。


 だがそういう女は、ただでさえクズばかりの三次元女の中でも、さらに『ビッチ』という最悪の称号が付いた輩が多い。絶対に告白を受けるつもりはない。


 いや待てよ、そもそもこれがラブレターではないという説もあるもあるじゃないか!

 ハートのテープが貼られているのは、ただ単に普通のテープがなくなっていたからという可能性もある。それにかけよう。


 俺は一縷の望みにかけ、思い切ってテープをはがす。案の定、中には何か書かれた紙が入っていた。俺は力任せに紙を封から引っ張り出す。

 どれどれ、内容は……?


『お昼休み、話があるので放課後屋上に来て下さい』


 ……微妙だな。確かに普通に考えれば告白の為に呼び出していると読み取れるが、他の用事である線もまだゼロとは言い切れない。もしくは、本当に罰ゲームとかそういう類のものであるかも知れないのだ。告白されると決めつけるのは時期尚早だろう。


 俺は取り敢えずラブレターらしき紙を通学鞄の適当なファスナーに押し込み、昇降口を後にする。


 やれやれ、めんどくさいなぁ…… 今日こそはラノベ読みたかったんだけどなぁ……




 ♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥




 昼休み開始のチャイムが鳴るや否や、俺はボルトもびっくりの速さで教室を飛び出した。


 期待や不安、煩わしさの入り混じった感情を抱きながら、ただただ廊下を歩いて歩いて歩いて──例の塔屋に辿り着く。


 俺は一瞬躊躇(ためら)ってから、勢いよく扉を開け、屋上に侵入した。


 そこには、少々幼い顔立ちをしている、それはそれは可愛らしい美少女が立っていて。彼女は俺がやってきたことに気づくと、振り返って、俺に微笑みかける。


 その姿は、背景の透き通った青空ともうまく嚙み合っていて、本当に絵画じみていた。

 この光景を模写すれば、相当な値が付くことだろう。それほどまでに、美麗で、優美で、綺麗な光景だった。俺も一応一端(いっぱし)の絵師なので、今ペンタブを持っていないことが悔やまれる。


 いつまでも続くかとも思えた静寂。

 それはかつて涼風に俺がエロ同人誌作家であった事がバレてしまった時のものとは違い、気まずさはなかった。むしろ、心地良いである。ずっとこの時間が続けばいいのに──柄にもなく、そんなことを一瞬思ってしまったほどだ。


 けれど、この世のありとあらゆる物事は、時間は、いつか終わりを迎えるもの。この沈黙とて例外ではない。


 涼風は満を持して、言葉を切り出す。


「あたし、ゆーっちが──ううん」


 途中で言葉を切って、目の前の少女は小さく首を振る。

 彼女がその大きな瞳でまっすぐ俺を見据え直した時、彼女のきめ細かな黒髪ボブカットヘアが、春独特の暖かいそよ風になびく。


 息を呑むような、静寂。


 俺の鼓動が、やけに大きく聞こえた。

 俺ともあろう者が、美少女を前にして緊張しているのだろうか? まさか。誰が三次元女子リアルガールなんかにときめくか。アニメ『3D彼女(リアルガール)』を見る方がまだ少しくらいときめくかもな。


 そんなしょうもない思考を繰り広げていると、涼風は意を決したのか、続きを紡ぐ。


「裕也のことが、好き。だから──」


 頬を染めて、はにかむような照れ笑いを浮かべながら。


 そして、声優(こえ)負けの可愛らしい声で、核心を告げる。

 けれど。だけれど、涼風が(・・・)告げた台詞の内容は──


「──あたしを性奴隷にしてくださいっ!!」


 ──淫乱そのものだった!


「はぁ!? 性奴隷!?」


 告白の内容が意味不明過ぎて、思わず声を少し裏返らせながら疑問を呈した。

 性奴隷ってなんだよ。何でいきなり、今時後進国辺りでしか出てこなさそうな単語が、一連の言動の中に含まれてんだよ。


「うんっ! そーだよ! ゆうっちにあたしのご主人様になってほしいんだぁ」


 恍惚とした表情を浮かべながら、今にもとろけてしまいそうなほど甘い口調でおねだりする涼風。


 本格的に意味が分からくなってきた。涼風の言葉を、理解できない。

 ただの告白ではなさそうだし、罰ゲームっぽくもなければ、かと言って告白と何ら関係ないわけでもなさそうなのだが。


「ご、ご主人様って…… 残念だが、俺はメイドとかを雇うつもりはない。何だ? 金に困って、ついにメイドになるしか生きていく道がなくなってしまったのか? それなら、俺が役所に頼んで生活保護を申請してやるから……」


 かなりテンパってしまい、訳の分からない話をしてしまう。や、意味不明な言葉が連発され過ぎなんだよ。


「メイドじゃないよ、性奴隷だよ♡ それとも、雌犬のほぉがいい?」


「いや、俺にはどっちもいらないんですが、はい」


 完全に、思わず敬語になってしまった。

 雌犬ってなんだよ。もうその単語、エロ漫画でしか聞いたことねぇよ。


「あふぅん/// 必要ない存在だから這いつくばって懺悔しろなんて酷いっ! でも、感じちゃう、ビクンビクン!」


 あの、そこまでは言ってないんですが…… 勝手に誇大解釈しないでくれますかね? 俺が鬼畜なおにぃやんだと誤解されてしまいます。


 ずっとでへでへと気持ちの悪い笑い声を立てている涼風を横目に、俺は分かりたくもないことをわかってしまった。理解しがたいことを理解してしまった。


「なぁ、ちょっと失礼なことを聞いていいか?」


「ぅん、いいよぉ♡ 大歓迎だよ///」


「涼風ってさ、もしかして──ドMってやつ?」


「えへへ、そーだよぉ。ご主人様は賢いね♡」


「おい、勝手に俺をご主人様認定するな」


「ごめんなさいっ! あたし、ご主人様失格だね…… 性的ご奉仕をしますので許してください///」


「いらねぇよ!」


 思えば。思えば、である。あの数々の意味不明な失言も、ドM故の反射的な反応だったのではないか。そう思えば、納得である。

 強引にスマホを取られて口元を緩めていた事も、強引に屋上へ連れられて紅潮していた事も、指を俺の口内に突っ込んできた事も、床ドンされて赤面していた事も、犬のように零した飯を食べていた事も、全部涼風がドMだったから、という事になるのだろう。

 ……嘘だろ?


 だが、よくよく考えたら一つ疑問が残る。疑念が存在する。


「取り敢えずご主人様失格云々は置いといて…… 何で俺なの? 俺をご主人様とやらに選んだの?」


 涼風は普段からここまで酷い言動をしているわけではない。それどころか、無邪気で純粋無垢な少女として通っている。

 そりゃあ先日までの俺に対する反応のように、たまには赤くなったりしてしまうこともあるのだろうが、こんなエロゲボイスさながらの言動と比べたらはるかにマシだ。

 事実、俺はこの変態告白をされるまでは、涼風がドMだなんて思いもよらなかった。


 だとしたら、俺に対してだけここまで変態の様相をさらけ出してくるのはなぜだろうか。それとも、今日急にドMガチ勢に進化してしまったのだろうか。


 その疑問は、相変わらず気持ち悪い喋り方をする涼風の言葉により解消できた。


「だってね。ゆうっちが、あたしの大大だぁーい好きなエロ同人作家さんだったからだよぉ♡」


「はぁ? どういう意味だよ」


「それはねっ──」

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