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9.息子はお好きですか?

「ほうほう。……下手だったら全力で貶してやろうと思ったんだが、出来そうにないな」


 長瀬は涼風より一足早く描き終わって、俺に完成した作品を見せつけてきた。描えがかれていたのは、椅子に座って黄昏ている、ムカつくイケメン男子。ただし、萌えは一切合切微塵なく、無駄にリアル寄りだ。

 モデルは誰だろうか? 多分伊集院辺りだろうな。もしくはモデルなしの架空人物か。


「……? どういう意味?」


「いや、あれだあれ。うん、結構上手い」


 口にするのは非常に癪なので言葉を濁しておきたかったのだが、追求されては仕方ない。


「ふっ、当然でしょ!」


 クソ、勝ち誇ったようなドヤ顔浮かべやがって……!


「あたしも出来たよ!」


 一足遅く宣言した涼風は、真っ先に俺の元へやって来た。俺に絵を手渡す。自身はあるのか、目が輝いていた。


「それは楽しみね。ま、柊も称賛してるわけだし、どっちにしろ私の勝利は決まったようなもんだけど」


「ふふん。そのセリフ、そっくりそのままお返ししてやるもんね!」


 腕を組ながらウインクをして、あからさまな挑発をする長瀬。それに対抗して、涼風もドヤ顔で自身のほどを述べた。


「どれどれ」


 俺は絵に目線を向ける。

 涼風は期待に満ちた目で、長瀬は余裕綽々といった目で、それぞれ俺を見据えてきた。注目されると気まずいんですがそれは。

 さて、クオリティーの程はいかに──


「なんじゃこれ」


 しかし、開口一番出てきた台詞は、そんな間の抜けた言葉だった。


 まず、予想通りR-18指定のイラストだった。これはよしとしよう。……いや、よくないのだが、俺も人の事は言えないので追求するのはやめておく。

 絵の内容としては、全裸の少女が全裸の中年男性に壁ドンしているという、中々お目にかかれそうにない構図となっていた。


 ここまででも十分問題なのだが、肝心なのはここからだ。

 おち──男に付いてる息子が、まんまキノコである。比喩ではなく、形も色も完全にキノコ。異様すぎだろ。この男性はキノコ王国の臣民なの?

 それ以外に関しても、基本的に造形が歪だ。

 はっきり言って、クオリティは小学生レベル。


「これは──酷いな」


「んふぅん/// ご、ごめんなしゃい……! だめだめな性奴隷でごめんなしゃいぃぃぃ♥」


「ねぇ、私にも見せて」


 長瀬も気になるのか、俺の背後から覗き見してくる。

 おい、ヤバイぞ。このイラストだって紛いなりにも18禁だし、長瀬が怒りだしてしまうかも……!


「……確かに、これは酷いわね」


「だろ?」


 しかし意外にも、発露した感情は怒りではなく呆れだった。クオリティのレベルが低すぎるあまり、えっちさなど微塵も感じなかったのだろう。


「あのなぁ涼風。絵の上手さは一端置いといて、せめて息子の形くらいなんとかしろよ。まんまキノコじゃねぇか」


「息子っておちん〇んのこと?」


「た、端的に言えばそうだな、うん」


 仮にも年頃の女の子が、軽々しくおちんちんとか言っちゃダメだろ。俺ですらそんな淡白かつ堂々と口にするのは無理だよ。


「女の子にこんな恥ずかしい言葉言わせるなんてっ/// やっぱり裕也はとんだ鬼畜だね♥」


「そうよそうよ、変態よ!」


 さっきまで口喧嘩してたくせに、俺のこととなると同調するんだな。国共合作にちなんで涼長合作と名付けよう。……俺の味方はゼロかよ。

 ならば、単独で戦い抜くまでである。地味に孤高の戦士って感じてカッコいいよくね?


「いやいやいや、涼風が勝手に言い出したことだろうが。責任転嫁をするな。政治家か」


「ご、ごめんなさいつ/// 調子に乗ってごめんなさいぃぃぃぃ♥」


「はいはい、許す許す」


「やっぱり裕也は優しいね……/// そんな優しい裕也なら、あたしの我が儘、聞いて、くれる?」


「はぁ?」


 もじもじと、恥ずかしそうに。そして、どこかせがむように、涼風はビルス様並みに破壊力のある上目遣いを向けてくる。

 ……俺の涼風危険メーターがビンビン反応してる。嫌な予感がするぞ……


「正しいおちんちんを見せてっ! さっきのお詫びも兼ねて、根元からしゃぶってあげりゅからぁぁ♥」


「ふ、ふざけんな!」


 抗議の言葉を言い終わる前に、涼風は俺に猛烈アタックを仕掛けてきた。あまりに突然の出来事で、俺は避けることが出来なかった。

 涼風に抱きつかれてしまい、その勢いに呑まれて後ろに倒れる。結果、先程とは対称的に涼風が俺を押し倒す形となった。


「えへへへぇ/// おちん〇ん見せてぇぇぇ♥」


「おい、やめ!」


 馬乗りになっている涼風は、その優位性を利用しながら俺のズボンを脱がそうとする。俺も必死の抵抗を試みるが、何分手足が不自由なので劣勢だ。


 ついにズボンが膝の辺りまで擦れ落ち、パンツが露出する。長瀬が「きゃっ」と悲鳴をあげた。何見てんだよ。見世物じゃねぇぞ。


 ヤバい、このままだと本格的にヤバい。何がヤバいって、最悪俺の清き童貞が涼風に奪われかねない。魔法使い、ひいては大賢者になるという夢が潰えてしまう。

 とは言え、抵抗するのも難しい。一体どうすれば──


 ──いや、一つだけ抵抗する手段があるじゃないか!


「どりゃあぁぁぁ!」


 大音量の掛け声を挙げながら、


「ああぁぁぁぁぁん///」


 俺は盛大な頭突きをかました。


 頭突きは涼風の脳天に直撃し、彼女は行動不能状態に陥った。丸まりながらしゃがみこみ、頭を押さえている。

 攻撃した側とはいえ俺にも多少のダメージはあったが、ここは一つ我慢して涼風の側から離れた。


 長瀬の目もあるし、長時間パン・ツー・丸見えの容態でいるのは頂けない。

 俺は難を逃れたことに安堵しつつ、ズボンの裾を掴み、腰の辺りまで引き上げた。


「ううぅぅ、酷いよぉぉぉ……」


 頭を抱えながら俺の方を見上げ、珍しく文句を口にした。心なしか、目も潤んでいる。全く、ご主人様(仮)に歯向かうとは何事だ。これは再教育が必要だな(ゲス顔)


「あぁん!? 酷いのはどっちだ、言ってみろよ」


「そ、それは──涼風です」


 思うところもあるのか、目を伏せながら名前を告げた。


「分かってんならそれでいい。もう二度とズボンを下ろそうとするなよ」


「しゅ、しゅみましぇぇぇぇん////// 酷くて汚ならしくて醜くて淫乱なド変態雌豚奴隷でしゅいましぇぇぇぇん♥♥♥」


 どう注意しようが、涼風にとってはご褒美にしかならないというのも癪な話だな。


「気持ち悪い茶番を繰り広げているところ悪いんだけど、私を除け者にしないでくれる? ……寂しいじゃない……」


 涼風との会話も一段落したところで、長瀬が口を挟んでくる。最後の方は聞き取れなかったが、とにかく苛立ってらっしゃることだけはよく伝わってきた。


「へいへい」


 俺は適当に無視してないですよアピールをしつつ、長瀬に目をやった。涼風も俺に続く。


「とにかく、もうどう考えても決着はついたでしょ? 私の方が上手かったんだから、入部はなしってことで」


 事実とは言え攻撃的な台詞と態度に涼風は頬を膨らませて反抗するが、言い返すことも出来ず親に叱られている幼児みたいな格好になっていた。


 涼風がどう侮辱されようと俺は一向に構わないのだが、彼女が部室から追い出されるのは非常に困るのだ。

 ヌードモデルを見て描くというのは思ったより実用的で、インスピレーションも無数に沸いてくる。せっかく手に入れた便利品を、手放すわけにはいかない。


「なあ、そこを何とか頼むよ。涼風が入部したってお前が直接被害を被るわけでもないだろ?」


「被害は多有りよ! あんたと二人っきりで楽しくお喋り出来る時間が減っちゃうじゃない!」


「はぁ?」


「あっ…… 間違えました。正しくはあんたを罵倒する時間が減っちゃう、です」


 すげぇ間違え型だな。百八十度違うじゃねぇか。

 それに、キャラ崩壊起こしてんぞ。めっちゃ清楚系女子になってる。ずっとこの口調と態度でいてほしい。


 俺は長瀬を論破するべく、彼女との討論を試みる。俺は長瀬の元へ歩きだした。


「あのなぁ、そもそも俺を罵倒することからやめろと言いたいし──」


 そこまで言いかけた時だった。


「チャーンスッ!!」


 ズボンが擦れ落ちた。今回は、パンツごと。


「ほへぇ、おっきい♥ おちん〇んってこんなんなんだぁ…… 舐めてみたいなぁぁ///」


 涼風は変態発言を飛ばしながら、俺の股下に首を突っ込んで股間を覗いてくる。


 一方俺の息子はボロンと現世に姿を現しており、ちょうど長瀬の方へと向けられていた。直立していなかった事が、不幸中の幸いである。性的興奮を知らない恋愛アンチでよかった。


「きゃあああぁぁぁ!!!!」


 それでも、長瀬にとって身に余る衝撃的な光景であったことに代わりはない。


「知らない知らない! あんた達なんか大っ嫌いなんだからぁ!」


 羞恥が限界値に達した長瀬は、顔全面を真っ赤っかにさせながら、部室を出て走り去っていった。


 うん、まぁ、入部の件をウヤムヤに出来たのは良かったかな。


 俺はパンツを履き直しつつ、後で涼風を締め上げようと決意した。

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