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側から見た変態

亮治は考える。悟には犠牲になってもらい、珠緒の手綱を握って貰うべきか。別の女をあてがい、様子を見るべきか。上手く行きそうもないが、後者で行くことにした。顔だけは良いから何とかなるかもしれない、と考えたのだ。

「まずはナンパかなあ。二、三日張ったら一人くらい好みのタイプもいるでしょ」

なんだか全く気乗りはしなかったが、乗りかかった船で亮治も付き合う事になった。

零した飲み物はまだ拭いていなかった。





「あの子はどうよ?巻き髪の。ちょっとキツそうな感じじゃないの?」

チラリと珠緒は見る。

「ちょっと下品そうだなあ、パス」

「あっちは?清楚系のショートカット」

また視線だけ流す。

「加虐心がそそられない」

「あれは?OL風のお姉さん」

「もっとボーイッシュな感じが良いなあ」

亮治はげんなりしている。あの日から珠緒と放課後駅前でナンパをしようと試みていたが、この通り珠緒のジャッジは矢鱈と厳しい。

もっと身の程を弁えてもらいたい。

「あ、あの制服の子はいいかも」

どれどれと見ると、学ランじゃないか。しかもうちの学校の。その上もしかしなくても、

「君ら何やってんの?」

悟であった。

「何って……ナンパ?」

疑問で返す亮治に一層怪訝そうな顔をする悟。

「いつの間にか親しくなったんだね。俺も嬉しいよ」

今回は天邪鬼ではない、本気で嬉しそうだ。

「珠緒に彼女を作ろうと思って……なっ?」

声をかけると珠緒は焦点の合っているようで合っていない虚ろな瞳で悟を視界にいれている。まるで幻覚でも見ているように。

「彼女……作らない……彼氏が欲しい」

まずい、と思った次の瞬間には珠緒はハッとした顔をしていた。

「亮治くん、俺は彼女はいらないみたい。悩みも解決した。悟と付き合うから」

そしたら公認じゃん、と亮治にニコニコしながら言う。あちゃー、と手のひらで顔を覆う。

「気付いちゃったかあ」

話しに付いていけない悟が、は?と言う。

「そうか!そうだったんだ。これはね、さっちゃん恋だったんだよ。さっちゃん付き合ってよ」

悟は嫌悪感を隠さない。

「えー、気色が悪い。やだよ」

「さっちゃんの拒否は反対だから、良いって事だよね?」

流石にそれは、

「違うだろ」

「亮治くんは黙っててよ」

黙ってられない。今にも悟にやられそうだ。命は惜しい。

「亮治、勘弁してくれよ。何がどうなってこいつをこうしたんだ」

「いやー、相談を受けてちょっとしたアドヴァイスをね……」

「余計な事をするなよ。ほっとけば良かったんだよ。こんな馬鹿が服着て歩いてるみたいな奴は」

吐き捨てる悟に珠緒が少しだけ哀れに感じる。

「最近なんだかコソコソしてるなと思ったらコレか。馬鹿馬鹿しいにも程があるぞ。いい迷惑だね。いい加減にしろよ。馬鹿も休み休み言え、この馬鹿」

さっきから悟は馬鹿馬鹿と珠緒に言いまくっているが、確実に逆効果である。珠緒は身ぶるいする程喜んでいる。久しぶりの刺激が嬉しいらしい。短い付き合いの亮治ですら察してしまう。

「さっちゃんの愛は感じた。今日は記念日だね。二人の付き合った日記念」

どうしよう、気持ち悪い。あらぬ方向に行く二人を生暖かく見守るしかない亮治だった。








やっと帰寮した亮治は深くため息を吐いた。

あれから散々に悟に責められ、珠緒は宇宙の果てまでお散歩する宇宙人になってしまった。罵声、宇宙語、罵声、宇宙語の応酬に身も心も疲れ切ってしまった。

悟は災難だなあと思うが、なんとなく変な性癖の者を引き寄せてしまう雰囲気があるのは確かだ。

悟本人は知らないだろうが、変態ホイホイ的な素質を持っているように思う。変態紳士を地でいく珠緒にとっては御馳走なんだろうとも思う。

変態ホイホイに変態紳士、なんともベストカップルじゃないか、周りの為には纏まってくれていた方がありがたい。亮治はそう思うのだった。

制服のままにベッドに横になると、備え付けの本棚に目が行く。

一年の時の研修合宿で撮った悟と二人で写る写真が飾ってある。

たった一年程前なのに、既に懐かしい思い出だ。

悟と仲良くなったのはこの合宿からだった。


悟は兎に角クラスの話題の人物だった。

少し神経質そうな整った面立ち。清潔な黒髪。普段は緊張を隠すような仏頂面。授業中くだらない冗談を教師が言うと、ふと緩められる目元に同性でもドキッとしてしまう程だった。

女子の大半は悟に骨抜き状態だったが、近寄り難い雰囲気のせいか、クラスでは浮いていた。

新学期が始まってひと月半経った研修合宿でも悟は親しい友人の一人もいないようだった。

亮治は偶々同じ班になった悟をまじまじと見ると、何か俺の顔に付いてるかい?と、あの緩んだ眼差しで微笑された。

これは敵わないな、と思う反面興味が出た。少しの嫌悪感が態度に出ていたからだ。

今になって思うのだが、あの時の台詞と微笑は、見てるんじゃないよ、という怒りの態度だったんだろう。

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