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自覚する変態

★★★★★★



なんだ、この生き物は。

ランドセルを汚されて目に一杯涙を溜めながら懸命に強がる悟。きっと悟と出会わなければ、珠緒は普通の平凡な人生を全うしただろう。だけど出会ってしまった。珠緒のツボをぐりぐりと押してくる悟という存在に。この時珠緒は、自分が何にツボを刺激されているのか把握していなかった。ただなんとなく悟をふらふらとつけ回していただけに過ぎなかった。ほとんど無意識に。


そんなある悟と出会ってからしばらくしての日。

この時既に珠緒は小学校に上がっていて、帰宅後悟の家に遊びに行った時のこと。

悟とビデオを見ていた。動物の感動系の話だった。

「このブタすごいね」

と、感想を漏らし悟を見ると、片腕を顔に悟は押し当てながら、

「別にすごくないし。感動なんてしないし。た、ただのブタだし」

と、つっかえながら言う。

珠緒は全力で悟の顔を隠す腕を退かす。悟はポロポロと涙を流しながら泣いていた。そのちぐはぐな姿に珠緒は雷に撃たれたような衝撃を感じた。悟の天邪鬼は珠緒のスイッチでもあるのだ。


それからの珠緒は以前にも増して悟を熱心につけ回した。すると悟も段々学習したのか天邪鬼は珠緒限定で解除してきた。

こんな日々が永遠に続くと思っていたある日、悟は珠緒の前から姿を消す。

憔悴した珠緒を見た悟の母親が進学先を教えてくれたのは悟が居なくなって一週間くらいしてからだった。

酷いよ、さっちゃん。僕が頭悪いの知ってて進学校に行ってしまうなんて。と嘆いていたのは最初の一日だけで、後は取り憑かれでもしたかと思うほど勉強しだしたのだった。

夕飯を食べながら参考書片手に血走った目でブツブツ呟く珠緒を心配しながら珠緒の母は悟に感謝もするのだった。

「悟くんのおかげで珠緒が勉強してくれているのね」

偶に呪いのように、

「さっちゃん……うぅ……さっちゃん」

呟く息子の将来と呪詛を吐かれる悟が心配ではあったが。

とうとう珠緒は悟のいる難関校に受かってしまったのだ。それも満点に近い首席で。

珠緒の両親は泣いて大喜びした。珠緒の通う中学の先生たちも喜びはしたが、万年ビリ争いをしていた珠緒がカンニングでもしたかと思ってはいたが、悟の進学先だと気付いてからは何も言わなかった。それ程悟に対する珠緒の変質的ストーキングは有名だったのだ。


珠緒は歓喜した。また心置き無く、今度は珠緒の母親のストップが無い状態で悟をつけ回せると。


入学して一週間。珠緒はすぐに声をかけようかと思ったがやめた。無防備な状態で天邪鬼をする悟が愛らしかったからだ。

好物の魚を分けてやろうかと申し出た友人に、いらないとチラチラ見ながら断り。

盛大に腹を鳴らしながら、空腹では無いと言う。

お手洗いに行きたいのかソワソワしながら、友人に心配されると何でもないと強がる。

最高だ、さっちゃん。と興奮すること一週間。

ただ、これだけストーキングしていると嫌でも気付いてしまう。

悟と多くの行動を共にしている者の存在に。亮治である。

目障りだなあ、と珠緒は顔をしかめる。

とうとう我慢ならずに声をかけてしまったのが昨夜の夕食時だ。引き攣る悟の顔を見ると心が温かくなった。ついでに調子に乗って風呂まで一緒に入ってしまった。


本当のところを言うと珠緒にも何で悟を追い回すのか上手く説明が出来ない。珠緒は今でこそ勉強は出来るが、根が馬鹿だからだ。今は勉強の出来る馬鹿にクラスチェンジしただけで、根本の馬鹿馬鹿しいところは変わらない。

悟にも散々馬鹿だ馬鹿だと言われた。言われた当初は何故悟にそこまで言われるのか分からないくらいの馬鹿であったが、今は自分でも自覚する馬鹿である。

まあ、要は馬鹿なのだ。

馬鹿は馬鹿なのだが、いや馬鹿だからか野生の勘的なものはある。

だから亮治は危険だと珠緒は思う。あの長年珠緒に追い回され警戒心の塊のような悟が懐いている。危ないのだ。馬鹿歴、変態歴十五年の珠緒が思うのだから間違い無いと珠緒は思う。

さっちゃんが危険なのだ。

本当に悟の危険人物は珠緒であるが、珠緒本人は未来永劫気付かないだろう。そう、馬鹿だから。


「ねえ、さっちゃん。あの腹が立つ男はなんなの?」

珠緒の敵意むき出しの姿勢に怯みながらも悟は思案顔をする。

「えー。亮治のことかなあ?同級生だよ、同じクラスの」

悟は一番無難な回答をする。

「何でいっつも一緒にいるの?」

「えー?だって同じクラスだし」

馬鹿じゃないの?と悟は言う。

「忌々しいんだけど、何とかならないの?なるべく避けるとかさあ。クラスが一緒だからってトイレや食事まで一緒にする事ないじゃない」

悟は入学してすぐに絡んで来なかった珠緒が何をしていたかを察したようだった。

「えー、偶々だよ。学校なんか団体行動が基本なんだから避けるたってクラス一緒だから難しいんじゃないの」

面倒臭さいのを隠しもせず、自室のベッドに横になりながら雑誌を読む悟。横には般若のような顔をした珠緒。

「さっちゃんは危機感足りないよね。中学の時もさあ、女子に体操着盗まれたりしてたしさあ、僕が回収しなかったら何に使われてた事か」

悟は雑誌からチラリと視線を上げて珠緒を睨む。

「俺、その体操着返して貰ってないけど」

しまった、と思い、珠緒は視線を泳がせる。

「俺の周りには、お前以上に危機感を持つべき存在はいないけど」

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