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回収

悟の心配は現実のものとなる。

テスト明けの月曜日。

登校し、土日の課題を提出する為に悟が職員室に入ると同時に罵声が飛んでくる。

「早坂アッ!!テメエ寝ながらテスト受けたのか?!目ェ瞑って受けてももう少しマシだぞ」

佐古田が目の前で正座をする珠緒に恫喝していた。

大人の女性のマジ切れだった。

悟は佐古田のようなインテリ美人が密かに好みであった。目を見開き怒鳴る姿はちょっとしたカルチャーショックであった。

「だから言ったじゃないですか。付け焼き刃だって」

珠緒はプイッと顔を背ける。

すると佐古田は珠緒の頭髪をむんずと掴み、グイッと引き寄せる。

「お前の頭に詰まってるのは豆腐かなんかか?随分でっかい付け焼き刃だな。でっかい付け焼き刃にしたって酷すぎるだろ」

「あだだだだっ!抜けちゃうっ抜けちゃうっ!もう入っちゃったんだからしょうがないじゃないっすか。今更退学は出来ませんよ!」

えっへんと得意げな珠緒。側から聞いているだけの悟ですら頭が痛い。

「出来るんだよ。このど阿呆。二回連続下位成績者は足切りだっつーたろうが」

佐古田は文字通り頭を抱えている。

「特別措置は?」

「あるかいっ!そんなもん。前代未聞だぞ。トップ入学した生徒がいきなり最下位なんて」

首を振りながらため息を吐く佐古田。

悟は耳を疑った。

珠緒がトップ入学?採点ミスじゃなかろうかと思った。

「あっ、良いところに……」

眼鏡の奥の佐古田と悟は目があった。

珠緒は佐古田の視線を追い、悟に気付く。

あ、と小さく珠緒は口ごもる。

「久しぶり」

と悟は声をかけた。

「間壁くん、丁度良い所へ来たわね。間壁くんの担任の大和先生には許可を頂いてるから、しばらくこいつに勉強を教えてあげてくれないかしら?」

申し訳ないんだけど、と佐古田は付け加える。

「なんで俺なんでしょうか。適任は他にいると思いますが……」

「こいつとは同じ中学だったでしょう?気心知れてるほうがこいつも集中すると思うの」

どうかしら?と佐古田。

「俺で良ければ」

結局突き放し切れずに悟は了承した。

「さっちゃん……ごめんね」

珠緒は居心地が悪そうに謝罪した。

「仕方ないな。放課後、図書室でいいかい?」

「うん……」

珠緒は矢張り元気が無さそうだった。

「間壁くんに充分お礼するんだぞ。いいな?それじゃ、行ってよし!」

バシーンと尻を叩かれ、珠緒は職員室を出ていった。

「間壁くん、悪いわね。自分の勉強もあるのに。久々に優秀な生徒が入って来たって他の先生方も喜んでいたのよ?中学の時は実際どうだったの?」

佐古田は悟に聞く。

「下から数えたほうが早かったです。毎回赤点で補修を受けているようでした。だから、首席なんて……正直驚いています。珠緒が中三の時の成績は知りませんが、相当努力して入試を受けたんだと思います」

悟は答える。そう、あの成績では逆立ちしても入れるような学校ではない。

「まあ、入学してからはっちゃけるってことも多少あるんでしょうけど、どうも違うのよね」

佐古田は腕組みして唸っている。

「あの……提出物を出してきていいですか?」

ごめんね、と佐古田は解放してくれた。








放課後───。

悟は珠緒と図書室に居た。

「ごめんね、さっちゃん。学校残って貰っちゃって」

しおらしく珠緒は項垂れている。

「いや、部屋とか入れたくないから図書室でいいよ」

悟は意識的に固い表情を作り、話す。

「ごめんね」

珠緒は本当に申し訳無さそうに俯く。

「テキスト貰ってきたから、分からない所あったら言って」

バサッと紙束を渡す。

「さっちゃん……」

何?と悟は返す。

「これ……日本語?」

「この学校首席入学で分かんないの?嘘だろ?」

「終わった瞬間に僕の頭から小鳥が巣立つように消えてったの」

珠緒は遠い目をしている。

「もう言葉も出ないわ。昔っから勉強見てやるたんびにこれだもんな」

「ごめんねごめんね。さっちゃん見捨てないでっ。僕の事嫌いにならないで」

「とっくに嫌いだわっ。珠緒さあ、どうしたらやる気出すのよ?」

珠緒はガバッと前のめりになる。

「ち、ち、ち、チューして!!学年一位もっかい取ったら」

ケツから一番とは大きく出たな、と悟は思う。

「えー。無理そうだから、良いよ。それくらい。つーか、もう珠緒は俺の事は要らないんじゃなかったのか?校内の噂は聞いてるよ」

悟は面倒臭くなって適当に答える。

「思い出にしたいの。僕、もうさっちゃんと結ばれないから。せめて僕の純情を綺麗な思い出にしたいの。そしたら、転校して地元の高校通うよ。さっちゃんの事やっと諦められそうなんだ、今」

いつになく、苦しそうに珠緒は笑う。

「お前が俺を諦める?本気?」

「うん、本気。これで終わりにするよ。僕さっちゃんの事、抱けなくなったみたいだから。女の子にもね、反応しなくなっちゃった。呪われちゃったみたい」

笑いながら、ポロポロと涙を流す珠緒。

長い付き合いで珠緒の泣き顔を珠緒は初めて見た。

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