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回収

しょうがない所もあると、亮治は頭では分かっているのだ。

付き合いの年数も違うし、相手は年季の入ったストーカーだ。悟の事は熟知している。

相手が悪いなあ、と亮治は思った。

悟は気にしなければ気にしない程、惹かれる性分なのだろう。

「諦めるのか?」

「まさか」

亮治は即座に否定する。

「ちょっとばかり、仕掛けが必要だな」

亮治は不敵に笑むのだった。







★★★★★★★★★




珠緒は五月の終わり頃、研修合宿に来ていた。

場所は富士の麓の宿泊所が併設している研修施設だ。

軍事関係の練習場も近くにあるらしい。が、それ以外は何も無い。あるのは綺麗な空気と自然だ。

研修合宿というと物々しい響きだが、要は親睦を深める為に泊まり込みでカレーを作ったりレクリエーションという名の登山をしたりするのだ、と珠緒以下一学年の生徒達は認識していた。

親睦を深めたい相手が同学年に居ない珠緒の場合、矢張りやる気は無かった。

「カレー最高ーーっ」

山田はテンションが高かった。

二泊三日である。

しかも、珠緒は実行委員だ。

程のいい、教師の小間使いだ。佐古田の下僕である。

「早坂っ一年A組集合させろ!そこの馬鹿を回収してこいっ」

恥晒しめっ、と吐き捨てる佐古田。

そこの馬鹿──山田を回収し、佐古田の元へ行く。

佐古田は意外に体育会系であった。

普段は物静かに眼鏡をクイクイしているが、研修合宿に来てからは鬼と化した。

道中のバスの中ではこんなんじゃなかった。

あら、お菓子もう食べちゃったの?山田くん、これもいかが?と優しく山田に差し出していた。

山田と珠緒は標的だった。

佐古田の下僕よろしくクラスメイトを整列させる。

「シャキッと並ばんかいっ。はみ出る事は許さんぞ。一糸乱れず綺麗に並べっ」

最早、豹変とも取れる佐古田の鬼っぷりにクラスメイト達は怯えている。

「今日から始まる二泊三日の研修合宿だが、旅行気分で居たら痛い目に合うぞ。いいか、お前達、これはお前らの舐めきった性根を正す為の合宿だ。心を入れ替え、取り組め。励めっ。分かったな?!」

佐古田は眼鏡をクイと上げる。

「返事!!」

バラバラにクラスメイト達がハイッと言う。

「声が小さいっ」

一斉に返事を返すクラスメイト達。

こうして伝統の洗脳合宿は始まった。



珠緒は当初、この合宿はカレーを作り、食べ、レクリエーションをする程度に考えていた。

だが、甘かった。

ここは軍隊かな?と思った。


そこには、整列した一学年の生徒達が教師の笛の音と掛け声に合わせ、回れ右や休めや前進後退をしている姿があった。

珠緒含む実行委員は監視監督役でクラスに堕落した者がいると、クラス担任の指示の元、しばきに行く使命が課せられた。

クラスメイトの視線が痛い。

これでは親睦どころでは無い。

山田は遠慮なくしばける。だが、他の生徒は無理だ。

しかし、緩く注意すると、珠緒に容赦なく佐古田の膝が入る。

なんの意味がある全体行動なのか分かっている者は一人もいないだろう。しいて言えば、伝統だからだ。


その後三時間休みなしに学年の動きが完璧に揃うまで行われた。


その後、昼食を取り、抜き打ちテスト後に休み無くカレーを作った。

山田が任せろと言うから任せたカレーは予想通りの味だった。不味かった。感想を口に出すのも憚る程の不味さだった。同じ班の女子生徒は泣き、男子は空腹を訴え、珠緒はぶち切れた。

和を乱したとして、佐古田に珠緒と山田は一晩中正座

を強いられた。散々である。そして、成績優秀者としての初の愚行に佐古田に詰られ、翌日からは更に奴隷化した。

フラフラの状態で登山チェックポイントの最終箇所への配置転換を命じられた。頂上への配置だ。普通に登るのと一緒だった。

しかも、誰よりも先に登りきり、最後の者が登るまで下山も出来なかった。端的に、地獄だった。

結局珠緒は十九時に下山し、同じ実行委員の町田と海老名に嫌味を言われるオプションまで味わう羽目になった。


翌日、最終日は珠緒は全身の筋肉痛と闘っていた。

節々が痛い。が、同じ苦労を悟も味わったと思えば寧ろご褒美だ。そして何より帰寮すれば悟に会える。

午前もみっちり勉強があったが、珠緒は元気だった。

佐古田が、健全な心と頭は健康な肉体に宿ると脳筋丸出しのご高説を垂れていたが、どうやら珠緒には当てはまらなかったらしい。不純百パーセントの珠緒は肉体は健全だ。

馬鹿は所詮鍛えても馬鹿だし、変態は性癖なので、普通の人がちょっとやそっと公正を促してもなかなか変わらないのだ。

性犯罪者の再犯率などを引用していただくと分かりやすいと思う。

変わらないのだ。馬鹿と変態は。珠緒の場合は。


こうして佐古田の努力虚しく、馬鹿と変態のコンビは再び平地に放たれたのだった。







「京子パイセンウォッチでもしますかー!」

あの地獄の二泊三日を経て胆力が付いたのか山田は元気に犯罪を再開する

なんなら鼻歌なんかを歌いながら山田はPCを操作している。

これ、私も学生時代やりました。

全体行動を研修合宿で。

女の子の少ない学校だったんですが、女子半泣きしてる子いましたわ。

他にこれやってる学校あるんですかね?スタンダードですか?分かりません。でも、今だにたまに思い出しますわ。10年以上経ってるのにトラウマですじゃ。

学生の時って何か変な風習とか伝統ありませんでした?意を唱える事も許されないっつーか、唱える考えも湧かないっつーか。

頭パーの学生でしたので、そこまで考えが及ば無かったんですが。

懐かしいなあ。

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