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仕掛け

「大体さあ、相手誰なのよ。知り合いだったら嫌だなあ。想像したく無いから聞きたくねえけど、忠告はしてやらないとなあ。人として」

綾瀬はお節介だ。おかんだから。

「間壁だよ。間壁 悟」

亮治は素直に明かす。

「おー、間壁な。間壁かあ。確かにカッコイイよな。綺麗すぎるなあ。でもなあ」

勃つか?綾瀬は言う。

「勃つだろ」

亮治は真顔だ。

「いや、男って時点で勃たないよ」

綾瀬は否定した。

「男っつっても、綾瀬みたいなゴリラじゃねえから。ゴリラは人間じゃねえから、人間の女から見ても男から見ても生殖活動範囲外だけど。でも間壁は人間だし、カッコイイし、性格可愛いから有りだ。ゴリラじゃない」

散々言われた綾瀬。

「誰がゴリラじゃ!俺のかーちゃんと親父に謝れ!」

鬼の形相の──ゴリラだ、と亮治は思う。

「ま、それは良いんだけど……」

「良くねえよ!」

「そうか、綾瀬は勃たないかあ。じゃあ、やっぱり俺がやるしかねえなあ」

「いやいや、ちょっと一旦落ち着こっ?早まっちゃいかん。俺、ゴリラだし。ウホホッなんつって」

綾瀬は冷や汗を掻きながら、鼻の下を伸ばし、ゴリラの真似をする。序でに両腕を頭の上に持って行き、ゴリラポーズを決める。

「ありがとう。楽なポーズを取ってくれて」

亮治は手早く綾瀬の両腕をベルトで纏める。

「そうだなあ、これが終わったら、ボノボくらいにはなるんじゃないか?」

ゴリラがボノボに進化するかは知らないけど、と亮治は綾瀬を押し倒した。

「ひ、ひゃあああああっ」

綾瀬の悲鳴がこだました───。




「はい、水」

尻を抑え、突っ伏して泣く綾瀬に亮治は水を差し出す。

「気持ち良かったんだから、そんなに泣くことなくない?」

亮治はヘラヘラしている。

「それがショックなんだよ!」

綾瀬は号泣しながら吠える。

「えーっ?整理現象じゃん。気にすんなよ。人生長いんだから、こんな事もあるって」

普通は無い。

「俺は初めては可愛い彼女とロマンチックに終えたかったんだ!」

「無理だよ、そんなの。初めてどころか、綾瀬の場合はぶつかり稽古にしか見えないでしょ」

亮治は綾瀬の純情を散り散りに粉砕した。

「可愛い彼女は無理だよ、絶対。顔面偏差値八十以上と出来るチャンスなんて俺が誘わなかったらなかったでしょ」

「無いかもしれないけど、あったかもしれない!」

鼻水を垂らし、びちゃびちゃに泣く全裸のゴリラ。同室者の綾瀬が多少哀れに思った亮治。

「しょうがねえなあ。今から女の子連れて来てやるから、ちょっと待ってろよ」

そう言ってスマホ片手に亮治は部屋を出て、三十分後にはなかなかに可愛い女生徒の手を引き戻って来た。

「じゃあ、エミちゃんよろしくね。童貞だから、優しくしてあげてね」

エミちゃんと呼ばれた彼女はウフフて笑って綾瀬に近寄った。

「亮治くんとイケナイ遊びしてたの?私ともしようね」

地獄に仏とはまさにこの事か、と綾瀬は思った。だが、そう上手くはいかない。

さっとセーラー服を脱いだエミちゃんはボンテージ姿に鞭を持っていた。

スパーンッと乾いた音をさせながら綾瀬に近寄るエミちゃん。

程々にね、と声をかけ、亮治は自室を出た。








その日、亮治は機嫌が悪かった。

勿論、周りに当り散らしたり不満を口にするタイプではなかった。その亮治の機微を感じ取れる人間は余りいなかったのだけど、確実に怒ってはいた。

同室者の綾瀬は敏感に察知し、先日の事があった為、触らぬ神に祟りなしを決め込んでいた。要は無視していた。

今までも、別に同室だからと言って、終始くっちゃべっていたりはしなかった。だけど、ここまで不穏な空気は無かったのだ。

亮治は綾瀬が必死に気配を消している事を知ってか知らずか話しかけた。

「あのさあ、綾瀬」

綾瀬は亮治とエミちゃんにやられた尻の痛みがやっと引いたばかりの体をびくりとさせる。そして、顔だけ向けた。

机に向かい課題をしている亮治は話しかけたにも関わらず、振り向きもしない。

「間壁がさあ、最近おかしいんだよ」

亮治は課題から顔を上げ、頬杖をつく。

「おかしいってどんな?俺クラス違うから分かんねえんだけど」

「間壁にはさ。幼馴染がいるんだけど、まあ、頭のおかしな奴で、問題児なんだよ。間壁のストーカーで、追っ掛けて入学してきたんだよ。間壁もすっごい嫌がってたから、協力して引き離したのよ」

「珍しく人助けしたのか?」

亮治は嫌そうにする。

「人助けじゃねえから。間壁を落とす為に当て馬にしようとしたんだわ。そしたらストーカーをパッタリ辞めた訳。そっから間壁が珠緒珠緒って。あ、珠緒ってそのストーカーの名前な」

亮治は実に腹黒い。

「刷り込みか?」

「そう、刷り込み。逆に気になっちゃったみたいでさ。ストーカー煽って追い込んだ方が良かったみたいなんだよなあ。失敗したわ」

亮治は落ち込む。

そう、上手く行き掛けていた計画が、珠緒の思わぬ行動により余り塩梅が良くないのだ。

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