仕掛け
珠緒は一体何を考えているのだろうか。
あれだけ悟に執着していたにも関わらず、亮治との関係を見せたらやけにあっさりと悟を着け纏うのをやめた。
別にいいんだけど───悟はそう思う。が、あっさりし過ぎていて不気味だとも思う。
その直後から始まったこの騒ぎ。
あいつはストレートだったのかと驚いた。
意外だったのは、更に研修合宿の実行委員もやっているらしい事だった。記憶が確かなら珠緒は何か学校の為にやるような性格はしていない。
それに、研修合宿の実行委員は成績優秀者があたると聞いた。少なくとも悟の知っている珠緒の成績は下から数えた方が早かった。一度、学年全体のビリになってしまったとあっけらかんと言っていたくらいである。
まあ、そういったわけで、現在の珠緒の行動は意味不明なのである。
自棄になってしまったんだろうか。
可哀想な事をしてしまったかな、悟は考える。
幾ら度の過ぎた行為をしていたからとは言え、邪険に扱われたら真っ直ぐな人でも捻くれてしまうかもしれない。
悟の過剰過ぎる拒絶が珠緒を捻くれさせ、奇行に走らせてしまったのではないか。
そして、亮治の好意で珠緒に対する見せしめ的なキスが珠緒を自暴自棄にさせてしまったのではないか。
やり過ぎたかなあ、悟はため息を吐いた。
何にせよ、悟以外の事に興味を示した事は良い事だとは思う。
今までが歪だったのだ。普通に勉強を頑張って、学校生活を楽しむ。真っ当だ。そうなると彼女が欲しくなりもするのだろうし、ちょっと遊び過ぎだとは思うが、今までの反動なのかもしれない。
はあ、と悟は何度目かのため息を吐く。
心にぽっかりと穴が空いたようだ。
今までがしつこ過ぎたのだ。追い回されるのが日常になり過ぎて、その分が無くなって空洞になったのだろう。時間が経てば緩やかに戻る筈だ。
そうしてぼんやり考えていると声を掛けられた。
「まだ帰ってなかったのか?」
亮治だった。
「ああ、ちょっとボーッとしてしまった」
「最近ストーカーくんは来ねえな。アヤシイ噂は良く聞くけど」
「今、それを考えてたんだ。やっぱりやり過ぎだったんじゃないのかな。最初のキスは違うけど、二度目からのは亮治の提案で珠緒除けの為にワザと見せびらかしただろ?傷付けちゃったんじゃないかな」
亮治は笑う。
「ショック療法だって。あれくらいしないと諦めてくれないでしょ。嫌だろ?ゴミ箱漁られる生活は」
まあ、嫌だけど。
「大丈夫だって。何か企んでるんだよ、きっと。あの程度で手を引くような根性してないって。ま、やっと距離を置いてはくれたんだから、徐々にこれを普通にしていかないと、ホントに貞操の危機ってヤツになっちゃうんじゃねえの?」
亮治は含み笑いをする。それすらも決まっている。
「心配なら、声をかければいいじゃない。俺を無視してさ」
少し悲しげに笑みを浮かべる。亮治はずるいのだ。悟がそう言われると引けない事を計算している。
「分かったよ。暫く様子を見るよ」
亮治は満足げだ。
悟は窓の外を見る。グラウンドは夕陽を浴びてオレンジ色だった。
★★★★★★★★★
「はっ?今なんつった?」
亮治と同室の綾瀬は面食らった顔をしている。
「いや、だから試させてくれないか?っつったんだけど」
「何を?」
「ナニってセックスだよ」
綾瀬は石のように固まっている。
「女とは勿論あるんだけど、男とはねえから。練習させて欲しいんだよ。傷付けたくないし、この分だとそう遠くない内に落とせる予定なんだわ」
亮治はグレージュの毛先を器用に弄りながら話す。
綾瀬は同室の友人、亮治の奇妙な言動に頭を抱えている。
「あーーー、何か?俺を練習台にしたいって事か?引き受けるとでも思ったのかよ。めでてぇ頭してんな。相変わらず」
普通に嫌だし、と綾瀬は言う。
「そこを何とかさあ。童貞は嫌だろ?な?」
「え?亮治が挿れられる側なんかよ、しかも」
綾瀬は驚く。当然だ。
「いやいや、勃たないよ、普通に」
「俺だって綾瀬には勃たねえよ。やり方さえ分かればやれるじゃん。一度は経験してからじゃねえと好きな奴に試せないじゃねえかよ」
綾瀬はため息を吐く。
「お前最近女関係の話し聞かないと思ったけど、なんかぶっ飛び過ぎてついていけないわ」
「ダメなわけ?」
「いいわけあるかいっ」
綾瀬は鋭く突っ込む。
「減るわけじゃねえし、童貞捨てられるし、何事も経験だろ?」
亮治はシナを作る。
「お前が今すぐ全身整形と性転換をしてきて美少女になってもギリギリアウトだ。無しだ。元を知ってるだけに吐き気がする」
そこまでー?と亮治は驚く。驚く事なんか何もないのだが。
「当てが外れたなあ。じゃあ、先っぽだけでも俺が挿れるっつーのは」
「しつこい!このっ年中恋愛下半身馬鹿っ」
怒られた。綾瀬は怒ると怖い。お母さんのような怖さだ。おかん系キャラだ。