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公爵令嬢の取り巻きA  作者: 孤子
第一章 幼少期
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緊張と不安織りなす優雅な1日 後編

 ガゼボの中に備えられている真っ白な石のテーブルに春らしい白地に桃色と黄色のチェック柄で染められたテーブルクロスが敷かれ、そこにエルーナとメルネアの二人が座るための木造椅子が用意されていた。テーブルの上にはそれぞれが持参した食器とカトラリーがきれいに並べられており、中心から少し外れた所に背の低い花瓶がこの庭で摘み取られた花を挿して置かれていた。


 メルネアが先に席の前に行くと、その後ろに控えていた侍女がスッと音もなく椅子を引き、メルネアが座ると同時に座りやすいように位置を調整する。メルネアが席に着けば、同じようにエルーナが席の前に行って、テレサが椅子を調整するのに合わせて席に着く。


 二人が席に着いた頃を見計らって、お茶会のためのお茶とお菓子を用意する。ガゼボの端に置かれたワゴンから小さく切り分けられたケーキが二人の皿に盛られ、カモミレを中に沈めたガラス製のティーポットを傾けてティーカップに注ぐ。


 主人側の準備を全て整え終えた後、互いの侍女に主人が口に入れるケーキとお茶を少し口に入れて主人に毒の有無を見せた後、ようやくお茶会の始まりである。


 「カモミレの良い香りが心地よいですね。」


 メルネアが目を閉じてカップに注がれたカモミレティーの香りを堪能した後で味わいながら飲む。


 「お口に合いますか?」


 エルーナがそう聞くと、メルネアは静かにカップを置いてにこりと微笑む。


 「ええ。とても美味しいわ。」


 「それは良かったです。」


 エルーナも微笑みながら肩の力を抜いた。カモミレ自体の品質は問題ないが、それを抽出して美味しいお茶にする技術は公爵家に仕える者と子爵家に仕える者では差があることが多い。何度かダスクウェル家に足を運んでその差を知っているエルーナは、こちらで用意したお茶とお菓子に満足してもらえるか、側近ともども肝を冷やしていたのだが、どうやら合格点はもらえたらしい。エルーナもそっとお茶を飲む。


 「それにしても、本当に長い病気でしたわね。出会った頃からそれ程丈夫ではなかったけれど、今回の病気は一番酷かったのではなくて?」


 メルネアの言葉に首肯して、苦い笑みを浮かべるエルーナ。


 昔から同年代の子供よりも体が小さく、丈夫ではなかったので、年に何度も軽い病気にかかっては寝込んでいた。今回の病気はその中でもかなりひどく、おかげでエルーナはエルーナとして生きることができなくなった。


 厳密に言えば、今回の病気は通常の病気とは違い、魔力に影響を及ぼすものであったのだが、それを知るのはエルーナとその体に移った舩だけしか知らない。


 そんなことは当然この場で明かすこともできないので、エルーナはただ今回の病気の程度が辛いものだったことを肯定するだけにとどめた。


 「そうですね。横になっていた時間で言えば最も長く、食事をとれなくなるのも長かったですし。ですが、もうこの通り治りましたので、心配はいりませんよ。」


 元気になったことを見せるために笑って見せると、メルネアは途端に顔をしかめた。何故メルネアがそんな顔をするのかわからずにエルーナが首を傾げると、それを見たメルネアが小さくため息を吐いた。


 「心配しないわけがないでしょう。聞きましたよ。一度死にかけたのでしょう?」


 死にかけたという言葉に内心エルーナはドキッとするが、それに気づかずにメルネアは続ける。


 「そうしたらどこからともなく光が降り注いでエルーナを包み込み、一度は天に召されたと思われたあなたが息を吹き返したと。何処までが事実なのか、何らかの奇跡なのかはわかりませんが、どちらにしても今こうしてゆっくりとお茶を楽しむこともできなかったかもしれないというのは事実です。」


 そこで言葉を切り、目を細めて睨むようにエルーナを見つめる。メルネアの目は真剣そのもので、とても口をはさむことができる雰囲気ではない。


 「エルーナ。あなたは私の大切な友人であり、ずっとそばにいてほしいと思う存在です。私の目の届かないところで知らぬ間に消えてしまうようなことは許しませんよ。」


 メルネアの言葉に急に胸が熱くなり、涙が零れそうになった。エルーナはなぜここまで反応してしまったのか理解できず、ただ、この場で涙を流すこと、取り乱すことはできないと理性を働かせて、溢れかけた涙を必死で押しとどめる。


 (だめよ。貴族が人前で泣いてはダメ。どんな時でも気丈に。悠然と。)


 どうにか感情を抑え込むことに成功したエルーナは一度呼吸を整えると、メルネアに首を垂れた。


 「仰せの通りに。決して、メルネア様の知らぬところで消えたりはしません。」


 エルーナの言葉を聞いて安心したメルネアは置いていたカップを手に取ってお茶を飲み、ケーキを口にする。場の雰囲気は元通り柔らかなものに変わった。


 その後は軽い世間話をした。今頃はどんな花が見頃かとか、最近知り合った同年代の子供の事、エルーナが寝込んでいた間にあった様々なことなどを話題に上げる。


 「そういえば、エルーナはまだルディウス王子にはお会いしたことがなかったかしら?」


 メルネアが思い出したように尋ねる。エルーナは目を伏せてしばし記憶を探っていたが、名前は知っていても顔が思い出せず、あったことも無かったはずだと思い、首を横に振る。


 「お話は聞きますが、まだ会ったことはありません。」


 「そう。なら、今度開かれる王宮でのお披露目で私から紹介しましょう。私たちと同じ歳ながらとても立派な方よ。」


 そっと微笑むメルネアの姿はどこか恋する乙女のようで、適齢期も低く、教育も厳しいこの世界では色々と早いのだろうかと薄っすら考えたエルーナはすぐにその考えを払った。


 (明確な恋の意識というよりは、好きという言葉で一括りにされた曖昧な物よね。私も小さい頃お父さんと一緒に遊んでいた男の子と同じように考えていたし。)


 今現在小さいエルーナが悶々と考えている間にその日のお茶会は無難に終わり、不信感を抱かれることなく夕食となった。


 夕食は昼食よりも品数が増えて、フルコースのように少しずつの料理を次々と出されることになっている。前菜には街でよく取引する商会から新鮮なものを取り寄せて、彩りよく見せるために庭に植えられている食べられる花の花弁を散りばめていたり、他のスープやメインなんかは昼食の時よりも重めの品を用意している。


 もてなすことを優先して考えたメニューであることは言うまでもないが、もう一つの理由として、エルーナを太らすためにわざと多めに作らせているということもあげられる。


 そんな家族の配慮はとても嬉しいエルーナであるが、昼食後にはお茶会にてケーキを食べ、それ程経たずに夕食という事になったので、既にそれ程お腹は空いておらず、むしろスープを飲んだら御馳走様と言ってカトラリーを置いてしまいたいと思っているほどだった。


 (結構ケーキが美味しかったから、ペース配分とか前々期にしてなかったよ。失敗失敗。)


 お腹は空いておらずとも、両親の心配り、そしてエルーナがやせ細っている事を気にするメルネアのためにも、無理を押して食べなければならない。せめて、デザートに行きつくまではと腹をくくった。


 その結果、限界ギリギリまで押し込んでメインの半分まで食べた段階で両親から遠回しにカトラリーを置くように言われ、メルネアからも心配されるほどに青い顔になってしまった。


 「無理をしなくてもいいのよ。食べられるだけでいいから、そのように余裕のない顔をしながら食べるのは止めなさい。」


 一応歓談しつつ優雅に食べているつもりだったのだが、周囲には鬼気迫るものを感じたらしい。メルネアも頷きながら苦笑する。


 「私も悪かったわ。あなたが元気である事、元に戻ろうとしていることは十分わかりましたから、明日からも無理をせずゆっくり体を休めて頂戴。王宮でのお披露目は一月後だから、それまでにできるだけ戻しておけば構わないから。」


 「わかりました。ご心配おかけして申し訳ありませんでした。」


 こうして夕食も一応平穏に終わり、次の朝、メルネアはエルーナに見送られながら屋敷へと帰っていったのだった。


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