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公爵令嬢の取り巻きA  作者: 孤子
第一章 幼少期
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王子お披露目 城門前

 瞬く間に時間が過ぎ、エルーナの心の準備ができるのを待たずして、とうとうルディウス王子のお披露目が行われる日を迎えた。


 エルーナは朝早くから身支度や贈り物の確認、贈り物を贈る際の言葉や段取り、その後の行動に至るまで今日一日の予定を復習したうえで、両親と側近と共に城へと向かう。


 両親のそれぞれの側近とエルーナ自身の側近を合わせれば、護衛騎士は10人を超え、侍女も執事も合わせればかなりの大人数となる。そのため、何台もの馬車を使って移動することになるのだが、それは貴族全員が言えることであり、子爵家であるエルーナ以上の地位にあるものならばそれ以上の人を連れていて、城へと向かう馬車でちょっとした渋滞となっていた。


 窓の外から見ることができる渋滞の様子にエルーナはそっと息を吐いて、少し硬めの座席の背もたれに体を預ける。あまり見目も良くなく、だらしなく見えるので普段ならば怒られるのだが、今馬車の中にはエルーナとその側近であるテレサとアルテ、女性の護衛騎士であるカティラがいるだけである。この3人はエルーナが幼い頃から付けられている側近なので、今更気を張る必要はない。側近を取り仕切る立場にいるテレサは目をすがめるが、注意を飛ばすことも無いので、この場でならギリギリセーフという事なのだろう。


 (いや、本当はアウトなんだろうけど、少し長くなりそうだら目溢ししてくれてるんだろうな。)


 テレサに限らずだが、エルーナの側近は基本的にエルーナに対して対応が甘い。普通の側近ならばすぐに叱りつけて直させるところを、軽く注意するのにとどめたり、あえて何も言わないでおいてくれたりするのである。


 その理由は偏にエルーナ自身が自分に厳しい性格であり、側近が何も言わなくても自分で間違いを正し、誤りを矯正し続けてきたからである。やるべきこと以上の事、やっておいた方がいいこと以上の事、できればいいけれど今はできなくてもいい事以上の事と、どんどんと自分のハードルを上げ続けるエルーナの姿を見てきたからこそ、たまに気を抜いた姿を見せても許してくれるのだ。世にいう、日頃の行いというものである。


 (私にはとてもできないよ。できるなら楽に生きたいからね。)


 海鳴 舩という人物は、決して無理をせず、ほどほどにきちんとして、楽しく暮らせればそれでよいというような生活をしていた。大学生活でも友達と遊びつつ、必要な勉強はして、余った時間はゆったりと過ごしていた。自分を追い込んで磨いていくなんてことをしたことが無く、ましてやエルーナのように小さなころからそれを心掛けたことなど今までなかったのだ。


 だが、舩はそんな人生をエルーナから引き継いだ。頼まれてしまい、引き受けてしまった。勝手に押し付けられたのならばいざ知らず、約束したことを自分勝手に反故にすることなどできなかった。


 (自分で決めたこと。だから、私も精一杯頑張らなきゃ。)


 生まれ変わってからこの短い期間に何度したかわからない活を自分に入れて気合を入れなおしていると、エルーナと同じように外を窺っていたテレサがエルーナに目を向けた。エルーナがテレサの視線に気づいてテレサの方に顔を向けると、テレサは困ったような笑みを作る。


 「城に着くまでは今しばらくかかりそうですね。」


 テレサの言う通り、今は城に辿り着くための大通りに貴族の馬車が長い列をなしており、牛歩のごとき鈍い動きで進んでいるのだ。城に入るには城門にて検問が行われ、馬車の中身や贈り物の点検、不審者が紛れ込んでいないかどうかが厳しく調べられる。


 そのためにこれ程多くの貴族と関係者が城に上がるとなると、どうしても混雑して渋滞を作ってしまうのだ。


 防衛面から見ても城門を多く作ることはできず、南東と南西にある二つしかない門を開いて受け付けている。実際は城の裏側、山を背にしている北側にも小さな門があるのだが、そこは緊急避難用の門であるため、普段は固く閉ざされている。もっとも、その門へ続く道は王族と一部の有力貴族にしか知られていないので、向かう事すらできないが。


 ともかく、この日のために多くの貴族が内外問わずに王都に集結し、城に向かうのだから、馬車の中で少々待つ程度は最初からわかっていたことである。


 エルーナはテレサの言葉に頷き、もう一度窓の外を眺める。


 「1時間ほどはかかりそうね。まだ少しでも進んでくれているのが幸いよ。」


 「余程の事が起こらなければ検問に引っかかることはないでしょうし、第1王子のルディウス王子のお披露目に騒ぎを起こすような派閥もいないでしょう。噂に聞くと、ルディウス王子は大そう利発であらせられるそうな。次期国王となっても誰も文句が出ないほどに優秀だそうですよ。」


 どこでそんな話を聞いたのかはわからないが、テレサはルディウス王子の事を少し聞いているようだった。


 その話によると、とてもしっかりしていて、優しい一面を持つのだが、時に感情を排した判断も取ることができるらしく、国王としての素質を十全に備えているのだという。今日で5歳になるような子供を見てそのような判別ができるのかエルーナは半信半疑であったが、すぐに窓に映った自分の姿を見て思い直した。


 (エルーナも似たようなもんか。メルネア様もしっかりしている印象だったし、この世界の子供は本当にすごい。)


 それが貴族の教育のたまものなのか、この世界の子供が特殊なのか。そんな事を頭に浮かべていると、テレサの隣に座るアルテがテレサに首を傾げて見せた。


 「それってエルーナ様と同じくらいしっかりされた方という事ですか?」


 アルテの問いにテレサは即座に首を振った。


 エルーナはルディウス王子の方がしっかりしてるんだろうな。王子様だし。と呑気に思っていたのだが、テレサの答えは全く違った。


 「不敬かもしれませんが、エルーナ様ほどしっかりとされた方がいるはずありません。ルディウス王子も確かにしっかりとされているのでしょうが、エルーナ様ほど自分に厳しく、努力される方ではないと思いますよ。」


 物凄く直球な物言いであり、褒められることはエルーナにとって嬉しいものだが、もし他の貴族に聞かれていれば不敬にも程があるだろう発言に、エルーナは内心冷やりとする。


 エルーナが慌てて否定しようとするが、口を開く前にエルーナの隣に静かに座っていたカティラが大きく頷いて同意した。


 「それはそうだろうな。エルーナ様ほどのお方がそうそうおられるはずもなし。私はそんなエルーナ様にお仕え出来て嬉しく、誇らしく思います。」


 周りには男の騎士がほとんどであるために、口調も性格も少々男勝りなカティラが恥ずかしげもなく恭しい態度をとる。


 狭い馬車の中で座席に座ったままの略式的な礼ではあるものの、まるで忠誠の誓いを立てる時のような真剣な態度に言葉が詰まり、エルーナは目を逸らした。


 「あ、あの、カティラ。あなたの忠誠はわかりましたし、テレサの褒め言葉もありがたいのですけれど、他所では絶対にそのような話をしてはいけませんよ。」


 エルーナが釘を刺してみるものの、テレサもアルテもカティラもそれは重々わかっているようで、苦い笑みを浮かべた。


 「勿論ですよ。こんな話、外ですれば大事になります。エルーナ様と私たち3人しかいないこんな時だからこそ話しているのです。」


 「流石にそんな迂闊な事はしませんよ。下手をすれば私たちだけじゃなくてエルーナ様やエドワルド様やカトリーナ様の評判にまで傷をつけますし。」


 「私も心の中ではいつも思い続けていますが、公私の区別はつけているつもりです。ご心配なさらないでください。」


 三者三葉の言葉が返ってくるが、皆総じて「本心ではエルーナ様が一番です。」という言葉が隠れていて、エルーナは思わず顔をひきつらせた。


 「それなら、まあ、いいです。」


 渋々ながらエルーナは話を終える。これ以上話しても、むしろ自分を褒め続けられるだけで話が覆ることなどないだろうと早々に諦めた。


 褒められることは素直にうれしいし、忠誠を誓われるのもありがたいことである。ただ、それは生まれ変わる前のエルーナに向けてのものであり、自分がその言葉を聞くのは抵抗があった。


 期待が重い。忠義が重い。しかし、それが人生を引き継ぐことの重さであり、これは放り出せないもの。背負わなければいけないもの。これからその忠義や期待がちゃんと自分に馴染むようになるのだろうか。自分のものになっていくのだろうか。


 これから先の未来はまだ見えないが、今回の重要イベントが行われる会場である城の城門には目と鼻の先にまで迫って、確かな存在を主張しているのだった。


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