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「行方不明になった恋人を見つけ出したら洗脳されている」状況を全力でハッピーエンドにしてみた。

作者: 水嶋穂太郎

水嶋穂太郎さんは

「行方不明になった恋人を見つけ出したら洗脳されている」状況を全力でハッピーエンドにしてください。

クリアできた貴方の人間レベルは【25】です。

#バッドエンドを覆せ

https://shindanmaker.com/716282


=====================================



「あれがお前の捜し求めていた恋人なのか?」

「ああ、間違いない。月日が経ってかなり大人びてはいるが、容姿からして間違いない!」

仲間のひとりの問いに、俺は力強く肯定した。


「えっれぇべっぴんさんやのお! おみゃーにゃもったいないんじゃにゃーか!?」

「そうそう俺にはもったいないくらい美人なんだ……そして性格もいい!」

他の仲間が、からかってきた。

俺は素直に肯定する。あんなにいい女が俺を好いていてくれたなんて、信じられない。

いったい俺のどこがよかったというのか。


「ほれい。呆けてないでさっさと感動の対面を済ませてくるがよいぞ」

「わ、わかった!」

恋人を探す旅で、本当に俺はいい仲間とめぐり会えた。

こうして快く送り出してくれる奴らばかりなのだ。

だが、この旅ももうすぐ終わってしまう……。


彼女に向かって、一歩。また一歩と足を進めていく。

仲間たちの視線を感じて、後ろ髪を引かれる想いがないはずがない。

しかし俺は旅路の終わりを踏みしめる。

「よ、よう……ひさし、ぶりだな」

「……?」

「俺のこと、覚えてねえか? その……こいび」

「わたくしにお声がけをされているのでしょうか?」

「お、おう」

「どちら様でしょうか。申し訳ございませんが、わたくしには意中の殿方がおりますので、こういった……あ、逢い引きと思われるようなことはご遠慮を願いたいのですけれど……」

俺のことを忘れているのだろうか。

もしそうだとしても違和感が拭えない。

忘れられているだけならば……そうだ、こんな嫌悪を滲ませた表情なんてしないはずだ。


「いやぁ、こんなところにいたのね! あんたってば美人ときたら見境なくってほんっと困るわねえ!」

「!? あっ、こらおめえ!!」

仲間である女が唐突に乱入してきた。

この女は、とある高名な賢人の弟子で、不思議な力を使って何度も危機を救ってくれた頼もしいやつだ。

首をからめ取るように手を回し、肩をぐっと掴まれた。

(静かに聞きなさいね……?)

(な、なんだよ?)

(あの娘は洗脳されているわ)

「なっ!」

「いきなり押しかけてごめんなさい、ほっほっほ!」

思わず俺は声を上げてしまった。

(静かにしなさいと言ったでしょう。ただでさえあの娘に不審がられているのだから、調子を合わせなさい)

(どういうことだ?)

(あの娘からどうにも禁呪の気配がしたものだから、仕方なくこちらも禁呪で頭のなかを覗いてみたのよ)

(禁呪……)


この世には『魔術』や『魔法』、『まじない』や『のろい』といった超常の術があると、旅のなかで教わった。

基本的には人々を豊かにするものだという。

しかし、なかには忌避すべきものとして【禁呪】と呼ばれるものもあるらしい。

【禁呪】には、鬼畜の所業とさえ言われるものもあると聞く。


(よく聞きなさい。あの娘にはある特定の男に恋をする術がかけられているわ。他者の心や魂を縛る術はまさに禁呪のなかの禁呪よ。……念のいったことね、あんた個人に対して嫌悪するようにもなっているわ)

(解除する方法はないのか?)

(ないわ。ないからこそ忌避されているのだから……、でも)

(でも?)

(対処法なら、ないわけではないわ)

(なら!)

(禁呪には禁呪。現在あの娘が好きになっている対象を嫌いになるようにして、あんたを好きになるよう上書きする手段なら残されているわ)

(それは……)

彼女を縛る鎖をさらに増やし、苦しめることになるのではないだろうか?

そんなものが果たして幸せと呼べるのだろうか?


俺は肩にかかった仲間の腕をほどき、ふたたび捜し求めていた恋人と向き合った。

「あの」

「なんでございましょうか?」

「あなたはいま、幸せですか?」

「はい! とても!」

彼女は満面の笑みで答えた。

その笑顔で、俺は報われたような気がした。

いや、報われたと思いたいだけかもしれない。


彼女が着ているような豪奢な服を、俺は用意できるか――否。

俺は彼女に見合った男であると断言できるだろうか――否。

彼女の幸せを奪う権利がいまの俺にあるだろうか――否。


俺が願うのは彼女の幸せだ。

離ればなれになってしまったきっかけがどうであれ、いまの彼女が幸せならば俺は満足できるのだ。

「すみません、人違いだったようで……お騒がせしました」

「いえ、あなたの明日に今日のわたくしが映っていることをお祈りしておりますわ。ではご機嫌よう」

「ああ、さようなら」


さようなら。


俺はその場で仲間の女としばし立ち尽くした。

「あれはどういう意味だったのかしら?」

「どのあれだ?」

「とぼけないで。『あなたの明日に』とかなんとか、よ」

「ああ……あいつの口癖さ。今日の自分が明日の他人にいい影響を与えられるように、って願いなんだとさ」

洗脳するのなら、徹底的にやっておいてほしかったもんだ。

おかげでいらない感傷にひたることになっちまった。

「そう。……いつかあんたのことも思い出してもらえるといいわね」

「思い出して苦しくなるくらいなら、そのままでいいさ。さ、仲間のもとに帰ろうぜ」

「仲間、ね……」

「な、なんだよ。じろじろ見て?」

「んー、こっちの話よ」

「んだよ、気になんだろ!」


女はそれ以上はなにも口に出さず、どこか上機嫌な笑みを浮かべていた。


離れた路地裏から、仲間たちが手を振っている。

はて、彼らとの距離はこんなに遠かっただろうか?


横を歩く女も仲間たちに向かって手を振って応えた。

はて、《彼女》との距離はこんなに近かっただろうか?


きっとこの疑問も、これからまたはじまる旅のなかで答えが見つかるだろう。

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