金もうけに法則なし (ショートショート72)
銭亀金蔵著「金もうけの法則」がベストセラーになってから三年がたつ。我が出版社としても、久々の大ヒットセラーであった。
銭亀先生は本のヒット以来、講演会、テレビのコメンテーター、雑誌のコラムの執筆と、なにかと多忙のようである。
今回。
私は「続・金もうけの法則」の著作をお願いしようと、銭亀先生のお宅を久方ぶりに訪問した。柳の下のドジョウではないが、ベストセラー二匹目をねらってのことだ。
屋敷や家具は、三年前に訪れたときと少しも変わっていなかった。
収入は格段に増えただろうに、生活は以前と変わらず質素そのものである。金もうけの法則そのままを実践されておられるようだ。
「さすが先生ですね」
私は先生の謙虚さをたたえた。
「いやあ」
銭亀先生が頭をかいて照れる。
実に謙虚である。本当の金持ちほど、生活やお金に謙虚なのだろう。
私はさっそく仕事の件を切り出した。
「金もうけの法則の続編をお願いします」
「それならすでに書いてあるよ。そんなこともあろうかと思ってね」
「さすがですね」
あらためて銭亀先生を敬服する。
今後の日程などの打ち合わせをして、私は先生のお宅を退いた。
私は銭亀先生を探している。
銭亀先生はあれからすぐに、どこかに姿をくらましたのである。
巷のうわさでは……。
銭亀先生は株で大損をし、その損を取りもどそうと銀行から多額の借金をしたが、借りた金もすべて失ったらしい。家屋敷も差し押さえられ、今は闇金融の怖いお兄さん方に追われているそうだ。
もし銭亀先生と会えたなら、新たな著作をお願いしようと考えている。
タイトルは「金もうけに法則なし」である。