エンドレスの始まり
研究所は跡形もなく吹き飛び、わたし達は混乱に乗じて逃げ出した。
わたし達が去った後、警察や消防車、あるいはマスコミ達が詰めかけたらしい。細菌研究所の爆発事故だけに、生物災害がなかったかどうか、厳重に調べられた。関係者などの事情聴取も行われたらしいが、幸いなことにわたし達の所までは来なかった。
まあ、わたし達のことを話せばこまるのは向こうだから、皆口をつぐんだみたい。
結局、爆弾テロ事件という警察の発表があったけど、迷宮入になりそう。証拠のほとんどは瓦礫の下に埋まり、焼けてしまっているし、関係者も知らぬ存ぜぬを決め込んでいるのだから、当然といえば当然か。
一週間くらいはTVでもこのニュースは大きく取り上げられたが、今はもう別のニュースに取って代わられた。
慎二さんを失ったわたしも、最初の二、三日は涙が止まらなくて、うさぎさんの様な真っ赤な目をしていたけど、もうだいぶ落ち着いた。時折思い出し、涙を流すけど。
よっていつも通り、平穏な日々が送られるはずであった。
なのにわたしは、重い足を引きずりながら生徒会長室へ行く。
そしてドアを開けようとして、中からけたたましい笑い声が聞こえたので、わたしは思わず手を止めた。
『こいつはいいぜ』
『でしょ? 苦労しましたから……』
などという、麗香と龍子の会話が漏れ聞こえる。
わたしは何がそんなにおかしいのだろうと思いつつ、ドアを開けた。
ピタッ。
そんな音がしそうなほど、笑い声はピタッと止まった。
二人はわたしの方を見る。
「わっはっははははは」
「ぷっ、うふふふふふ」
そして麗香と龍子は、わたしを見て大笑いしたのだ。
わたしを見て!
?・?・?・?・?
「なにがそんなにおかしいの?」
わたしはそういいながら、彼女達の方に近づいた。
えっ! なにこれぇ!?
わたしは、テーブルの上に広げられた何枚もの写真を見て、絶句する。
そこには、わたしのあられもない姿が、散乱していたのだ。
「れいかぁ!」
もちろんその写真は、麗香の家で撮られたものだ。
「よく撮れているでしょう?」
よく撮れているでしょうじゃないわよ、麗香。
なに、これ。
このたぬきの着ぐるみ着て、シェーのポーズしていたり、不思議の国のアリスみたいなエプロンドレス着て、おっきなテディベアのぬいぐるみ抱かされていたり……
「なかなか大変でしたのよ。着せたり脱がしたり。香澄が軽くてよかったわ」
「軽くてよかったわ、じゃないわよぉ」
「いやあ、ほんと、よく撮れているよ。香澄はうさぎよりたぬきの方が似合うかも。なかなか、かわいく撮れているぞ」
りゅうこぉ。
わたしは完全に二人のおもちゃだ。
まあ、危ない写真じゃなくてよかったけど。
麗香ったら、わたしのこと、からかったんだ。わざわざあんな丸裸にしておいて、変な想像(きゃっ!)させておいて、実はこんな写真撮っていたわけだ。
「他にも、キリンさんとか、しまうまさんとか、ぞうさんとかもあるから、今度はちゃんと起きている時に撮りましょうねっ!」
なんでそんなものあるのよう!
きっとわたしに着せようと思って、そろえておいたのだろう。
「そんなの……」
わたしは、そんなのいや、といいかけてやめた。ほんとはいいたかったけど。
「うん、わかった。キリンでも、しまうまでも、ぞうにでも、もうどうにでもして……」
二人はぎょっとして、わたしの方を見る。
「か、香澄。また……か?」
龍子は一歩引き、身構える。
「今度は、着ぐるみだけじゃすまなくてよ」
慎二さんのこと思い出したら、すごく悲しくなって、気が付いたら、わたしは仮想現実世界にいた。
そこでミスティは、色々とやっちゃったらしいのだ。
例のごとく、あんまり詳しく覚えていないけど。
「麗香、龍子、おねがい、なんでもするから助けてちょうだい」
わたしは二人に哀願する。
さらに弱みを握られたわたしは、ますます彼女達のおもちゃになるだろうが、この性格を改めない限りトラブルの種はつきそうにない。
「今度はどうしたのかしら?」
わたしは麗香の楽しそうな微笑みを見ながら、もっと強くなろうと誓った。
でもこれ、何度目の誓いだったかしら?
思い出そうとして、やめた。
とても数えきれそうになかったからだ。
当分、彼女達のお世話になるのは、間違いないらしい。
END……LESS
第一章終了。
次回より第二章となります。