企む者
ただで送り出す訳じゃぁない様です
受付嬢に案内されてその子が私の元にやって来た。準“旅人”という形でこの“街”に居ついているちょっと変わった毛色の“犬耳”の女の子。レベル的にも能力的にもまだまだ殻が取れたかどうかといった所だが、兎に角“クエスト”を選り好みしない事が特徴な子だ。普通は“クエスト”に飽きたりすると去る事が多い“旅人”達と違って飽きた顔もせずに“クエスト”を回している。こないだからは女性だと避ける様な家屋の修繕といった様な“クエスト”も時々回し始めた。最初は加減が分からなかったらしくて無理をしてた事もあった様だが“クエスト”を出す側にはなるべく軽い作業に回す様に指示は通達しておいたので最近は楽そうだ。
今回その子を呼んだのは“都会”から“街”に“学生募集”のお知らせが来たからである。正直ついに来たかと言った所か。“街”や“迷宮”の裏方支援職に付いた中でも有能な者には既に“都会”からの引き抜きの話が出て来ている。“表”側からだけでなく“裏”側からもそういう話をされるのは正直困るのだが、これは表側からのアプローチの手段の一つなので余り無碍にも出来ない。・・・それならばいっその事対象者達が面倒な事に巻き込まれる前にこちらから送り込むのが親代わりたりえる我の役目の一つでもある。
「そろそろ“都会”に行ってみないか?」そう言われると予想もして無かっただろうその目が何かの聞き違いか?と問う様に見開かれた。ポカンとしているその子に告げる。「あぁ、すまんな。勘違いさせたか。お役目御免とかそういう意味じゃないんだ。」机の上で手を組み、「おまえさん“都会”で“学校”に行ってみる気は無いか?」とにっこり笑って話を切り出した。
「無論、学費や滞在費なんぞはおまえさん持ちだ。こちらとしては送り出すだけで精一杯だしな。だがいきなり入学する羽目になるかよりかは楽だぞ?こちらとしても“学校”に送り込めたという“実績”が手に入るのは悪くは無いし、おまえさんの将来の為にもなる。」とある程度“裏”の匂いを漂わす事も忘れない。
将来的にその子がこの“街”に戻ってくるかどうかまでは強制は出来ない。だが少なくともこの“街”がその子に関わってるという事実は確実に残るのだ。例えその結果が良い事でも悪い事であったとしても。
「まぁ今回“学校”に行かせる候補はおまえさんだけという訳ではないし、別に断ってくれても構わない。さて、どうするかね?」と逃げ道もある事も教えておく。・・・答えは分かってるだろうに。
「行くのならそんなに急がなくて構わん。“村”に寄って報告していく時間位はあるだろう。おまえさんなら“都会”でもやっていける。良い結果が残せる様に努力だけは忘れるなよ?」
秘蔵っ子を送り出すかの様にその子を取り締まり役室から送り出した。とりあえずは一役つけたか。
とりあえず今後の指針としては“都会”での生活描写が一段落するまでを予定してます。それ以後は未定です。




