臆する者は侮れない
3匹目の子の名前決定ー。何故かM系に偏ってるのは気のせいだ(
世の中にはいろんな音が一杯だね。普通のヒトなら単なる雑音として聞き逃してしまう様な音でもそれぞれに意味がある。衣擦れの音一つとって見ても感情が籠ってたりする。だからあたしは怖い。
いつその想いがこちらに悪意となって向けられるかすら・・・多分分かるだろうから、それを知るのが怖い。平気で居られなくなるだろうから。皆良く感情だらけの空気の中で平気で居られるね?
あたしの頭には“うさ耳”が生えている。尻尾も当然うさ尻尾。何故なのか“うさ耳”は人に人気が高い。
特に男のヒトには好まれる。あからさまに向けられる好奇なその目や気配に怯える様になったのは何時の頃からだろう。取って喰われる訳じゃあない事は分かってる。ただ“魔物”の兎種を観る度に同情しかけたくなるのも何となく分かる。弱いのはひたすらに弱いから。ただ中にはどう極限を極めたのか一撃でヒトを屠れる存在として恐れられてるのも世の中にはいるんだって。ちょっと毛色の変わった“犬耳”の女の子が教えてくれた。何処でそんなの知ったんだろ。“旅人”から聞いたのかな?何となくその兎種に憧れてみたり。
今日も村の子どもの世話役のミラさんの所に遊びに来て見たら垂れ“犬耳”のミリーが部屋で何時もの様にひっくり返って目を回してるし、例のあの子も部屋の隅で絵本をパラパラと捲りながらため息付いてるし。
武器がどうのこうの呟いてるけど、何か紅い旋風があたしの脇を通り過ぎていったのは気のせいだよね?
なんかキザったらしい笑い声が虚空に聞こえつつ消えてったみたいだけど。・・・幻影の一種なのかな。
「あの・・・。」思い切ってあの子の背に声を掛けてみる。我ながらおどおどした消え去りそうな声で。
あの子はこの“村”に来た時から何故か親近感を感じてる。借りて来た“ねこ耳”の子の様な“犬耳”なんだけど“犬耳”っぽくないその感じ。発する音ですら私と同じ様に何処か慎重で世の中を常に伺っているのかその良く動く“犬耳”に。何よりミリーや他の“犬耳”の子よりも尻尾が碌に動かないのが印象的だった。
大分慣れたのか普通の子の様に表情は豊かにはなってるけど、あたしみたいにいつもどこか構えてる姿勢を崩さないのでいるのは分かる。あの子に最初に骨っこあげた時に硬直してた事で確信した。あの子は私と同類なんだって事を。寧ろあたしの方があの子よりもいい環境に居た事を知ったのもその頃だったな。
ミラさんが引き取ってくれたとは云えあの子には本当の家も家族が何処に居るのかすら分からないんだから、あたしなんか恵まれ過ぎている位なんだ。そう思い至った時、あたしの他人に対する怯えが急速に薄らいでいったんだ。怯える事自体は減らないけれど。だからあの子には心の中でいつも感謝している。あたしの目をもう一度世の中に向けて見開かせてくれた事を。
「ん?なあに?どしたの?マリーちゃん。」耳をピクリと動かして振り返り何時もの様にあたしの名を呼んでくれるその目に一瞬警戒の色が浮かぶのも相変わらずだけどそこが何処か小気味いいんだよね。
「ミリーちゃん・・・どうしたの?」「んー?あぁ何時もの事だよー。尻尾の追いかけっこ回しー。」
あたしは知っている。にこやかに笑うその顔の何処かにいつも寂しげな気配が漂ってる事も。こないだ“街”に行った時に探る様な目付きでいろんなヒトの顔見上げる様にナニカを探し回ってた事も含めて。
まるで“村”に来た時の様にまだ迷い子な状態の時の様な雰囲気は直ぐに消えたけど、ちょっと肩を落とした時のその寂しげな音をあたしは聞きのがさなったんだから。
「ふーん。そうなんだ。あいからずだね。そっちは今、なにやってるの?」「あ・・・。えーとぉ。私の将来について、とか???」「・・・将来?武器じゃなくて?」「ぐ。」
・・・だから。バレバレなんだってば。正直に言いなさいよ。あたしが聞いてあげるからさ。
ホントはもっといろんな名前の子が居たりするんだろうけど全部“名前付き”にしちゃうと大変なんで今はこれ位が限界かな。




