木漏れ日の中で
転生直後はこんなもの
「おはよー・・・」自分以外いない洞穴に寝ぼけた小さな声が木霊する。
狐耳の少女はボリボリと頭を掻きつつ寝床から起き上がり、薄暗い洞窟内を見回してため息を付いた。「・・・はぁ。そういや私は“転生”したんだっけ。」
何処からか日の光が差し込んできている。洞穴の入り口からの様だ。
「とりあえず、外に出てみるかな・・・」彼女は念の為に四つん這いで洞穴の外へと歩みだした。まだ2足で立って歩くだけの自信が無かったからだ。
「おー。」洞穴の外には森が広がっていた。前世の知識が正しければだが。山の麓に在るのだろう断崖の岩の割れ目らしき洞穴から這い出した彼女は入り口からちょっと脇にそれると背中を岩に預けつつ慎重に2足で立ち上がってみる。この身体が2足歩行なのか4足歩行なのかは実際に体感してみなければ彼女自身にも分からないからだ。
「・・・ん。ここまでは良しっと。」今度は両手をしげしげと見る。ぱっと見は人間の手だ。ぐーぱーしてみれば、果たして手は思い通りの人間の手の感覚があった。
「安心した。獣の脚みたいだったらどうしようかと思った・・・」
無論4つ足なら4つ足ならではの生活は出来るだろう。獣人にもいろいろな括りがあって2足歩行の者から4足歩行の者まで様々な形態がある事は前世の知識から分かってはいる。だが生活するとなるとまた別な問題があるのだ。
「とりあえず“獣人”といっても“けも耳”に近いみたいだね・・・。尻尾は・・・うん。やっぱり狐だわ。こりゃ。」女の子は試す様にさらにその目を全身になぞらせて行く。その目の先には腰の辺りから狐の尻尾が垂れ下がっているのが見えた。感情によって振れる尻尾は抱き付けば多分狐の匂いがするのだろう。耳も違和感無くピコピコ動かせる様だ。
(多分元々耳動かせる特技があったからかなー?聞き耳立てるのにも向いてそうw)
身体の方はというと昨日の夜寝る前に触感で確認はしたがどうやら簡易な頭被衣みたいな服を着ている事から“獣人”は衣服を着る習慣がある事は推察できる。靴は履いてない。そういえば洞穴の中には道具や他の衣装の類いは何も無かった。彼女が寝ていた枯れ葉や抜け毛で整えられた粗末な寝床は多分前に住んでいた何かの住人の物なのかも知れない。あの抜け毛は狐のそれでは無かった気がする。
「んと。“転生”したんなら、何か特別な能力とか、あるのかな。」
経験から≪暗視≫があるのは分かっているがそれが元々の能力なのかスキルと呼ばれてる物なのかまでは彼女自身が判断出来るだけの材料はまだ無い。
「この世界に“人”がいるかどうかも分かんないしね。・・・この今の言葉が通じればまだいいんだけど。」少女は森の梢から僅かに見える空を見上げると意を決した様に歩きだした。
「お。ちゃんと2足で歩けるね。順調順調♪」一人ぶつぶつ呟きながら少女は世界へと歩き出す。
ぐぎゅるる・・・
「まずは食べれる物探さないと・・・。」
数十分後。散々森の中をさ迷ったあげく彼女は頭を抱える事になる。
「どれが食べれる物なのか分かんないよ・・・」
次回はいよいよ“人”との邂逅予定。若干描写を修正しました。