01 〜始まり〜
お待たせしました。第1話です。
時は戻って現在
俺は、目の前に俺がいて自分の体が階段から落ちたはずなのに痛くないという全くもって理解ができない状況に陥っていた。
というか、何で目の前に俺がいるんだ?俺は俺だろ?そんなことを考えていた矢先に、玲奈が
「勇人なの?」
と言った。
俺のいつもの声よりも高めの出そうと思えば出せるが、女子みたいだということでいつもは絶対に使わない声で、俺のことを玲奈が呼ぶときみたいなでも少しなにかに怯えているような抑揚で呼んだ。
「玲奈・・・なのか?」
玲奈が呼んだと理解した直後に口から飛び出した。
だが俺から出てきた声も、自分のものではなくむしろ玲奈の声を低くして抑揚以外はおおよそ玲奈のおのだと判断できるくらいの声だった。
「そう、だと思う。ごめんねお姉ちゃんなのに頼りなくって。
でもまだ私も何が起こったのか理解できてないし、頭もぐちゃぐちゃででも勇人が無事でよかった。
途中で飛び・・降りて来たときは・・・すっごく心配したんだから・・・・ね」
そう言い終わると、玲奈は声を圧し殺して泣き始めた。
俺は自分が上になっていることに気づき、自分が下になるように寝返りをうってから、玲奈をギュッと抱き頭を撫でた。
端から見ると、どうみてもラブコメのワンシーンのように見えてしまいそうだ。
なにせ、床に横になった状態で、ギュッと男女が抱き合っているのだから。などと結構のんきなことを考えながら。
少しすると玲奈も動揺が収まって少しは冷静になれたようなので、撫でるのをやめて玲奈に声をかけた。
「落ち着いたか?」
「うん」
「そりゃよかった。じゃあ、そろそろ起きようぜ」
そういうと、今の体勢がどんなことになっているのかわかったらしく
「ごっごめんね。重かったよね。今すぐ退くからちょっとまって」
といい起き上がろうとしたのだが、他の人の体だからか力の入れ具合がわからずになかなか起き上がれないようだった。
仕方なく思い、一つの提案をしてみた。
「退くだけなら、寝返りを打つだけでもいいと思うな」
「そうだね」
玲奈は寝返りをうって、俺の上からは退いてくれた。
「で、どういう状況なのかな?」
「何が?」
「たぶん今、私たちの体って入れ替わってるよね」
「信じたくはないけどたぶんそうだと思う」
「どうしようか」
玲奈に、そう聞かれ考えてみると、このまま動けないと結構不便だということに気づいた。
「まずは、日常生活に支障が出なくなるくらいまで動けるようにならなきゃいけないよな」
「でも、起き上がるだけでも大変だよ?どうやってするの?」
「まあ見てなって」
俺は、体を適当に動かし重心の多少の違いやどうやったら必要なところをうごかせるのかを探り、一応上半身だけは起き上がることには成功した。
「やっとできた。玲奈の体って、俺の体よりも重心が後ろにあって、筋力が少ないっていうの以外は同じ感じだったんだな」
「へー。で、私はどうやって起き上がればいいの?」
「重心は少し前にして、腹筋に力を入れるとできるはず」
元自分の体のお腹の部分をさわり少し押してやると
「ひゃん」
「ごっごめん!」
元自分の体から、女子みたいな声で、女子みたいな反応が返ってきた。
いや、女子のような反応が帰ってくるのはいいなかに入っているのが玲奈で、女子なんだから。
でも、俺にあんな声が出せるとは思わなかった。
確かに少しくすぐったいってのもあるけど・・・。
まあ、そんなことはおいといて
「でも、ここら辺い力を入れるっていう感覚は掴めただろ?」
「うん、一応は掴めたと思う」
「じゃあ、ほれ」
俺は立ち上がり玲奈に手を貸して立ち上がらせた。
そのときに少し玲奈の顔が赤かったように見えるのは気のせいだろう。
「ありがと勇人」
俺たちは時々つまづきながらもリビングに移動した。
「これからどうしよっか」
玲奈が聞いてくるが、俺とて現状は理解しきれていない。
これは夢じゃないのかと思っている自分もいれば、もう諦めかけている自分もいる。
まともに考えれる気がしない。
だがそれは玲奈も同じのはずだ。そう考えると、なんとか答えることができた。
「まずは、これからのことについて考えようぜ。
今までは簡単にできていたものでも、体が変われば使い方も行動のしかたも変わるからな。
直しかたなんて今考えたってすぐに分かるもんじゃないし」
俺は、玲奈に動揺を悟られないようになるべく普通に答えた。
こんな状態で俺が動揺していたら玲奈が心配する。
今はなるべく玲奈に心配をかけさせずに自分のことについて考えていてほしいのだ。
「・・・そうだね」
「今日は木曜日だから明日も学校はあるけど、明日の学校は一応休もう。
この状態で行って他の人に見られたら絶対厄介なことになる」
「・・・うん」
玲奈の少し返事が遅れ、声も少し震えている。
やっぱりすごく心配だ。
俺たちが小さいころ、両親の出張中に二人で怖い映画を見たことがあった。
そのときは、二人で同じ布団に入り並んで寝た。
そうすることで自分の不安が少しだけ和らいだことを思い出す。
「玲奈、今日は隣で寝てもいいか?」
「・・・え?」
「いや、変な意味じゃなくてさ、
小さいころ怖い映画を見たときがあったろ?
そのときはちょうど親が二人とも出張中なのにとても怖くって一人じゃ寝れないからって俺が言って、一緒に寝たよな。
あのときは俺、スッゲー怖くってさ玲奈が隣にいるってだけでものすごく安心したんだぜ?
今回だって、今は普通に話しているけどさ、本当は結構怖いんだ。
頭のなかぐちゃぐちゃで、一人じゃ眠れそうもないんだ。
だから、今日だけ頼む」
玲奈の返事に少しだけ間があったが
「・・・うん、いいよ。勇人が怖いなら仕方ないもんね」
そう答えてくれた。
玲奈は、「お姉ちゃんだから大丈夫」とどうみても大丈夫じゃないときにもいう癖がある。
そして、その意識が働いているときは絶対に俺を頼ってくれないのだ。
幸い、後は布団を自分の部屋に敷いて寝るだけの状態になっていたため、自分達で布団を移動させた。
玲奈は大丈夫かと心配していたのだが、その必要もなかったようで、普通に歩いていた。
階段を上る前に一瞬ビクッとしていたが、そこら辺はおいおいどうにかしようと思う。
なぜ、俺が両方とも持ってこなかったのかというと、玲奈が部屋にはいるのをかたくなに拒んだからだった。
理由はさっぱり教えてくれず、検討もつかない。
布団を持ってくるときに思ったことが一つある。玲奈の体って、なかなか力が入らないということだ。
布団を敷き終わると、俺たちは部屋の電気を一番小さいものに変えて布団に入った。
「おやすみなさい、勇人」
「うん、おやすみ、玲奈」
そいうと、俺たちは眠りについた。
夜中に喉が乾き目を覚ましたため、水をのみ布団に戻ると玲奈が寝言をいっているのを聞いた。
「・・・勇人・・ごめんね・・・ありがとう」
「姉ちゃん・・・」
小さいころはよくお姉ちゃんと呼んでいたのだが、大きくなるにつれてそう呼ぶのがなぜか恥ずかしくなり姉ちゃんとそして、玲奈と名前で呼ぶようになった。
たぶん、自分の方が下だと思ってしまうからなのだろう。
双子で身長も俺の方が高い。
まあ、こんな状況になってしまっては高かったと表現するのが正しいのだろうが・・・。
そんなしょうもない理由によって呼び方が変わってしまった。
名前で呼ぶようになって直ぐは、玲奈と呼ぶと少し残念そうな顔をしたことがあった。
たぶん、お姉ちゃんや姉ちゃんと呼ばれる方が好きだったのだろうと思う。
また、玲奈が起きている時にでもお姉ちゃんと呼んでみようかなと考えながら俺は寝た。
今回も、最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
次回の投稿は11月15日 朝9時です。