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七章 舞う者の決意




「何を調べているんだ?」


 自宅のある聖樹の森方面へ向かい、地面を見ながらひたすら歩く事二十分。遂に堪らず童顔の武闘家へ尋ねた。

「“銀鈴”が何処まで根を伸ばしているか、です。―――どうやらここが端みたいですね。見て下さい」

 彼が指差す先に生える、子供の指程の長さの一輪の鈴蘭。よく観察してみると、分速数センチで前進し続けている。

「移動してるよ、この花!根っこに足でも生えてるの?気持ち悪!」

 森出身のオリオールが嫌悪感を顕わにする。

「地下茎が外部へ伸び続けているんです。自分達のテリトリーを拡大するため、昼夜関係無しに」

「今の内に全部刈っちゃおう!もー!こっちは僕等の家もあるんだよ!」

「無理だろどう考えても。さっきの街までだけでも何キロあると思ってるんだ?」

 しかも侵食は恐らく放射状。重機が何十台あっても、全て掘り返すのは到底不可能だ。

「心配はいりませんよ。今は特に実害は無い筈です。―――ティーが覚醒しない限りは」

「けど」

 俺達は頭を上げた。約三キロ先には、樹齢数百年の大樹を中心とした森がこんもりしている。

「じゃあさ、あのお姉さん……どうするの?」

 子供は唇を噛んで俯く。

「辛い目に遭わされてたんでしょ?服とか所々解れて汚れてたし……ギャクタイ?」

「ええ。僕が初めて会った時、ティーは街で花売りをしていたんです。父親の酒代のために」

 ギュッ。三節棍を持つ握力が強まった。

「死人を悪く言いたくはありませんが、正に鬼畜のような親でした。少なくとも彼は死んで当然の人間です」

 年取った学生は顔を背け、吐き捨てる。

「―――正直、フィクスさんに先を越されなければ、僕があいつを殺したかった!」

 そんな肉親の蛮行を止められない村を、あの子が滅ぼした……あんまりな悲劇だ。救いの手を、孤独な少女はずっと待っていたのに。

「それで、今度は“死肉喰らい”になったから殺されるの?酷いよ!ねえ、何とか助けられないの!?秘書のお姉さんの時みたいに」

「見るからに術のタイプが違うからな……それに変換の魔術を使えるのはエルだけだ。二回もやったら、とても身体が保たないぞ」

 枯れ草と化した“銀鈴”達を思い出し、胸が締め付けられる。


「一つだけ……無い事もありません」


 武闘家は瞬きをし、言いにくそうに顔を背けた。その様子だけでピンときた。

「本当!?何々?分かってるならさっさとやればいいじゃん!」

 一人気付いていないオリオールが無邪気に言った。そんな彼に、俺は首をゆっくり横へ振る。

「?どうしたの、お兄さん。そんな怖い顔して……あ、もしかして……」

 悟ったのか一気に蒼褪め、口元を押さえる。

「不死族にする、って事……?」

 あらゆる病も怪我も、異形植物の侵食でさえも第七種には無縁だ。但しそれは再度の不自由を、或いは永遠の束縛の可能性を示唆していた。

「だ、駄目だよそんなの!」少年は叫ぶ。「あんな目に遭ってまで折角逃げてこられたのに戻るなんて……!嘘だよね!?燐のお兄さん、凄く王様を嫌ってたもん!そんな事しないよね!?」

「「……」」

「何とか言ってよ!!」

「残念ですが……僕は燐さんの判断に任せる事しか出来ません」

 ガクッ。首を前へ力無く倒す。

「あの人を巻き込むんじゃなかった。今こそ女性を攻撃出来ない自分を呪った瞬間はありません」

「それだが、本気で本当なのか?具体的にはどうなる?」

「やった事が無いんです。想像しただけで」


 ポタッ、ポタッ……ポカポカ陽気の中、額から地面へ流れる液体。「冷や汗と眩暈が止まらなくて」


「悪い。もう拭いてくれ」ここまで重症だとは思わなかった。

「済みません」

 助けが必要な訳だ。手を上げようものなら失神しかねない。

 ごしごし擦ると長袍の袖がずぶ濡れになった。前髪もぐっしょり、今まで泳いでたのかと思うぐらいだ。

「だけど……ティーも燐さんも、このままにはしておけません。僕が何とかしないと―――」

 今朝自宅へ駆け込んできた政府員の様子を思い出す。


―――化物鈴蘭を操る少女に殺されかけた。あいつは間違い無く“魔女”だ。このままだと近隣の街全部があの村みたいに滅びる。早く政府館へ連絡を―――


 興奮し切って唾を飛ばしつつそう説明した奴を、まずは無言のまま一発殴って黙らせた(一般人の爺の前で藪から棒に何て言い出すんだ、このボケ!)。ヤクが入っている、聞き流した方がいいといつもの嘘を吐き、差し出された手紙を読んだ。結局奴を追い出すのに、書かれていた金の他、マーマレードたっぷりのフレンチトーストと紅茶二杯が必要だった。政府館へは俺から電話すると約束し、少年と急ぎ現場へ赴いて今に至る。勿論、エルへの報告はまだだ。

 決心した様子の青年は頭を下げ、俺達に別れを告げた。





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