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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
9/26

3



「ちょ、フェイラルカ様っ。ぎゃぁ!」


ずんずん歩くフェイラルカ様に連れられて、やってきたのは一つの部屋。


誰の部屋かわからなくて。


入れられた瞬間、ぽかんとしてしまったけれど。


はっとした。


ここ、フェイラルカ様の部屋かも。


匂いっていうか、雰囲気というか。とにかく、そんな気がした。



騎士には部屋が与えられている。


騎士に限らず、お城で働いている人は皆そうだ。




「フェイラルカ様、一体全体どうしたのです」


か、までが言えなかった。


きちんと畳まれた毛布。


それでくるまれ、そして。


ぎゅうっと。


抱きしめられた。



「!?」



わけがわからずフェイラルカ様から離れようとする。


しかし、それ以上の強い力で抱きしめられる。



「フェイラルカ様! どうしたんで……というかこの部屋!」


「ロランドと、何してた?」



無視なのですか、私の話。



「私が知りたいくらいです。それよりも離し……」


「――匂い」



匂い?


さっきから匂い匂い言われているけど、私そんなに臭いっ?


確かに掃除してるから埃っぽくはあるけど。


って、そんな状態でフェイラルカ様に抱きしめられてるのか!




「お願いします! 離して下さい!」


「ロランドに気を許すな」


「ちょっと話を……」


「どうして、苛々しなきゃならないんだ」


「……」



すっと緩められた腕の力。


そして、悲痛そうな面持ち。



「セフィラが」



言葉が。



「他の奴に抱きしめられているのが」



夢のようで。



「すごく、苛つく」



顔が火照る。



フェイラルカ様。


私は馬鹿なので、そんな事を言われたら期待してしまいます。だから、どうかすぐに否定してほしいのです。どうか、甘い夢を、これ以上見させないで。



「私、は」



震える声を精一杯震えないように、私は言葉を放った。



「このお城に来てから、フェイラルカ様をずっと見ていました」


「――……」


「貴方の剣をふる姿が、とても……美しいと思ったのです」


美しい。


あの姿を見たら、誰でもそう思う。


「でも、それだけじゃ足りなくて」


「足りなくて……?」


「身分は、違うはずなのに……っ、フェイラルカ様とっ」



声が震えてしまう。


それでも伝えたくて、私はフェイラルカ様の瞳を見て言った。



「お話がっ、したいと思ってしまったのです……! どんな事を思っているのか知りたくて、近付きたくて……」


「――」


「私、嫉妬したんですっ。フェイラルカ様が言ってた人に! だから、こんな……っ醜い状態で会いたくなかった!」


「セフィラ……」


「ごめんなさい……っ!?」


「それで、ずっと中庭に来なかったのか?」



私の頬に手を当てて、フェイラルカ様がこちらを覗きこむ。



「は、い」


「……はぁ」



フェイラルカ様がため息をつくと、私の頬を軽くつねる。


「いひゃ!」


「何かあったかと思うだろう。いきなり来なくなるから……」


「す、すみません」


「……セフィラ、確かに俺は認めてほしい奴がいる。そのために騎士になった――ってこれは言ったな」


「……」


「俺はそいつに認めてもらいたい。だけど」


フェイラルカ様の顔つきが一層真剣になって。


「だけど、それはお前が嫉妬する事じゃない」



それは、尤もな話だ。


私が勝手に見ず知らずの人に嫉妬しているだけなのだから。



「勘違いするなよ。関係ないって言ってるわけじゃない。そうだな……」



しばらくの沈黙。

そして。


「今の、セフィラには、認める云々ではなく、俺の事を……見ていてほしいんだ」


「……私に?」


「あぁ。前から見ていてくれたように、これからも。だから……」



うっすら微笑みを浮かべて。



「セフィラが嫉妬する事じゃないんだ」



それは、私が思い描いて事とは違う意味。


関係ないから嫉妬するな、じゃなくて。

フェイラルカ様の認めてもらいたい人と、違うんだから嫉妬するな、って事。



どうして、こんなにも優しいのか。眩しくて霞むほどの存在感に、私はただ思う。


私はフェイラルカ様が好きだ、と。


「というか」


緩んでいた腕に力が入り、私の体がびくついた。



「ロランドと何話してたか……俺はそっちのが気になるんだけど」


「いや、はや。何と言いますか……私にもよくわからないです」


「ふーん……」



あれ? なんか変な空気だな。



「セフィラ」


「はいっ?」


「二つ、約束して」


「約束ですか?」



もちろん、出来る事なら何でもやります。



「一つ、ロランドと極力二人きりにならない事。二つ、俺に様づけは不要」


「え!?ああ、あのどちらも意味がわからないのですが……」


「わからない?本当に?」


「は、はい……」



だっていきなりそんな事、無理だ。不敬過ぎて目眩がする。



「まぁ、あえて言うなら」


フェイラルカ様は少し考えた後、私の耳元でそっと言った。



「ロランドとは別に、少しだけ――」



その後に続く言葉に私は絶句した。




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