使用人と嫉妬
初めて中庭で貴方を見かけた時、なんて美しい人なんだろうと思った。
はじめはその美しさに、心を奪われた。
毎日毎日見かける度に、なんて努力だと驚嘆した。
剣を振る姿。
彼は剣を振り続ける。
まるで、何かに囚われているみたいに。
私は中庭で水を持ってフェイラルカ様の姿を見ていた。
『また中庭で』
その言葉から、数日が経った。
私は今日もこうして、フェイラルカ様に水を届けている。会話も最近は慣れてきた。
初めて会った時のような嫌な視線はない。
けれど、やっぱりどこか嫌われているような……ううん。
苦手、という方が正しいのかな?
とにかく、好かれているような雰囲気はない。
しかし、だったらあの時の。
こっちが照れるような熱い視線は、一体全体何だったのだろう。
お、思い出しただけでも顔が……!
「セフィラ」
「ふぇ、あっ、お疲れ様です!」
「あぁ。毎日悪いな」
「そんな事ないですよ。私は、使用人ですから」
自分で自分の首を締める発言。
あぁ、これがお姫様なら身分なんて気にしなくて好きだからですって言うのに。
「さて。今日こそは、話の続きをしてもらおうか」
「またですか? だから、忘れちゃいました」
「ふーん」
フェイラルカ様は、気にしているのは数日前の私の発言。
『私がフェイラルカ様とお話したかったんですっ! だからいいんです!』
の次の。
『私はっ』
の続き。
『貴方をお慕いしています』が続きなんだから、言えるわけがない。
「それよりフェイラルカ様。手、見せて下さい」
「何故だ?」
「手、擦れて切れてますよね? 手当てします」
私は持参していた救急グッズで手を消毒する。
ふと。
フェイラルカ様が、どうしてこんなになるまで剣を握るのか。
その果てにある思いはなんなのか。
気になった。
「……フェイラルカ様」
「ん?」
「フェイラルカ様は、どうして剣を握るのですか?」
「俺が、騎士だからだ」
「そうじゃなくて……では、何故フェイラルカ様は騎士になろうと思ったのですか?」
直球だと思ったが、聞かずにはいられなかった。
私がずっと見ていたフェイラルカ様は、いつも遠くを見ていた気がした。
「……認めてもらいたい人がいる」
「認めてもらいたい人……?」
「俺はそのために剣を振る。俺が騎士でいられたのは、その人のおかげだから」
「……」
「騎士になろうと思った理由はそれだ。単純だろう?」
フェイラルカ様には、認めてもらいたい人がいる。
だから騎士になった。
じゃぁ、フェイラルカ様の思いの果てにはその人がいる……?
――あぁ。
知っている、この感覚。
心が冷えて真っ黒になるようなもやもや。
最後に包帯を巻いて、私は手を離した。
「いつか」
そう、いつか。
「叶うといいですね」
心にもない事を言う自分が嫌だった。