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「うっ、うぐ。ぐず、びぇー……」
「汚いわね、セフィラ」
リーリィに汚い呼ばわりされて鼻紙を押しつけられた。
すみませんね、汚くて。
「うぅ、ぐじ、ぐっ……うぁーーん!!」
「はぁ……」
「わた、私何かした!?」
「それは私が聞きたいわよ。何かしたの? ってか、面識あったの?」
「何もしてないよ……! 面識って言ったって、私が一方的に知ってるだけだし!」
「まぁ、そうね。何でかしら」
わからない。
だけど確かに言われた。
『あんたのその目……嫌いだな』
私何かしたかな!?
あんな、嫌なものをみるような目で見られて。
平気でいられるわけがない。
「うっ、う、うぅ~~……」
「なんなのかなぁ、フェイラルカ様は……ん?」
私、嫌われるような事はしてない……はず。
じゃぁ何?
初対面から受け付けないとか……。
どうする事も出来ないじゃない。
「こんにちは。お邪魔します」
扉が開く音ともに低い男の人の声が聞こえてきた。
「あんた、ここは使用人の部屋よ。あんたのような奴が来る所じゃないわ」
誰が入ってきたのかと目を向ければ。
「さっきの……」
フェイラルカ様の隣にいた、騎士の人。
「こんにちは、お嬢さん。さっきと合わせたら二度目だね。俺はロランドといいます。お見知りおきを」
片手を胸に当て、頭を軽く下げる――ロランド様。
「わっ。そんな、頭を下げちゃダメです! 私は使用人ですから!」
「挨拶ですから。セフィラと、呼んでも?」
「良いですから! 頭を……え?」
どうして、私の名前……。
「リーリィから君の事、よく聞いていてね」
「私が話したのよ。あんたの事」
「リーリィ……ロランド様……え?」
「んもぅ、話した事あったでしょ? 幼馴染みが騎士やってるって」
あれ。
あれれ。
そういえば、言ってた。
リーリィには、幼馴染みがいて。
お城で騎士やってるって。
リーリィが使用人になったのも、その幼馴染みに会いたかったからだって。
「貴方が……リーリィの」
「うん。だから、君の事は話に聞いていたよ。フェイラルカの事とかも」
「ぶはーーー!!」
なっ、なっんっで!
「リーリィ!?」
「減るものじゃないし」
「いやいや! な、何を!」
「あんたが、フェイラルカ様をずっと好きって事」
「ちっ、ちが! 違う……!」
「さっきあんだけ大泣きしておいて」
「あれは……!」
「あれは?」
「そっ、そう! おじいちゃんが亡くなった時の事を思い出したの!」
「……随分いきなり思い出すね」
まぁ、いいわ、と。
リーリィが腕を組み直して、私に強い視線を向けた。
「あんた、フェイラルカ様に近付きたくないの?」
「うっ」
「あの人に好かれたくないの?」
さぁさぁと私に迫ってくるリーリィに。
私は一歩ずつ下がる。
そりゃあ……私だって。
隣に立って。
仲睦まじく話したり。
笑いあったり……したい。
「でも、身分違いだもの」
あんな美しい人を独り占めになんて……罰が当たりそうだ。
「そんな事ないって。あいつも人の子、君も人の子」
ね? とロランド様に言われるけど、素直には頷けない。
「だから、そんなセフィラに良い情報」
「良い情報……?」
「フェイは朝と、訓練所に行く前に、いつも中庭にいるんだ」
私が休憩する時、いつも見えるフェイラルカ様。
あれは、確か訓練所に向かわれる前のはず。
「セフィラは朝、ぎりぎりにここへ来るものね」
「うん……」
そういえば、リーリィが朝、中庭でフェイラルカ様を見かけた事があると言っていた。
その時は、ただ話を流してしまっていたけれど。
「俺としては、セフィラにはフェイに会って欲しいけど」
「?」
「ん。まぁ、会ってみてよ。もう一回だけでも」
ロランド様にそう言われ、私はただ無言で頷いた。