使用人と出逢い
何で。
何で、こんなことに。
リーリィに呼ばれて、私は休憩室を出て。
今日の午後のお仕事は、応接室のお掃除だったはずなのに。
「なんっ、どうして訓練所!?」
「だから、セフィラの掃除場所は違う子に代わってもらったから」
「だからっ何で!」
訓練所は、騎士や騎士見習いがかけ声をしあって練習している。
声は響いて響いて。
覇気がすごい。
「文句なら後で。ほら、やるわよ」
「えっ、ちょっと!こんなっ、とこっ、どうやって掃除!?」
「何も中をやるわけじゃないから。中じゃなくてこっち側!」
「こっち側?」
こっち側と言われた廊下を見渡せば、土やら埃で汚れていた。
確かに、あれだけ激しい訓練をしてから廊下に出るわけだから汚れてしまうのも頷ける。
リーリィと私は、まず中からする激しい音を遮断するため、開けっぱなしだった扉を閉めた。
これで多少はまし。
「ここって、掃除するの初めて」
「そりゃそうよー。だって、ここってなかなか掃除しろって指示でないのよ?」
「そうなの?」
「ん。毎日誰かしら通るから、いちいち掃除しないでたまにで良いって」
「ふぅん」
「フェイラルカ様が」
「ぶーーー!」
「ちょっとあんた何噴いてるの」
まっ、まさかその名前が出てくるとは思わなかったから……。
「もう……あ」
「え?」
「噂をすればなんとやら。ほら、来たわよ」
遠くの方から、こちらへ向かってくるその姿を見つけた。
――……どくん。
近付いてくる。
ま、まずい。どうしよう!
「こら。何逃げようとしているの」
「無理無理! あんなこんな近く通るなんて……!」
「大丈夫。ほら、来た」
「あわわわ……」
近付いて来たのは、フェイラルカ様と……?
騎士の方だろうか。
「おっ、掃除してるのか!」
ひょこっと私達の前に現れた青年は、爽やかな笑顔を見せてくれる。
「そうですよ」
リーリィがにこりと笑って、爽やか青年に笑いかけた。
「ありがとな。いつも大助かり。皆遠慮なく汚すからなー……なぁ? フェイ」
こつり。
と足音が鳴って、そちらに顔を向ければ。
いつも遠くにいた、あの人がいた。
私の目の前に。
虹彩は綺麗な薄い紫色をしていて。
目が合っているという事実だけで、私、もう倒れそうなのに。
本物のフェイラルカ様が。
あの、休憩室からしか見た事なかったあの人が。
今、私の前に。
……あ、やばい。
本当に倒れそう。
と思った瞬間。
「あんたのその目……」
うん?
「えっ?」
「ん?」
そこにいたフェイラルカ様を除く三人が疑問符を口にした。
そして。
彼は言ったのだ。
「嫌いだな」
その瞬間、私は意識が遠くなりました。