2.サンドイッチと使用人、時々男心
今日はたしか、フェイラルカ様が騎士専用の執務室で報告書を書き上げるって言っていたはず。
私の今日の午後の担当は、応接室掃除だ。リーリィが『騎士執務室に近いわね。そのままフェイラルカ様に会いに行けば?』って言ってくれたから私は遠慮なく、フェイラルカ様に会いに行く事にした。
少し、ううん、すごく嬉しい気持ちでフェイラルカ様のいる執務室を訪ねる。
「セフィラ?」
扉が開かれ、そこにいた私を驚いた表情で迎えたフェイラルカ様。いつも射抜くような瞳が今大きく開かれている。
「お疲れ様です。あの、今日は執務室でお仕事って聞いてたので。差し入れ、持ってきました」
ただ会いに来たってだけじゃ迷惑かも、と意気地のない私は思ってしまって。
結局いつも通り、差し入れを持ってフェイラルカ様を訪ねた。応接室の掃除が終わってから一度食堂に寄って、作り置きしておいたサンドイッチをお持ちした。
今朝採れたばかりの新鮮な野菜をサンドしたからきっと美味しいはず。
「あぁ。すまない、入ってくれ」
そう通された騎士専用の執務室は綺麗に整頓されていた。
私がきょろきょろしていると、フェイラルカ様は少しだけ笑いながら。
「何か珍しいものでも?」
「あ、いえ。結構綺麗なお部屋だなーって思って」
イシュリッシュ様専用の執務室は、いろんな書類で散らかっているから。
「ここは俺とロランドくらいしか使わないから、あまり散らからないんだ。他の騎士は違う部屋を使っているし」
「へぇ。そうなんですね。あ、これサンドイッチです。どうぞ」
「ありがたく頂く」
サンドイッチを受け取ったフェイラルカ様は、どことなく浮かない顔をされているような気がして私は首を傾げた。
あれ、サンドイッチにトマト挟んだけどお嫌いだったっけ? だとしたらとんでもない失敗だ。
「あの、トマトお嫌いですか?」
「トマト? いや、好きだが」
良かった。どうやら問題はトマトではないらしい。なら、何が。何がフェイラルカ様にそんな顔をさせているのだろう。
「セフィラ」
「はい。何ですか?」
「ーー団長の事、だけどな」
団長、というと。まぎれもなくイシュリッシュ様の事を指しているんだろう。
「セフィラは、その、だな。団長の事を……どう思う?」
フェイラルカ様の突然の言葉に、私はぽかんと口を開ける。どうしたのだろう。そんな事を聞くフェイラルカ様なんて珍しい。
「イシュリッシュ様ですか? 好きですけど。というか、幼馴染みです」
そして答える。好きか嫌いかで言えば、好きだけどあの人とは家族みたいな間柄だし。
というか、その点はフェイラルカ様も同じだろう。フェイラルカ様とイシュリッシュ様は昔からの友達だろうし、幼馴染みでもあるはずだ。
あれ? じゃあそうなると、この二人が幼馴染みなら二人は家族みたいなもので、イシュリッシュ様と幼馴染み兼家族みたいな私は、必然的にフェイラルカ様と家族も同然?
そう考えたら、嬉し恥ずかしで顔に熱が集まるのを感じた。
私と、フェイラルカ様が、家族……!
「ーー……い」
「え? 何ですか?」
私が聞き返すと、フェイラルカ様はひょいっと抱き上げて、その執務室の机に座らせた。目の前にいつもより少し低い位置にある頭に、疑問がわく。
何故、こんな格好に。