1.団長様の企みとなぞなぞ
「はい、イシュリッシュ様。お土産です」
「ほう。テッセの店の焼き菓子か。どうしたんだ?」
「この間、買って来たんです」
「買って来た? いつも私に土産など買って来ないのに。どういう風の吹きまわしだ?」
「む。いいじゃないですか、なんだって。ほら、美味しいですよこれ」
「あぁ。そういえば使用人達が噂してたね。どっかの騎士がどっかの色ボケ使用人と抱き合って」
「なっ、それ」
「堂々とイチャついてたらしいじゃないか」
「やめてぇえ……!」
その恥ずかしい話、騎士団長様にまで届いてるの!? 城の噂話とは恐ろしい。
「忘れて、その話」
「嫌だね。それよりも、恋人生活。順調みたいで何よりだ」
「……まぁ、これといって喧嘩とかはしていないです」
「それは良かった。別れ話など切り出されないように、気をつける事だね」
「なんですかそれ。嫌味ですか」
「違うよ。真剣に言っているんだ。フェイラルカはね。君の事が大切で大切で仕方がないんだよ」
イシュリッシュ様が笑顔でそう言う。
「だから、切羽詰まった選択をさせないように、気をつけるんだよ」
「……? はい」
「分かってない顔だね」
「切羽詰まった選択が何かは分かりません。ですが」
私がフェイラルカ様を嫌う事などない。私が彼を嫌う時は、きっと彼に別の大切な女性が出来た時だろう。
そうなれば、私は彼を嫌いにならざる得ない。そうしなければ、あの方とお別れする事など出来ないだろうから。
「私はちゃんと好きです」
フェイラルカ様の事が、大切で、大好きなのだ。
私がイシュリッシュ様の目をしっかり見てそう言えば。
「覚悟は充分。さすがセフィラ」
頭をいつも通り、強めに撫でられて。
「お前のそういうところ、私は大好きだ」
イシュリッシュ様は幼馴染みだ。昔からの付き合いだからか、いつも私を子供扱いする。
「だから、もう一度忠告しておくよ」
その目が細められて。
「フェイラルカとはちゃんと話しておくんだよ」
イシュリッシュ様はいつもわからない。なぞなぞみたいな言葉を時々残すんだから。