3.噴水広場で待ち合わせ
待ち合わせ場所はお城の出口から近い、街の中心にある噴水広場。友達同士や恋人達の待ち合わせで使われる。もちろん、私とフェイラルカ様はこっ、恋人同士なわけで……!
「もういらっしゃるかな」
噴水広場が見えてきて、辺りをキョロキョロ見渡せば確かに……彼がいた。
「ふぇ、フェイラルカ様!」
私が呼べばこちらに気付いて軽く手を上げて下さる。今日はお休みだからか、いつものかっちり系な服じゃなく、首元にゆとりを持ったなんとも色気が溢れでている服装だった。
「慌てなくて良い。俺が早く着きすぎてしまったみたいだから」
優しいフェイラルカ様。今日も本当に美しくてかっこいいです。
私が心の中で一人盛り上がっていると、フェイラルカ様が首を傾げてそして、目を細める。
あれ? 私、さっそく何かした……?
「フェイラルカ様?」
「あぁ……いや、なんだか雰囲気がいつもと違うと思ってな」
「あ、服のせいかもですね」
それとも何か変な所が……。不安になって自分をきょろきょろ見ると、フェイラルカ様が。
「変な所などない。すごくその」
口元に手を当てて、ぼそりと。
「……似合っている」
恥ずかしそうに仰る姿は、私の夢ではないだろうか。照れたようにそう呟く姿に……こっちが赤面です。
「ああありがとうございます! フェイラルカ様も騎士の制服着てないと雰囲気違いますね!」
「あぁ……あれは割とかっちりしてるからな」
いつもピシッと決めてるお姿も素敵だけど、こういう姿も良いなぁ。
「ほら。そろそろ行こう。今日はお前の行きたい所へ」
「あ……」
取られた手はそのまま繋がれていて。
このまま手を握ったまま歩くのかなと思ったら嬉し恥ずかしで。
「セフィラ?」
もう、鼻血が出てきそうなんですが。
***
「ここです」
「ここは……」
私達が来たのはお菓子屋さん。前にフェイラルカ様に買って差し上げた事もある、美味しいお菓子屋さんだ。
焼き菓子からケーキから、置いてあるものは様々。中でも人気は数量限定とろける美味しさサクサククッキー。
「私、ここのお菓子大好きなんですけど。なかなか買いに来られなくて……フェイラルカ様も前に美味しいって言ってましたよね?」
「あぁ。ここの焼き菓子は美味い」
「そうなんですよね! たしか姫様もお好きだって、料理長が言ってたのを聞いた事があります」
だから料理長はこの店にお菓子を買いに通っているのだ。お城で作るお菓子を、姫様に気に入って頂けるために。
「この店……もしかして働いているのはテッセか?」
フェイラルカ様の口からその名前が出て、私は驚く。
「フェイラルカ様……テッセさんをご存知なんですか?」
「あぁ。もとはあいつ、城の料理人だろう?」
「はい。知ってらしたんですね。今でもお城の人達がこぞって買いに来てますよ」
笑いながらそう言うと、フェイラルカ様も少し微笑んで。
「この店、覚えておこう。お前の好きな場所なんだな」
そのお顔は反則です。
カランカラン。
扉のベルを鳴らして中に入れば、いつも通り、テッセさんがカウンターにいた。
「テッセさん、お邪魔します!」
「こんにちはセフィラ。それに……珍しい。フェイラルカじゃないか」
「久しぶりだな」
「あぁ、そうだな! どうした、セフィラと一緒で買い出し……にしてはおかしな組み合わせだな」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むテッセさんに私はハッとした。そうだ。テッセさんには私とフェイラルカ様がお付き合いしてる事は話していないのだ。
わざわざ話す事でもないし、言わなかったけどこのシチュエーションは彼にとってはおかしな事に違いない。
「あの、実は私とフェイラルカ様はですね!」
「付き合っている」
その一言にテッセさんがぽかんとしている。それじゃあ伝わらないんじゃないですかね!
「あの、私とフェイラルカ様は」
「恋人だ」
はいー来ました。いや、でもフェイラルカ様からそんな言葉が出るとは思わなかったから、少し嬉しかった。その言葉だけで、ほわほわした気持ちになる。
そっか。私達、恋人同士なんだ。
「ほー……あんた達そうなったか。いや、あの堅物フェイラルカがなぁ。ーーよし、今度祝いのケーキでも作ってやるよ」
「ほ、ホントですか!」
「あぁ、楽しみに待ってろよ二人とも」
そのケーキの約束が。
よもやもっと先の未来で果たされる場が来ようなんて、この時は考えもしていなかった。
けれどその約束は、とても幸せである事は間違いないんだけど。