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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
17/26

使用人と白銀の少年と

不思議な感覚だ。


私はあの日、フェイラルカ様と共にあの場にいた?


あの白銀の髪をした少年。

彼は、フェイラルカ様だったの?


わからない事だらけだ。

だけど、やるべき事は決まっている。


彼に会って、話を聞こう。


こんなにもすぐに、会えるなんて思わなかった。

イシュリッシュ様に感謝するべきか、否か。

でも、とりあえず、私は心の中でそっとお礼を言った。




***




「そう緊張するな」


はい、と言いたいですが無理です。


今どういう状況かというと、私はフェイラルカ様のお部屋にいる。


もちろん、二人っきり。


しかも、全てのお仕事を終えた夜。


……なんというか、色々タイミング間違えた気がするわ。


これじゃあ、緊張して声が震えてしまう。


ただでさえ、フェイラルカ様と話す時は緊張するのに。


私は深呼吸をして、フェイラルカ様に向き合った。



「今日は、お聞きしたい事があって来ました」


「ん。何だ?」



フェイラルカ様は穏やかな顔をして私を見つめた。


顔が熱くなるのを感じながら、私は意を決する。



「……あの、フェイラルカ様は――私、と。……昔会ってました?」


単刀直入に聞くと、うっすら笑ったフェイラルカ様が頷いた。



「あぁ」


「私、忘れてしまっていたんですが……昔、イシュリッシュ様の家の前で男の子に会ったんです」


「……そうか」


「白銀の髪をした子で、私はその子と約束した事を思い出しました」


「……」


「一緒に、お城で働こうって」



一度目をつぶり、昔の光景を思い出す。

強い眼差しをした子だった。


「あの時の子って、フェイラルカ様ですよね……?」


黙っているフェイラルカ様に、私は震える声で言う。


「もし、もしそうなら……私はフェイラルカ様に――」



ひどい事を言った。


城に来てからずっと見ていたなどと。


騎士団で有名だから知ったなどと。



もし、あの時約束した子ならば。


私はなんてひどい言葉をぶつけたのだろう。


これじゃあ、フェイラルカ様が私を怒ったって、嫌いになったって。

しょうがない。


じわりと目頭が熱くなったと思えば、次の瞬間ふわりと頬を包まれた。



「何故、泣く?」


「だ、って。私、貴方にひどい事を……」


「ひどい事?」



私はこくこく頷いて、フェイラルカ様の目を見つめて言った。



「貴方は私を覚えていたのに、私は貴方を忘れてた。騎士団で有名だから知っていたなんて……そんな言葉、無神経すぎるっ」


自己嫌悪の塊。


そんなどろどろが恥ずかしくて、申し訳なくて。


ぎゅっとフェイラルカ様の手を握れば。


彼はこう言った。



「はじめは、俺だって怒っていた。あんな風に約束をしておいて忘れるなんて」


その言葉は。


あの日の少年がフェイラルカ様だと語っていた。



「だけどそんなの、本当はショックだっただけで怒ってなんていなかったんだ。――セフィラに会えた。その事実だけが、嬉しいと気付いた」


「フェイラルカ様……」


「様はいらない」



いつものように言って。


いつものように少し笑って。


それは、あの日の少年を思い出させた。



「あの約束が支えだった。目標だったんだ。セフィラとの約束が、俺を強くした」



ありがとう、と囁かれた言葉に心の奥底から吹き溢れる何かを感じた。


どうしようもなく、叫びたくなるような不思議な気持ち。



「き……」


「――セフィラ?」


フェイラルカ様の片手を自分の両手で取って、その吹き溢れる想いを告げた。



「すき、です……!」


「セフィラ……」


「こんな私をきっとフェイラルカ様は嫌だというかもしれません。でも、やっぱり好きで……!」



この想いがいつから始まっていたかはわからない。


もしかしたら、出会った時からかもしれないし、やっぱり騎士のフェイラルカ様を見たからかもしれない。


でも。


どんなに色々考えても、結局私はフェイラルカ様を好きって事しかわからない。


「セフィラ。言ったはずだ。思い出したら俺も、話をすると」


「……っ、はいっ」


「――俺は。その約束に支えられた。セフィラがいなかったら俺は騎士になどなっていなかった。

俺を支えてくれた事、城でも俺を見ていた事。全部ひっくるめて――」



耳元で囁かれる。


どんな言葉よりも甘くて、腰を抜かすほどの破壊力を持つその言葉。


フェイラルカ様の顔を見つめて……きっと私は真っ赤だったと思う。



「私もっ、だいすきです……!」



自ら飛び込んだその腕は、暖かく逞しい騎士様のものだった。




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