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そう。
あれは、まだ私が小さな頃。イシュリッシュ様をイシュリと呼んでいた頃。
町へおつかいに行った私はイシュリのお母さんに出会った。そこで、イシュリが騎士入団試験に受かったという話を聞いたのだ。
私は直接『おめでとう』を言おうと思ってイシュリの家へと向かった。
――イシュリの家が見えた時。
白銀色の髪をした少年が家の前に立っていたのだ。
誰だろうと思いつつも、私は、少年はイシュリを待っているのだと気付いた。だから、すぐに声をかけたのだ。
友達になれるかもしれないと、そう思った。
私が声をかけると、少年は顔を上げて目をぱちくりさせて。
「誰?」
「イシュリの友達。貴方は?」
「……」
その子は私が聞いても何も答えず、ずっと無言のままだった。
ただ。
「イシュリはいるかな?」
イシュリの名前を出すと、少し肩が動いて反応して、首を振ったから、やっぱりこの子はイシュリの友達なのだと確信した。
「帰ってくるまで、一緒に待ってていいかな?」
私はその子の隣に立って、イシュリの家の壁にもたれかかった。
「貴方はイシュリの友達?」
「……」
「私はね、イシュリとは小さな頃から一緒なの。だからね、今日はおめでとうって言いに来たの」
「……おめでとう?」
今まで黙っていたその子が、私の言葉に反応した。
「うん。イシュリ、騎士になるんだって。試験に受かったんだよ」
「試験に……」
「すごいよね、騎士だなんて。なんだか、イシュリが遠くに行っちゃうみたい」
「……」
ね? と、同意を求めてその子の顔を見れば、とても苦しそうな顔をしていて。
一言『いやだ』と、言った。
「せっかく……友達になれたのに。遠くに行っちゃう……」
泣くのを我慢しているようだった。
そして、その子は私に向かって言った。
「イシュリに会えなくなるのは嫌だ。だけど、行かないでって言うのも……嫌だ」
イシュリの行く道を邪魔するのは嫌だと言ったのだ。
止めるのも行かせるのも嫌だから、どうしたら良いのかわからない、と。
「そっか」
私には、その子の気持ちがすごくわかった。だって私も同じだったから。
イシュリと離れたくないけど、彼が決めたなら私は邪魔出来ない。
けれど、やっぱり幼い私達は寂しかったのだと思う。
そこで、幼いながら私は頭を捻った。
どうしたら、またイシュリと一緒にいられるか。
この子も、私も寂しい思いをしないで済むか。
そして。
「……そうだ! じゃあこうしよう!」
その子の前に立って、私は満面の笑みで。
「私達も、お城で働くの! きっと、まだ小さいから受け入れてはもらえないけど……もう少し大きくなったら。そうしたら、一緒に働こう!」
「一緒に……?」
「うん! 私は騎士にはなれないから……お手伝いさん。それで貴方は騎士になるの!」
「騎士……イシュリと、同じ」
「うん! おんなじ!」
「でも、俺、強くない」
「大丈夫! まだ時間はいっぱいあるから、強くなろう。私も、お洗濯とかお掃除苦手だけど……頑張るから!」
私の言葉に、その子はやっと少しだけ笑って。
「俺、強くなる。約束だ」
それが、イシュリが試験に受かった日の、私と彼との約束。