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二人の間に静かな時が流れる。
そして、フェイラルカ様の手がそっと、私の首の後ろに回った。
耳元で囁かれる。
「それは、どういう意味だ?」
しまったと思っても、後の祭り。
触れられた肌がどんどん熱くなる。
「あっ、あの! 私っ」
どう言い訳したらいいかわからず、ばたばた暴れるけれど意味は為さず。
フェイラルカ様の言葉に力が抜けてしまった。
「それは……少しだけ、特別な事か?」
「――!」
「だとしたら、嬉しい」
それは私の方だと、言ってしまいたかった。
だけど言葉にならなくて、私はフェイラルカ様に目を向けるだけ。
「俺は、あの模擬戦で団長に負けてしまったけど……セフィラに見てもらえて良かったと思う」
「――!」
目の前が霞む。
涙と気持ちがごちゃまぜになって、心の奥が叫んでいた。
そしてそれは、震えながら伝えようと試みる。
「――っ、き」
「セフィラ?」
「すっ、き……!」
その腕にすがって、言葉を吐き出した。フェイラルカ様の表情が驚きに変わっていく。
「ごめんなさい……っ、でもっ、どうしても止められなくて……!」
身分違いだとはわかっていた。それでも伝えたかった。
私は、貴方が好きなんです。
「フェイラルカ様、好きです……」
ぽつりと呟けば、驚くほどの力強さで引き寄せられ。
抱きしめられた。
そしてどれほどそうしていたのか、少しだけ力を緩めると。
フェイラルカ様が声をもらした。
「今すぐにでも、その返事に答えたいところだが」
「……はい」
「俺は、セフィラに話してない事がある。それに、セフィラも思い出してない事がある」
その言葉に疑問を思ったが、すぐにフェイラルカ様が言葉を紡ぐ。
「セフィラは……覚えていないだろうけど、俺はずっと前からセフィラを知っているんだ」
「知って……?」
「あぁ。……セフィラ」
フェイラルカ様の顔が真剣な表情になった。
「だから、思い出してほしい。その時、俺もセフィラに話そう」
「フェイラルカ様……」
「大丈夫だ。そんな不安な顔しなくても」
フェイラルカ様の紫の瞳が優しく細まって。
「俺の気持ちも、その時に全部話すから」
その時のフェイラルカ様の顔は、きっと忘れられない。
熱のこもった瞳。少し紅潮した頬。
そして。
「早く思い出して、俺の元に来い」
手のひらに落とされた口付けも。
頬に落とされた口付けも。
「早く、俺のものに」
囁かれた言葉も忘れはしない。