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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
13/26

使用人と騎士様

日は西に傾きかけていた。

でも、まだ昼過ぎ。

まだ、大丈夫。

私はある場所目掛けて走っていた。

もちろん、その場所はフェイラルカ様の元だ。


「フェイラルカ様!」


横にある一般用扉を開けて、フェイラルカ様の姿を見る。

腰には護身用の剣を提げていた。


「セフィラ……?」


ぜぃぜぃいってる息を整えて、私はフェイラルカ様に言う。


「お話したい事があります! 私にお時間いただけませんか……!?」


すごい顔してたと思う。でも、それすら構っていられない程に。

私はフェイラルカ様の事で頭がいっぱいだった。

そんな私とは裏腹に、フェイラルカ様は穏やかな顔をしていて。


「私服だな」


ふっと気付けば、笑って私を見ていた。


その顔に、胸がとっても苦しくなって。

あぁ――好きだ、なぁ。



「悪いけど、今は仕事中だから話は後ででも良いか?」


「あ……そうですよね。ごめんなさい。私」


「いや、会いに来てくれて良かった。俺も話したい事があったから」


「話したい事?」


「あぁ。だから、今日の夜……いいか?」



夜は空き時間になっている。今日は、やる事もないし私は二つ返事で頷いた。



「夕食後、中庭にいるから。手が空いたら来てくれ」



***



私は気持ち落ち着かないまま、とりあえずお菓子屋でお菓子を買って。



「どどどどうしよう」



思わず買ってしまったお菓子。

フェイラルカ様がどんな物が好きかわからないけど、買ってしまった。

ナッツのパウンドケーキ。

あそこはクッキーが有名だけど、実はケーキも美味しい……って、そうじゃなくて。

疲れた時に甘い物があったら良いかなって思ったんだけど。

食べてくれるかな?


中庭に着くと、空を見上げているフェイラルカ様がいた。

私は、一つ、深呼吸をして話しかける。


「フェイラルカ様」


私に気がついたフェイラルカ様は、穏やかな顔付きになって。



「待ってた。こっちに」



そう言って私を呼び寄せて、近くの腰かけまでエスコートする。

さすが騎士様……。



「あの、これ。私、今日お休みだったので買ってきたんです」


「……俺に?」


「はいっ」



私がこくこく頷くと、フェイラルカ様は笑って受け取ってくれた。



「後で食べよう。その前に」



フェイラルカ様の真っ直ぐな瞳が私に向けられて。

どきどきしながらも、私も視線を外さず見つめ返す。



「話を、してくれるか?」


「……はい」



震える手を握りしめながら。

フェイラルカ様の瞳を見つめた。



「フェイラルカ様は……姫様と」


唇が乾く。


「姫様というと……イレーシュ様か」


「……」


「セフィラ?」


ダメ。まだ、ダメ。


「姫様と……ご婚約されるというのは――本当ですか?」



沈黙。そして。



「誰からその話を?」



あっ、と気付いた時には。

すでに涙が頬を流れていた。

そりゃあもう。

涙が綺麗とは言い難い程に、頬を濡らしていた。



「セフィラ?」


私の顔を見たフェイラルカ様は。

驚きで息を呑み。

そして、何を思ったのか。

私の頬を両手で包み込んだ。


「セフィラ」


「――っ」


「何故泣いている?」


「……いぇ」



何でもないです、と言えば。

少し乱暴に。



「嘘をつくな」



そう返されて。

ますます涙が溢れてくる。

すると、フェイラルカ様の親指がそろりと動き、私の目の下を撫でた。

あまりに急で、あまりに優しいその仕種に。

私は肩をびくつかせる。



「俺は、ずっと強くなる事だけを目標に生きてきた」


紡がれる言葉。


「だから、涙の拭い方も知らない」


「ふ……」


「泣かせたくないのに……セフィラ」


「ん……はい」


「イレーシュ様との婚約だが……俺はだいぶ前にお断りした」



ぴたりと。

私の嗚咽が止まった。



「話自体はあるにはあったが、その話、けっこう古いな。誰から聞いたんだ?」


「あの……噂で」


「あぁ……噂か。それで気になったと?」



よくよく考えれば。

私がこの話をした時点で、気になっていると言ったも同然なのだ。

羞恥心で、顔が一気に熱くなる。



「や、あの! 気になるというかー……」


「気になったんだな?」


「いやその、……はい」



逃れられないので、白状しました。

えぇい!こうなったら、言ってしまえ!



「昨日の模擬戦で、フェイラルカ様と姫様が仲良さそうにしているのを見たんです」


「俺が……負けた時のか」


「はい。それで、気になってしまって……噂も聞いたので確かめたかったのです」


「セフィラ」


「はい」


「それは……いや、何でもない」



フェイラルカ様は、月明かりに照らされて。

少し赤い顔をしていた。



「イレーシュ様には護身術の指導をした事があってな。今でも、俺に話しかけて下さるんだ」


「今でも……」


「これでも、俺を頼ってくれているらしい」


苦笑したフェイラルカ様を見て。

私の考えている関係ではなかったんだと。

ほっとした表情を浮かべると、フェイラルカ様は見るからに意地悪そうな笑いを浮かべて。



「泣いた理由は、どうして?」



そう聞いてきた。



「……言わなきゃダメですか?」


「是非知りたいな」


「うぅ……――んです」



まだ包まれている頬に照れながら。

私はフェイラルカ様の胸に手を当て、少し服を握って呟いた。



「嫌だったんです! 私が――フェイラルカ様のっ」


もう止められない。



「お傍にいたいんです!」



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