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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
12/26

使用人とお姫様

フェイラルカ様と姫様が婚約しているという噂。

その噂を、昨日初めてリーリィから聞いた。

噂は本当なのか嘘なのか、私にはわかりかねるけれど。

でも、あのフェイラルカ様の笑い顔が今でも頭に焼き付いていた。




「セフィラ、いつまで寝てるつもり?」


「うー……」


「ほら。今日、私は仕事だから行くわよ?」


リーリィに起こされて、窓から差し込む光に目を向ける。

あ……朝だ。

私は眠い目をこすって昨日いつ寝たかを思い出す。

そうだ。

訓練所での模擬戦が終わって、私はそのまま部屋に帰ってきて。



「そのまま寝たんだっけ」


「セフィラ、今日休みなんだから町にでも行ってきたら?」


「……うーん」

「ほら、行列焼き菓子店行きたいって、言っていたじゃない」



そういえば。

前にメイド長――私達はボスと呼んでいる――にチラシ、貰ったっけ。

枕元の棚に置いてあった少しごわついたそれを広げて、大きく書かれたお知らせを見る。


特製焼き菓子、期間限定発売。



「うん、行ってみるかな」


「うんうん!私の分もよろしくねー」


「……はーい」


「あっ、それと」



仕事に出ようとしていたリーリィが思い出したように、振り返って。



「ロランドに聞いたんだけど、今日はフェイラルカ様、お城の門番の仕事だって」


「ぶっ!」


「あまり思いつめないで、早く解消しておいた方がいいわよー」


リーリィに言われ、ますます町に出づらくなったなと感じたのだった。



***



「リーリィぃ……」



門番の姿が見える絶景ポイント。

前にボスがポロッとこぼしていた場所だ。

今は物置に使われている古い塔。

そこの二階から見えるのは、まぎれもない白銀髪の騎士だ。


あの姿を見ると嫌でも昨日の映像が蘇る。




騎士というものは、王様……つまり、現国王陛下に認められた者のことだ。それはすなわち、その辺の貴族よりもずっと陛下に近い地位を持っていることになる。なにせ、陛下に『認められた』のだから。



それが何を意味するのか?答えは簡単だ。

陛下のご息女との婚約、結婚。それが可能になるのだ。


けれど、次期陛下になれるわけではない。必ず陛下の血を受け継いだご子息が生まれているからだ。これまでの歴史上、ご子息が生まれなかったことはない。現に今も、陛下には二人のご子息がおられる。

つまり、所謂『平民』でも、姫様と陛下が認めれば結ばれることは可能なのだ。



「はぁ……」


今日は町に出ようかと思ったけど、門通らなきゃいけないし。

無理かなぁ……。


「ん?」


きらっ、と。


部屋の隅で光に反射する糸が見えた。無数の糸。あれは……。



「えっ?姫さ、むぐぅ!」


「声を出さないで!見つかっちゃう!」



無数の糸かと思ったのは、金の髪だった。そっと顔を見上げれば、そこにいたのは間違いなくあのお方。

我が国の姫様。

イレーシュ・ミカ・ツリーライト様。



「何でこちらに……っ」


「しーっ、しーっ! 今逃げてるの!」


「逃げてるって、何からです?」


「勉強の時間なのっ。いいから、しーっ!」


「なっ、戻りましょう! きっと探していらっしゃる……」


「あーっ、もう!静かに!」



そう言って、さらに私の口をふさぐ姫様。

すると、私の顔を見た姫様はきょとり顔になって。



「貴女……」


「え?」


「最近、ずっとフェイラルカと一緒にいた人……」


そう呟いた。


というか、何で知ってるの!?


「貴女、フェイラルカと一緒にいたよね?」


「えっと」


「何で?」



目を細めて尋ねる姫様は、とても怖くて。

私はすでに、逃げ腰だった。



「私……」


「フェイラルカの、恋人?」


「こここっ!?違います違います!」


「じゃぁ」


恋人なんかじゃない。


私は、そんなんじゃなくて。



ただ憧れて、焦がれて。


努力家のフェイラルカ様。

冷たいフェイラルカ様。

だけど、本当はちょっとぶっきらぼうなだけで。

優しくて。

お願いなんて言って。

私の心臓壊すような事ばかり言って。

私の――。



「……どうして、泣くの?」


「私……泣いて、ますか?」


「えぇ」



頬を触れば水の感触。


どうして泣いてる?


どうして――。



「フェイラルカ様の事を考えると、苦しいんです」


「苦しい?」


「幸せなはずなのに、苦しい。会いたくてたまらないのに」


「……」


「今は、会うのが怖い……!」



真実を聞くのが怖い。

きっと私はつらい現実を受け止められない。

ならば、いっそ。

知らない方が、良いのかもしれない。

姫様はすっと立ち上がって、じっと門へと目を向けた。

そして。



「今日はまだ門番してるわ。交代も夕方までなかったはず」


「……?」


「それに、今日はフェイラルカ一人みたいだし」


「え、と」


「聞かなければわからないわ。人の気持ちなんて」



先を見つめる姫様は、何を見ているのか。

何故だか、この時の私は、フェイラルカ様の事じゃない気がしたのだ。



「タイミングを逃してはダメよ」



きりっとした姫様は、やはり誰よりも美しい姫様と感じた。




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