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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
11/26

2


「セフィラー! 模擬戦、見に行かないの?」


「リーリィ……いやぁ、ちょっと、ねぇ?」


「何よ? いいから行くわよ」



せっかく使用人も見に行けるチャンスなのに――と。

リーリィが呟く。


そう。今日の午後は使用人も模擬戦を見られる事になったのだ。いつもなら、限られた人や、騎士団だけで行うんだけど……何やらイシュリッシュ様が全員見に来ちゃえば?的な事を言ったらしい。


つまり、お城の人達は全員模擬戦にお呼ばれしたのだ。


「わっ、すご」


リーリィは訓練所に入った途端、感嘆の声を出した。

確かに……凄い。


「人、多いね」


「そうね……あぁ、あそこ空いてる」


リーリィが指差した先は、模擬戦と観客席の境界線。

つまり、観客席としては最前列だ。


「えっと……あら。フェイラルカ様、ちょうど次じゃない」


対戦表を見てみれば、次はフェイラルカ様とロランド様との対戦だった。


模擬戦は一対一の戦いとなっている。トーナメントか総当たりかは、その時によって違うんだけど……今回はトーナメントみたい。


「ロランド様と、だね」


「あらら……見世物になっちゃうわね、あいつ」


「フェイラルカ様……ロランド様より強いの?」


「――あんたね、フェイラルカ様が何て言われてるか知らないの?」


「いや、まぁ……強いっていうのは知ってるけど」


実際、どっちが強いかは知らない。


一応、フェイラルカ様が騎士団の強さの象徴ではあるけど……。


比べるなら、イシュリッシュ様の方が強いだろうし(一応団長だし)。


実際は、わからない。けれど。


「私は、フェイラルカ様に……」


約束のせいで、無茶なお願いをされかねないけど。


「勝ってほしいな」


「――そう、ね」



正面を見つめるリーリィが、一体全体誰を応援してるかは。


私にはわからないまま。


試合が始まった。




***



一瞬、とまではいかないけど、結果は早かった。


「……セフィラ、口が開いてるわ」


「あー……うん」


何が起こったのか。

もちろん、フェイラルカ様とロランド様の模擬戦だ。


はじめは、フェイラルカ様とロランド様が木剣で打ち合っていたんだけど。

やがて、フェイラルカ様がロランド様の木剣をはじいてその模擬戦は終わった。


口で言ってしまえば簡単に終わる説明だ。

ううん、実際に、試合が早かったのだ。


ロランド様も強いと思ったけど、フェイラルカ様には――驚いた。


いつものクールなイメージとは全然違う。


まさに、ライオンのようだった……って大袈裟?


私は認識を改めた。


フェイラルカ様は、強そうなんかじゃない。

強いんだ。




そうして、トーナメントも佳境に差し掛かり、ついに決勝へと差し掛かる。

見事、決勝戦まで勝ち上がったフェイラルカ様は、いよいよイシュリッシュ様との対戦だ。


小さな頃から知り合いのイシュリッシュ様。

騎士団に入る前は、『イシュリ』なんて呼んでよく遊んでもらったっけ。



「あの騎士団長もそうとうやるって話だけど……フェイラルカ様と比べるとどうなのかしら」


「やっぱり、団長になるくらいだし……強いんじゃないかな」


「ふぅん? めずらし、セフィラがそんな風に言うなんて」


……まぁ、昔からケンカも強かったしなぁ。

でも、剣をふる姿は見た事ないからなんとも言えない。



とかなんとか言ってる間に、試合の合図がかかり。


『はじめっ!』


審判役の人が声をかけ、私は前を見つめた。



二人が木剣で打ち合っている。


剣と剣のぶつかり合い。


どちらも引かない責めの戦い。


ハラハラしながら、見ているこっちがつらいもので……あぁ!


あぶなっ、フェイラルカ様!


っていうか、イシュリッシュ様……フェイラルカ様が怪我したらどうするの!




「フェイラルカ様!」


「――!」


思わず声を出していた。


怪我をしてほしくなくて。


勝ってほしくて。



――ガツッ!



一瞬。



隙をついたイシュリッシュ様が、フェイラルカ様の剣をはじいた。



――まわしげりで。


「!」


イシュリッシュ様はそのまま、木剣でフェイラルカ様の目の前に突き立てた。



「まだまだだな。

私に隙を見せるなんて、命知らずだぞ?」



気取ったように言うイシュリッシュ様。


そして。



「ちゃんとしろ。じゃないと」



そう言ったところで、何だか騒がしい事に気付く。


あれ?



「なんか……人がよけて」


「フェイラルカ!」




――私は気付いていなかったのだ。


騎士団の模擬戦となれば、そこに王族が見に来ていてもおかしくないのだ。

特に姫様は、そういった催し物は大好きなことで有名なのだから見に来ていても何の違和感もない。


私は知らなかったのだ。


「姫様!?」


フェイラルカ様が姫様とお知り合いだということ。


「あっ、セフィラ!」


リーリィがあわてて私の目を隠したが、遅かった。


走り寄ってきた姫様が、フェイラルカ様に近付いて。

あんなに愛おしそうに、手を取って。

心配そうに傷を見て。

フェイラルカ様が、嬉しそうに笑っていたなんて。




私は、何もわかっていなかった。

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