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使用人と憧れ騎士様  作者: omi
本編
10/26

使用人と恋情

私はフェイラルカ様が好きだ。それはもう認めよう。

憧れや尊敬もあの人に対しては、尽きないけれど。

それよりも、私が傍にいたいと思ってしまったのだ。

見ているだけで良かったはずなのに。

近付きすぎると欲が出る。



リーリィには『あんたがあの人を好きだなんてそんな事、とっくに気付いてるし知ってるわ』とか言われたのは、やっぱり顔に出てたのかな。


顔をぐにぐに触ってみるけどよくわからない。


というか、こんな風に理屈っぽい事を並べて、再確認しても頭はたった一つの出来事でいっぱいだった。


むしろ、それを忘れようとするために考えてたって言ってもいいくらいに。




私はフェイラルカ様の言葉に翻弄されていた。



『ロランドとは別に、俺を――』


「うっ、あぁ……」


なんて恥ずかしい事を!私を頂点まで浮かれさせといて、後で落とすつもり!?


「思わせぶりすぎる……」


出会った時のあの感じは何処へやら。そういえば、なんだかこの間、スッキリしたような雰囲気だったし……。


「独り言が多いな、セフィラ」


「――!」


後ろからかけられた声に反応すれば。


「こっこんにちは」


堂々とした出で立ち。

群青の色をした髪を持つ彼は。


「イシュリッシュ様」


「様はやめろ。久しぶりだというのに、他人行儀な」


「お城ですよ? 騎士団長様に使用人がタメ口なんて……」


「固いなぁ。私とセフィラの仲なのに」



『仲』だなんて怪しい響きになるから、止めてほしい。


イシュリッシュ・ユズリハ様。私の実家のお隣さんであり、幼馴染みであり、今や『命の樹木』の一員にして、その団を纏める騎士団長様。


つまり、フェイラルカ様とロランド様の上司だ。



「フェイラルカと知り合ったんだったって?」


「情報が早いですね……」


「ロランドに聞いたんだ」


「あぁ……」



相変わらず余計な事を、なんて少し毒を吐いてロランド様を恨む。



「まぁ、良かったよ」


「恥ずかしながら、ずっと憧れていましたし。知り合えたのは、本当に運が良いというか……」


「え?」


「はい?」


「……?」



イシュリッシュ様が首を傾げて私も首を傾げる。



「あぁ……そういう事か」


「え!? どういう事ですか!」


「あぁ、うん。何でもない。とりあえず、知り合えて良かったね」


「ちょ、何ですか!」



思わず詰め寄れば、イシュリッシュ様が私の頭をぽんぽんと撫でて言った。



「フェイラルカの事、頼んだよ」



頭は疑問符でいっぱいだったが、次の瞬間、そんなものは吹き飛んでいた。



「セフィラ……と、団長」


それは間違いなく、フェイラルカ様の声だった。



「やぁフェイラルカ。お疲れ様。そんな怖い顔しないでくれ。ちょっとだけセフィラと話してただけだから」


「……」


「午後は模擬戦だから、今のうちに休憩しておくように」



そう言って、イシュリッシュ様は歩いて行ってしまった。


残されたのは、私とフェイラルカ様。


――この状況、なんだかロランド様の時と似ているような。



「わっ、私! 仕事があるので失礼しますっ」


「セフィラ」


恐る恐ると言ったかんじで、振り替えれば。


フェイラルカ様の真剣な顔があった。


「フェイラルカ様?」


「名前」


「……えっと」


「様は、いらない」



どうしよう。


私がフェイラルカ様を呼び捨てにするまで、何だか逃げられない気がする。



「あの、でも。やっぱり無理です」


「……じゃあ、あの事も?」



そう言われて、顔がカッと熱くなったのを感じた。



「あれはっ」


「言ったはずだ」



そう、言われたのだ。

あの日、フェイラルカ様は。



『ロランドとは別に、俺を――』


私の耳元で。


『少しだけ、特別扱いしてほしい』


言ったのだ。



「どうしたら、そうしてくれる?」


「やっ、えっと」


「どうすれば……」



すっと、私の手を取って。

指先にそっと口をつけられる。


待って待って。

どうして、こうなったの!?



「フェイラルカ、様」


「今日の午後」


「へ?」


「模擬戦があるんだ」


「あ……知ってます。ボス……使用人の責任者が言っていました」


「もし、それで俺が団長に勝てたら――願いを聞いてほしい」


「――え」


「約束だ」



指先、そして、手の甲に口をつけられてフェイラルカ様は去っていった。


私を、どうしたいんだろう。これじゃあ、口から心臓出てきそうだ。




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