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私は刈谷さつきではない 4

「さつきさん、僕もう帰ってもいいですか?」

「まあ待て、見ろあの素振りを」

僕は眠たげな眼を上げる。

「一っ!」

「面っ!」

「二っ!」

「面っ!」

「なっ、なっ、すごいだろう。あれだけ華麗なダンスを踊るのは相当な訓練が必要とされるはずだ」

「感銘を受けてるところ悪いんですけどあれはダンスじゃないですよ」

ただの素振りだ。まあ、相当の訓練はしているだろうけど。

「ダンスじゃない?じゃあなんだあれは?洗脳か何かか?」

「失礼すぎるっ!」

「む・・・そうだな、今のは私が悪かった。全面的に発言を撤回しよう」

「まあ、そうすべきですよ」

「私は刈谷さつきではない」

「そっから!?」

まさかの最初からの全撤回!?

「本名は中島と言うんだ」

「4か月にも及ぶ壮大な嘘!」

驚いた。多分生まれてから今までで一番。

「中島のぼるという」

「そしてまさかの性別詐称!?」

僕の驚き更新回数はとどまるところを知らない。これがアイドルのブログならアクセス数トップも狙えるだろう。

「エエエン!!」

突然だった。道場の中心付近からそんな声が上がった。

「うわっ!・・・ああ、びっくりした。なんだ、怪鳥の鳴き声か・・・」

「違う」

さつきさんから帰ってきた突っ込みは突っ込みのレベルにも達していない程冷静なものだった。そのテンションの低さにふざけ過ぎてついに嫌われたのかと思ってさつきさんを見ると、僕なんかには目もくれず声のする方を凝視していた。その視線の先には武装した、もとい防具を身にまとった雫がいた。

「テエエエ!!」

面をかぶっているので唯一雫だと判別できるのはその甲高い声と前垂れに縫われた「雲霧」の名字くらい。ほかのどこにも普段の馬鹿な中学生の面影はない。

「ケキャアアア!」

いや、本当になんて言っているかは分からないんだけど、とにかく鬼気迫るものがあるのだ。

「格好良いではないか」

「ええ、カッコいいですね」

だから不覚にも、そう返してしまった。

正直甘く見てたね。本人は剣道に全てをかけてるなんて言ってたけど所詮はスポーツだから、まあ楽しくやってるのかな、くらいに思ってたけどそういうレベルじゃないんだな。なんていうか、僕は普段部活のドキュメンタリーとか見ても「どうせカメラがある所だけまじめにやってるんだろ」くらいに思ってたけど、全部撤回する。最初からの全撤回だ。

「ふむ・・・アアーア・アーイエではないのか・・・」

「古っ!」

そんなの忘れてたよ!!

「実は僕は中2の春から大病を患って先月無事退院できたんですよ」

「自分の罪をなかったことにするな!!」

「ちぇっ・・・だめか」

ダメに決まっていた。こんなこと春日井さんや委員長の前で言おうものならミキサー車の中に即座に突っ込まれるだろう。ブルブル。

「ふむ・・・礼儀か。礼儀を重んじるとあんな風になれるのか」

「いや・・・それは・・・」

「よし、決めたぞ耕太。私は礼儀に生きることにする。そして剣の道を極め、飛天○剣流を越える剣術を開発し、縁の無念を晴らして見せる」

「復讐するのっ!?」

しかもとんだ長期スパンだ。飛○御剣流は戦国時代にはすでに最強とうたわれていた剣術なのに・・・。

「ぬるい。そんなもの私のかまいたちでイチコロだ」

「負けてるよ!かまいたちの使い手はかなり序盤の方で心折られてるよ!」

作者も認めた最も無様なキャラクターナンバー1になり下がってるよ!

「とにかく礼儀だ!一回帰ってやつに話をつけてくる。いや、礼儀正しく挨拶してくる!ちゃんと靴も揃えてな!!」

さつきさんは立ち上がり、玄関の方へ悠々と歩いて行った。おいてけぼりの僕、そして座布団。

「まあ、いつものことだけど」さつきさんがいなくなったので独り言体質に逆戻りしてしまった。さつきさんはこんな風にどうでもいいことで僕の所へ来ては勝手に自分の中で解決して帰っていく。

「しょうがないな・・・」

僕も一度立ち上がり、ちょっとした片付けをする。すぐにまた座り、雫の雄姿を見た。今の相手は男の人だろうか。雫よりも大きい。

「シャアアアア!!」

雫はアー○ンさんみたいな声を上げながら戦っている。自分より大きな相手でも覇気が衰えることはなく、むしろ動きがよくなっている気がする。ってまあ、何をどうすれば動きがいいというのかさっぱりなんだけども。

「あぁ、暇だな・・・」

残念ながらさつきさんがいない今、僕はこれくらいしか感想を持つことができない。



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