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続・エキセントリック・ビューティ  作者: 炊飯器
恐怖の夏旅行編
42/58

どんな踏まれ方が好き? 1


どうやら僕と春日井さんが貞子さんの話をしていたのが永川さんの耳に届いたらしく、急遽肝試し大会が開催されることになった。

舞台はすぐそこの山。頂上付近に神社があるらしく、及川と永川さんが先に境内に何かを置いてきて、残り4人が2人ずつのペアになってそれを取りに行く。というルールだ。

文化祭で総合優勝を果たしたお化け屋敷の内装と大道具の責任者の結託という極めて肝の冷える事態である。

だが、永川さんは気付いていなかった。自分が肝試しよりもずっと肝の冷える提案をしていることに。

まず、今いる6人の面子を思い出してほしい。そしてそこから及川と永川さんを除いてみると何が残るだろうか?

そう、女性3人と僕が残るのだ。しかも2人組という提案をした以上、どんな組み合わせであっても3人のうちだれかが僕とペアになる。

いや、もちろん何もしないよ。僕にそんな度胸はないし、クラスメイト相手にそんなことするほど馬鹿じゃないつもりだ。

いや、クラスメイトだろうが他校生だろうが告白を繰り返していた僕が行っていい台詞じゃないな。僕がどんな釈明をしたところで逆効果になるだけだろう。

しかし提案をしてしまった以上引き下がれないのが永川さんの性格らしく、なんと組み合わせはくじ引きではなく話し合いで決められることになった。

僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらその光景を及川と肩を並べて見ていたのだが、話し合いは思いのほかすんなり決まったようだった。

・・・・・・って、まあ春日井さんになるのだろうけど。

日比野さんや志井さんに決まったらその場で卒倒しかねない。

春日井さんは僕に対する信用が多分、きっと、もしかしたら、毛虫の毛先ほどはあるのかもしれない。ていうかあったらいいと思う。

「みんな、今までありがとう。私はこんな性格だから、嫌な思いをさせたこともあったけど、みんなと出会えて、本当によかったわ」

「・・・・・・」

その後、目の前で繰り広げられた光景があまりにもあれ過ぎて僕は口を開くことができなかった。

「そんな・・・。若菜。いやだよぅ」

なんてったって志井さんが半泣きになっていたのだ。志井さんは神社の境内に物を置きに行った永川さんと及川が戻ってくるまでずっとその調子だった。

壮絶な光景だった。

「いいのよ。誰かがやらなきゃいけないんだから。だから泣かないで」

「でも・・・だって・・・・・・」

「莉子や美耶が泣かないために私は行くって決めたんだもの。私はあなたたちの涙を見たくないの。だからわかって。こうするしかないのよ」

え~、この会話は僕の目の前で行われています。念のため。

「大丈夫よ。私はちゃんとここに戻ってくるわ。約束する」

「本当?」

まるで世界を救うために相討ち覚悟で魔王に挑む勇者とその勇者の愛する人のような会話だった。

だけど、こんなの突っ込めるわけがないじゃないか!なんてったって、この場合の魔王は僕なのだ。

「漆根君」

志井さんが目元をぬぐいながら少しだけ赤い目で僕を見た。ちなみに彼女が僕に話しかけるのは初めてのことだ。いつものおどおどした感じが嘘のように強い口調だった。

「若菜に何かしたら玉ねぎを生で食わせるからね」

拷問っ!?

「・・・・・・はい、肝に銘じておきます」

この言葉以外に何を言えと言うのだろうか。僕はとりあえず床に正座しておいた。

さっきから僕を見る日比野さんの目がかわいそうなものを見るそれなので、つまり僕は今とてつもなくかわいそうなことになっているんだろう。


「幽霊?怖くないわ。そんなことより人気のない夜の山道を漆根君と二人きりで歩くと言うシチュエーションの恐怖を誰かわかってくれないかしら」

「・・・・・・」

及川と永川さんが戻ってきて、僕と春日井さんが最初に肝試しをすることになった。僕らが指定のものを取ってきて、日比野さん、志井さんと交代するという方式だ。怖いから途中で合流する、なんてことは言わせないということらしい。

あの二人のことだから途中になにか仕掛けがあるかもしれないし、境内に何が置かれているかわかったもんじゃない。

さて、肝試しといえば男がかっこいい所見せるチャンスてんこ盛りのイベントなのだが、残念ながらそんな展開にはなりそうにない。

なぜならば、僕のペアが春日井さんだからだ。Tウイルスに感染したゾンビに出会っても冷静に対処できそうな方である。僕が何かをできるはずもない。

それに、発言通り春日井さんは全く怖がっている様子はない。これは前に春日井さんが言っていたことだが、彼女は自分が見たものしか信じない。そしてその彼女は幽霊を見たことがないそうなので、幽霊を信じないのだそうだ。

「しかし本当に残念なことだわ」

「何が・・・?」

僕の右手には緊急用の蝋燭が立てられた蝋燭立てがある。まさか御庭番衆の拷問のように掌に五寸釘を打って蝋燭を突き立てるわけにはいかなかったので、用意してもらったのだった。

とはいっても、今日は満月とはいかないが月がきれいだ。街灯はないが、もしかしたら蝋燭なんていらないかもしれない。

「私は漆根君を見たことがあるから信じざるを得ないのよね。漆根君を認識してしまったことは私の一生の不覚だわ」

「そこまで言うっ!?」

確かに彼女にとっては災難だっただろうけど。知らぬが仏とは僕のためにある言葉だ。

「むしろここで自説を撤回して、見たことないものも信じてみれば、見たことのある漆根君もいないことにならないかしら?」

「聞いて聞いて春日井さん、僕はここにいるよ!」

「ああ、もう虫がうるさいわね。・・・ああ、これは漆根君のことじゃないわよ」

「ああ、びっくりした。突っ込みの準備しちゃったよ」

危ない危ない。あと一歩で虫だと認めるところだった。

「ああ、もう虫がうざいわね。・・・あっ、これは漆根君のことよ」

「ぼくは虫かよっ!!」

森の木々がざわめくくらいの突っ込みをあげた。もっとも、雫の声には全く届かないが。

春日井さんには今度こそ「うるさい」と怒られるかと思ったが、彼女は

「はあ」

とため息をついただけだった。

「いい、漆根君。突っ込みは勢いだけじゃダメなのよ。せっかく私がナイスパスをしたんだからそれなりに面白い突っ込みを返してくれないとつまらないわ」

「ダメ出しされたっ!!」

むむう・・・。確かに言う事は一理ある。僕は勢いだけで突っ込んでいるのかもしれない。

「アドリブのトークもできないとパンク○ーブーみたいに業界から消されちゃうわよ」

「消されてねえよっ!彼らも頑張ってるよ!!」

M-1王者をなめるなっ!!

「はい、『○○をなめるなっ!』は2回目だから減点ね。前は『国家権力をなめるなっ!』だっけ?」

「なんで覚えてるのっ!?」

普通に怖いよ!採点にビビっちゃって喋れなくなっちゃうよ。

僕は声も身長もメンタルもちっちゃい男なのだ。

いいとこないな、僕。

「小さくたっていいじゃない。たとえ大は小を兼ねるとは言っても大きいものばかりじゃ邪魔になるわ。だから漆根君のような矮小な存在が一人くらいいてもいいんじゃないかしら。少なくとも目に見えないゴミなら邪魔にはならないわけだし」

「春日井さん春日井さん、徹頭徹尾一切合切のフォローが出来てないよ・・・」

「ええ」

「返答が短いっ!!」

やっぱわざとか!

いやしかしこのままでは僕はそうなってしまうのかもしれない。春日井さんは言い過ぎだとしても―――人権侵害になるくらい言い過ぎだとしても、僕が小さな人間であることに変わりはないのだ。多少は存在感を出していかないと。

存在感、か。とりあえず一杯食べて大きくなればいいのだろうか。

いや、無理か。僕は食べても太らない、というかあんまり一杯食べられないたちなのだ。

いくら食べても体重は増えないし・・・。

「まあ、せいぜいがんばるといいわ。私に踏みつぶされないようにね」

「・・・・・・」

何が怖いって僕が40歳くらいになっても仕事がなくて、既に会社を経営している春日井さんに土下座をして仕事をもらっている図がかなりリアルにイメージできてしまう所だ。


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