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続・エキセントリック・ビューティ  作者: 炊飯器
恐怖の夏旅行編
36/58

ちょっと待ってて、エンコ詰めるから 3

砂の城をつくろうとしたものの細かい造形がめんどくさくてやっぱりトンネルにしようと幼稚園児みたいなことを考えていたところ、お昼休憩の号令がかかった。

田舎とはいえ一応観光地なので海の家がある。吹き抜けの建物。屋根とござの敷かれた床に机が3つしかない簡素なつくりだが、風通しも良く、日差しに焼かれて疲れた体にはいい休息所になる。

「ずっとしゃがみこんでたから背中が痛いや」

普段日差しに慣れてないから赤くなってヒリヒリする。日焼け止めを塗っておけばよかった。

「ちょっとやめてよ、漆根君。そんな事言われたら私としては叩かざるを得ないじゃない」

「ほんとにやめてっ!!」

なんでもかんでもフリにとらえないでよっ!

「僕の日常はバラエティ番組じゃないんだから!」

「え・・・・・・?」

うわあ、本気で首をかしげてる。

そう言う春日井さんはちゃんと日焼け止めを全身に塗っていた。遅かったのはそれが原因だったらしい。及川はというと7月にも旅行に行っていたので既に黒かった。つまり、一番ダメージを受けたのは僕の皮膚だというわけだ。今夜のシャワーが怖い。いや、むしろ春日井さんに背後に立たれるのが怖い・・・・・・。

及川が全員分の焼きそばを取りに立ちあがった。永川さんが手伝うと言ってついていき、志井さんも永川さんにくっついていく。

「それにしても、泳げないなんて何しに来たんだか・・・」

春日井さんがちらっと僕を見、机に頬杖をついてため息をついた。

「それに関しては返す言葉もございません」

小中の授業だったり家のすぐ近くの海水浴場だったりでカナヅチを克服するチャンスはいくらでもあったはずなんだ。それなのに今現在この体たらく。怠慢というほかない。

「泳げないなら誘ったときに断ればよかったのに・・・」

「だから僕は誘われてないんだって!」僕は机をばしんと叩く。手が痛い。

「そう言えばさっきはうやむやになっちゃったけど、なんでクラスの打ち上げに僕だけ呼ばれなかったの!?」

軽く流せるような話じゃない。こんなのってないよ!

「しょうがないじゃない。漆根君が来るなら行かないってみんなが言うんだもの」

「・・・・・・」

泣きそうだ。多分そんな感じなんじゃないかと思ってたけど、本人目の前にしてはっきり言わなくても・・・。確かに聞いたのは僕なんだけど・・・・・・。

「ちょっと、若菜。さすがにかわいそうすぎない?」

さっきからずっと黙って聞いていた日比野さんが春日井さんに言った。多分こっそり言おうとしたと思うのだが、ちゃんと僕にも聞こえてきた。

「残念でかわいそうすぎる男で本当にごめん!」

こんな状況もこんな性格もやっぱり作り出したのは僕なわけで。本来ならば今さら落ち込んで声を荒げる資格すらないのかもしれない。だから日比野さんの嘲笑は当然とも言えた。

「あ、気持ち悪い」

「・・・・・・」

「や、そういう意味じゃなくて。漆根君が気持ち悪いんじゃなくって・・・ああでも確かに気持ち悪いのは漆根君なんだけど・・・。ああっ、それでさっきのも漆根君がかわいそうって言うんじゃなくて・・・あ、漆根君はかわいそうなんだけど・・・ってそれも違くて・・・」

「そろそろやめてあげて。漆根君の心が消滅寸前よ」

うん、まあ春日井さんの言う通りなんだけど、それよりもどうして日比野さんがこんなにもしどろもどろなのか、何を言おうとしてるのか、そして何よりもなぜ僕に話しかけるのかがわからず僕は首を傾げっぱなしだった。

「つまり・・・あのね、打ち上げなんてなくて・・・あれは若菜の嘘・・・」

「そーなの!?」僕は机から身を乗り出した。

「ひぃっ!」

「ひぃっ」て言われた!クラスメイトから「ひぃっ」って言われたっ!!

僕は素早く春日井さんを見た。

「・・・・・・」

目をそらされた。

「ふう。あーあ、ばれちゃった。このネタでしばらく引っ張れると思ったのに」春日井さんはそっぽを向きながら息を吐いた。

「それはもはやいじめではなく拷問のたぐいだよ!」

クラスに入るたびに、「ああ、この人たちはみんな僕のこと嫌いなんだ。そっけない振りして心の中では嘲笑っているんだな」とか考えなきゃいけなくなる。

「20年くらいはいけるかなーって」

「そんなに騙すつもりだったのっ!?」

ふう。じゃないよっ!!かなり巨大な人権侵害だよ!!

「ま、過ぎたことはどうでもいいじゃない。海だけに全部水に流してお昼ご飯にしましょう」春日井さんは両掌を合わせながら言った。

「よくないよっ!なにものすごく大雑把なオチを作ってなかったことにしようとしてるのっ!?」

だいたい水が流れるなら川だ!海だったら寄せては返してまたこっちにくるよっ!

「なんなの・・・。折角こっちが楽しくしようと頑張ってるのに終わったことをぐちぐちぐちぐちと」春日井さんは指で机をトントンと叩いた。

「君にだけはイライラする資格はないっ!!」

この場面で怒っていいのは間違いなく僕だ。

「あー、はいはい。私が悪いんですよねー。そうですよねー。謝ればいいんでしょ、謝れば。はいすいませーん」

「そのドヤ顔をやめろっ!」

余計イライラするよ。まだ何も言われない方がましだよ!

そして僕の中で春日井さんのキャラ崩壊が絶賛進行中なんですが・・・。

「注文が多いわね。分かったわよ、ちゃんと謝るわよ。シェイシェイ」

「その言葉は確かに「謝る」を二回続けて「謝謝」って書くけど意味は「ありがとう」だよっ!」

ちょくちょくウィットに富んだボケをするのやめてくれないかなあ。たまにマジで意味がわからないから。

「そう、私は漆根君にお礼を言っているのよ」

「え・・・・・・?」

「なんだかんだ言ってもいつも私のわがままに付き合ってくれるし今回も来てくれたしね」

「・・・・・・」

えーっと、どういうこと?何この感じ?ものすごい居心地が悪いんですが。ここは「どういたしまして」と返せばいいのかなあ?だけどそれもなんか違う気がするし。くそっ、何も言葉が浮かんでこない。ここは1つ小噺でもすればいいのか?

「べ、別に春日井さんのためにやってるわけじゃないんだからねっ!」

悩んだ末に僕の口から飛び出したのはそんな最低のチョイスだった。

「ぶっ!!」日比野さんが噴き出した。

うわっ、凄い恥ずかしい・・・。学校の先生を間違えて「お母さん」と呼んじゃった時と同じ気分だ。そう言えばあれって必ず「お母さん」だよな。「お父さん」だったり、「お袋」だったり、「オジキ」だったりはないのかなあ。



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