空中ブランコで2人とも飛んでしまうかのごとき暴挙だよ!! 4
中流階級であるところの漆根家の長男である僕は別荘というものに足を踏み入れるのは初めてなのだが、家の中はかなり独特な雰囲気を放っていた。まず、漆根家2つ分くらいに広いにも関わらずものが少ない。生活臭がないといった方がいいのだろうか。まあ、言ってしまえばホテルみたいな印象を受けた。荷物が重いので間取り云々を見ることもできず、及川の後をついてゆく僕。気分は古代ローマの奴隷である。自分が何処へ行くのか、何をしているのか、そんな事はどうでもいい。ただ苦しみから逃れるため、目の前の人の足だけ見て歩くのだ。
なんとか春日井さんの荷物を肩から下ろすことに成功し、及川と僕はあてがわれた部屋に向かう。相部屋だ。
「そう言えば聞き忘れてたけど絵美ちゃんは来るって言わなかったの?」
絵美ちゃんなら言いそうだ。むしろ及川の荷物に紛れ込んでいてもおかしくない。
「絶対行くって泣きわめてたけどな、受験生だから家にいる」
「受験って・・・・・・中学校?」
「大学だ!」
「そうだった」
だって見た目小5だもの。彼女だけ時が止まっているんだもの。
「代わりに八つ当たりで俺の原付が廃車になった」
「ていうか普通に校則違反どころか無免許運転だからな」
「もう乗らねーよ。いや、もう乗れねーよ。あんなハンドルのない原付」
「怖いよー」
絵美ちゃん怖いよー。
「ったく。代わりにお前が壊されればよかったんだ」
「死ぬよ!僕ガチで死ぬよ!?」
絵美ちゃんに壊されるぐらいなら自害した方がましな気がする。
「さあ、早く着替えろ、漆根」
「やだ」
何を言うんだ、こいつは。着替えるって何だ?死装束にか?
「水着に決まってんだろうが!」
「死装束じゃないかっ!」
「どんだけラフなんだよ、お前の死装束は・・・」
うるさい!泳げる奴に僕の気持がわかるか!
突然ポケットの中で何かが震えた。実験用のマウスでも入れていたのかと探ってみる。もちろんマウスではなく、携帯電話だったわけだが。
「もしもし」
「海行くわよ」
ブツ、ツーツーツー
「・・・・・・」
はい、死刑宣告いただきました。