これはただのツンデレなのよ 3
・・・というわけで今にも走り出しそうなテンションを抑え、じっと座っていることに集中した。ちなみに春日井さんはさっきから窓の外ばかり見て、全然こっちを見てくれない。
友達なのに・・・。
「あ、そうだ及川」
しばらくして、見たこともないような道を走っている時に僕はようやく及川に尋ねた。
「2カ月遅れの文化祭の打ち上げってことはわかったんだけど、どこ行くの?2,3日って言ってたけど」
宿泊するための持ち合わせなんてないぞ。突然だったんだし。
「別荘」
「べっ・・・」
ホワット!?
「だから別荘だ。言ってなかったっけか?」
「いや、聞いてないよ!」
徹頭徹尾、何から何まで聞いてないよ!
まあ、確かに及川家のブルジョワっぷりを鑑みれば別荘の一つくらい持っていてもおかしくない気はする。にしてはなんか無愛想に言うなぁ・・・。
ああそうか、察するにその別荘は親父さんのものなのか。及川は親父さんと若干のわだかまりがあるからな。及川が及川になった後の・・・。いや、及川は最初から及川だから・・・。
「めんどくせ。まあいいや」
とにかく旅費とかの心配はしなくていいらしい。しかしそう考えるとしばらく漆根家にある僕の部屋には2,3日誰も入らなくなっちゃうわけだ。それはまずいな。
というわけで僕は携帯を操作する。アドレス帳には入っていないけど、普通に覚えている番号をプッシュした。要するに自宅の番号だ。
「もしもし」電話口から外行き用の高い声が聞こえてきた。
「あ、つむぎ?僕だけど、一個お願いがあるんだけどいいかな?」車の中なので口元に手を当て、極力声を殺して通話する。僕だってそれくらいのマナーは心得ている。
あんまり僕の部屋に入れたくはないんだけど、どうせ何もないからいいか。
・・・何も無いよ!信じてくれよ!
「なに?レンタルビデオ?それなら返さないわよ。勝手に延滞金で苦しめばいいじゃん」一気に不機嫌な声に戻った。
「・・・・・・」
お前、絶対春日井さんと会話とかするなよ。仮にしたとしても看過だけは絶対されるな。
「そんなんじゃないよ」
「じゃあなに?今あたし忙しいんだけど」
つんけんしてるなあ。まあ、今に始まったことじゃないけど。
「いや、別に大したことじゃないんだけど、僕の机の上に『及川につれさられて旅行に行ってきます。しばらく帰れませんすいません』っていう書置きを残してほしいんだ」
さつきさんが来るかもしれないからね。
「は、はあ?書置きって誰によ」
「いやいやそういう余計な詮索は良いから言った通りにやってくれよ」
つむぎの言い分はもっともだ。大丈夫、お前は正常だ。だが、僕としては本当のことを言えないジレンマがある。なんてったって本当のことを言うと僕の帰る家がそのまま病院になりかねない。
「いやよ、気持ち悪い」
「・・・そっか、それならしょうがないな」
まあ、ほかの人に頼むのが気後れしたってだけだから、やりたくないというつむぎに無理に押し付けようとは思わないさ。
「しょうがない、じゃあシュウ君にでも・・・」
「やめて!!」僕の鼓膜を破壊することを目的にしたかのような叫び声、というか悲鳴だった。車内の面々の目が僕の方を向いた。
「わかった、わかったわ。言う通りにするからそれだけはやめて」
「うん?いやまあお前がやってくれるっていうなら僕としてはシュウ君に頼む理由はないけどさ」
「えっと、タウンページ・・・精神病院は・・・」
「なんか言ったかっ!?」
不吉な単語が聞こえたぞ。
「な、なんにも言ってないっ!・・・じゃ、じゃあ、最期の旅行ゆっくりと楽しんでくればいいんじゃない!」
ガチャ、ツーツーツー―――