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続・エキセントリック・ビューティ  作者: 炊飯器
恐怖の夏旅行編
26/58

これはただのツンデレなのよ 2

最終的に僕は3列前の一番奥。僕の横に大量に荷物が置かれてその横に春日井さん。要するに僕と春日井さんの間には荷物がある。

そして2列目。僕らの前には3人が座り、助手席に及川。そして運転席にはもちろん及川の親父さんが座った。

「じゃあ出発するよ」

及川の親父さんの声とともにエンジンが掛かる。とりあえず僕もみんなにならって「お願いします」と言った。なんでお願いしてるのか、何をお願いしているのか、全く解らないわけだけども。

「それでさ、春日井さん。そろそろどういうことなのか説明してほしいんだけど」

おじさんとみんながいる以上、そしてこの席の位置上一番問い詰めたい及川を問い詰めるのははばかられたので、とりあえず隣に座っている春日井さんに聞いてみた。

「あら?言ったでしょ?」

「なにをっ!?」

春日井さんは首をかしげながらケータイをチェックしていた。

「あっ、そっか。漆根君にだけ連絡するのをちゃっかり忘れてたわ」

「ちゃっかりかよっ!」

「ええ、しっかり忘れてたのよ」

「とりあえずうっかりではないんだな、そうなんだな!!」

「ええ、もちろん。ほら、私ってそういう失敗をしないじゃない?」

「このしっかり者!」

「あら、褒めてくれてどうもありがとう。別にいいじゃない。どうせ暇だったんでしょう?」

「暇だけども!」ゴロゴロしようかどうしようか悩んでるところだったけどもっ!」

それとこれとは絶対別問題だ。

「なに?私が悪いって言いたいのかしら?」

「まあ、悪いのはだれかって言ったら間違いなく君っていう話にはなるよね」

「言ってくれるじゃない。こうして善意で誘ってあげたというのに」

「いや、だから誘ってないんだよね」

善意どころかちらちらと悪意が見え隠れするのは気のせいだろうか。

「いいえ、善意よ。こうして漆根君の隣に座っているなんて女神の所業よ。だいたい元は文化祭の打ち上げっていう話なんだけど。・・・・・・ほら、クラス全体の打ち上げって、漆根君だけ参加してないじゃない?」

「僕だけっ!?えっ、うそっ?そもそも打ち上げってあったの!?」

だって、それは、校則で禁止されてるはずじゃあ・・・。

「あっ、そっか。漆根君には内緒だったわね・・・」春日井さんはふと思いついたようにそう言った。

「え、え、ちょっと待って。それは冗談戯言一切抜きで素でへこむ事態なんだけど」

「そういうと思って黙っておいたのよ」

「ちょっ、ちょっ、それは本気でひどい」

「冗談よ」

「本当に?」

ものすごいリアリティに溢れてるんですけど・・・。

「あら、漆根君ったら友達を信用できないのかしら、友達を。ねえ、私たちって友達よね?」

「こんなときに連呼される友達ほど信用できないものはない!」

お金貸してくれる?・・・とか。

連帯保証人になってくれる?・・・とか。

何も言わずにこの書類に印鑑押してくれる?・・・とか!

「はあ、もう車から飛び降りればいいのに」相変わらず常人ならざるため息だった。

「なぜにそんな最高の刑罰をっ!?」

「人間失格だからよ」

「いやいや、それなら春日井さんの方が・・・」

僕がそう言うと、春日井さんはふいに暗い顔になった。

「そうね。漆根君がそう言うなら、確かにそうなのかもしれないわね」

あれ?随分と潔いぞ。さすがに1学期間絶えず僕をいじめ続ければ罪悪感も芽生えるのか。

「ええ、認めるわ。私は人間失格よ」

「ええっ?突然どうしたの?」

僕のせい?これも僕のせいなの?

「お察しの通り、私は人間をやめたのよ」

「いやいや、そんなことは全然察してないよ!人間やめたなら今は一体何なのさ」

「私は人間じゃない、超人よ」

「超人っ!?」

「ついでに言うと漆根君以外の全人類が昨日超人になったわ。漆根君だけ別だけどね」

「ここでまさかのボトムダウンではなくトップアップが来たっ!」

結局僕が虫と呼ばれるのと何一つ変わっていないっ!

「世界は変わってしまったわね。漆根君は変わらないけど。今の私は英語で言うと・・・そうね、スーパーウーマンかしら」

「ダサっ!!」

「なんですって?私が徹夜で考えた名前を!言ってくれるじゃない、ゴミのくせに」

「ゴミ!?今あろうことか友達を捕まえてゴミと言ったのっ!?」

なんだよその超人たちとの圧倒的な格差は!

「はあ?友達?思い上がりも甚だしいわね」春日井さんは気だるそうに言った。

「あ、うん。・・・そっか。・・・・・・そう、だよね・・・」

はあ、そりゃそうだ。僕のようなゴミに及川以外の友達ができるわけないじゃないか。身の程を知れよ。あんなの、一時のテンションによりジョークの一環に決まってるじゃないか。それなのに勝手に勘違いして、2か月も舞い上がって・・・馬鹿みたいだ。

「・・・・・・」

「あれ?叩かれてへこむなんて漆根君らしくないわね」

「あ、うん」

まあ、僕らしさなんてその程度のものなんだろうな。

ていうか叩かれてへこまないやつなんて相当おかしいだろ。そんな変態チックな奴に友達なんかできるわけないじゃないか。

「ちょっと、あの、折角の旅行なのに往路でそこまで落ち込まれるとこちらのテンションが上がらないのだけど」

「ああ、ごめんよ、頑張るよ」

テンションを上げるんだな。

あれ?どうやってやるんだっけ?

「・・・・・・」

何をしてるんだよ、僕は。ほら、周りの人に迷惑かけてるじゃないか。ゴミならごみらしく黙ってごみ箱に収まってろよ。

「えっと、漆根君?クーラーが掛かってるから窓は開けなくてもいいのよ?」

「ああ、ごめん。また迷惑かけちゃったね・・・」

息をするだけで喉が震える。というか酸素が極端に薄くなった気がする。呼吸ってどうやってやるんだっけ?そもそも僕は呼吸をしてもいいのかな?許可取ってないよね。勝手に春日井さんたちの酸素使ってるけどこれってすごい失礼なことじゃなかったのかな。

「・・・・・・ええと、ちょっと待って。違う。これは違うのよ。これはただのツンデレなのよ」

「ツン、デレ・・・?」

「ええ、そう、そうよ。決して本心から友達じゃないと言ったわけではなくて、漆根君のことはちゃんと友達として認識しているのだけれど、そう公言するのが恥ずかしいからあえてそうではないと言っただけなのよ」

「恥ずかしい?・・・つまり、僕の友達と言うのは恥ってこと?」

まあ、そうだろうな。

「いえ、そういう意味で言ったのではなくて。・・・・・・ああ、もう!これは、そう・・・照れ隠しだったのよ」春日井さんは顔を窓の外に向けたままそう言った。

「えっと、じゃあつまり・・・僕は春日井さんのことを友達だと思っても?」

「ええ・・・・・・いいと、思うわ」

「そう周りの人に紹介しても?」

「・・・・・・好きにして」

「うわあああああい!!」

「うるせえ、漆根!!」

突然の僕の喜声というか奇声にみんなびくっと体を震わせたようだ。

しょうがない、しょうがないよ。

「ひゃっほー!!」

「漆根君、少し静かにしてくれない?」

今度は及川の親父さんからの苦情だった。

「あ、すいません」

怒られたっ!大人の人に怒られたっ!!



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