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続・エキセントリック・ビューティ  作者: 炊飯器
恐怖の夏旅行編
25/58

これはただのツンデレなのよ 1

それは8月第2週に入ったばかりのことだった。あらかた宿題を終えてしまった僕が教科書を取り出し、暇をあかせて一学期の復習に取り組もうか、いや、でも暑いしこんな日は扇風機を回しつつゴロゴロしてもいいなあ。まあ、どっちにしても絶対外には出ないけどね―――と考えていた時のことだ。突然玄関の扉が開く音がした。

つむぎが誰かの家に行くのかな?それとも父さんか母さんがなにかあって帰って来たのか、もしかしたらさつきさんかもしれない、あっ、でもなんか旅行行くからしばらくここには帰って来れん!みたいなこと言ってなあ・・・いやさつきさんのことだ、旅行先でケンカしてる線も十分にあり得るからな、と色々思案していると階段をどすどすと上がってくる足音と、とたとたとそれに続く複数の足音が聞こえてきた。

「・・・・・・?」

つむぎの友達かな?いや、だとしたらどすどすはおかしくないか?なんか父さんよりも重量級だぜ、この足音は。

「よー、漆根。行くぞー」

「・・・・・・どこにだよ」

及川である。部屋の扉をギリギリ通れる巨体。もしこいつに髪の毛があったら枠に引っかかってるだろう。だが、残念ながら及川に髪の毛という概念はない。

「どうでもいいだろ、そんなのは。さ、行くぞ」

そのままずかずかと上がりこんでくる及川。まあ、それはいつものことであるので不快なだけで困惑はない。しかし今日は違った。マジでビビった。

「え・・・なに?なになになに!?」

「相変わらず部屋の主の存在理由がわからないくらい無個性な部屋ね」

「か、か、か、か、か、春日井さん!!」

・・・・・・がいた。

「あれ漆根君じゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね。ところで、なんで生きてるの?」

「こんな仕組まれた奇遇があり得るかっ!」

この言いよう。間違いない。これは幻覚でも夢でもなく、本物だ。本物の春日井さんだ。

「え?え?え?ええっ!?」

し・か・も!しかもである。及川と春日井さんだけではなく、ほかにも3人の女性がいた。

いや、『ほかにも3人の女性がいた。』

これくらい強調しないと僕の困惑は伝わらないだろう。もちろん及川の押し入り方と春日井さんの毒舌に明らかに引いていたけど。

私服でいつもとイメージとちょっと違うから間違ってるかもしれないけど、彼女たちは文化祭の1年4組の局長たちだったはずだ。

「こいつが中学の修学旅行用に買ったバッグはこのクローゼットの中にあるんだ」

「なぜお前が僕の部屋の解説をする!?」

そんな僕の疑惑を完全に無視してクローゼットを勝手に開け、バッグを取り出し、服も勝手に取り出してその中に詰める。

「おっ、スクール用以外の水着がある。買う手間が省けたな。つーか泳げない癖になに持ってるんだよ」

「去年お前が無理やり買わせたんだよ!!」そう、僕は泳げない。今の高校は近いから+プールがないからという理由で選んだ。

「なんなの耕兄・・・」

自分の部屋にいたらしいつむぎが騒ぎを聞きつけて顔を覗かせた。そんでもってフリーズした。

「きゃー、かわいい」

「名前なんて言うの?」

そして囲まれた。

しかしなんなの耕兄、と聞かれても僕が聞きたいくらいだ。

・・・・・・・・・・・・何これっ!

「よっ、つむぎちゃん。こいつ2,3日借りてくわ」

ちなみに及川はよくこうして僕の家に来るのでつむぎとも面識がある。

「えっ、あっ、それは・・・助かります、けど・・・」

「助かるって何だよっ!!」

重荷なのか?僕はお前にとってそんなに重荷なのかっ!?

「そうだそうだ。悪いけどこいつの歯ブラシを持ってきてくれねえか?」

そんな及川の頼みを疑問に思う事もなく、つむぎは即座に反応した。くそっ、そんなに僕を追い出したいのか。

「2,3日借りてくって何だよ、いい加減教えてくれよ。そして春日井さん、僕の本棚をあさらないでっ!!」

マジで油断も隙もない。1人だけつむぎに絡まないと思ったらこれだよ。

「いえ、私は突然本を読んで教養を深めたくなっただけよ」

「なにその世界一信用できない言葉っ!?」

わからない!なにこれ、僕1人だけがおかしいの?及川は手付きに迷いがないし、春日井さんは今度はベッドの下とか覗いてるし、3人はその様子を面白そうに見てるし!

「サンキュ、つむぎちゃん。んじゃ、また」

それだけ言うと及川は僕の荷物を肩に担ぎ、部屋を出ていった。4人もそれに続く。僕も荷物を奪われたまま部屋でじっとしているわけにはいかず、その後を追う。たくさん並べられている靴の中から各々自分の靴を履き、及川は僕の靴を持ち、家を出ていく。僕はしかたなくゴム草履をはいて後を追った。

「どんな堂々とした強盗だよ!ルパン何世だ!そして不二子ちゃん何人いるんだよ!!」

無視。

家の前にはワンボックスカーが止まっていて、及川は後部座席にそれを投げ込んだ。

「いや、ちょっと!」

無視。

及川は助手席のドアを開ける。まあもちろんそうすれば運転席も見えるわけで、車である以上運転手がいるわけで、僕たち6人が高校生である以上、そこには間違えなく大人が座っているわけで。

「やあ、漆根君。久しぶり」

「あ、おじさん。どうも、お久しぶりです・・・」

このどこか見覚えのある車を運転していたのは及川の親父さんだった。

「漆根君、早く乗ってくれないかしら。邪魔なのだけれど」

「あ、うん、ごめん」

弱っ!僕弱っ!!

有無を言えるはずもなく、僕は後部座席に乗り込んだ。

「あれ?漆根君は上に乗るんじゃないの?」

「荷物なのかっ!?僕はどこでも荷物なのかっ!?」

しかもこの真夏のボンネットって・・・。

丸焼きになるよ!


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