一方的にどついてくる 2
「仲直りがしてみたい!」
朝ごはんを食べ終わって部屋に戻って突然だった。あまりにも唐突すぎる宣言だった。
「はあ・・・」
あまりにも唐突過ぎてその程度の相槌しか打てなかった。
「君たちの仲直りがなかなか魅力的だったからな、私もちょっとどつきあってくる」
「いや、僕は一方的にどつかれただけですよ」
「一方的にどついてくる」
「リンチ宣言っ!?」
どんなチンピラだよ・・・。
「とにかく私は行ってくる。あとは頼んだぞ」右手の人差し指と中指を立て、額の前でピッとかっこよくポーズを決めながらさつきさんは行ってしまった。
何を頼まれたのかいまいちよくわからないが、まあもって3日かなと思う反面、きっとその周期もだんだん長くなるんだろうな、と不安にもなる。さつきさんに飽きられないためにも、僕はもっと面白くならなくてはならない。
と、考えつつも今の僕にそんなことするのは無理で、結局机に向かってペンを走らせるしかないのだった。
「耕ちゃん、勉強教えろ」
・・・も、無理なようだった。
「なんだよ。いいだろどうせスポーツ推薦で高校決まってるんだし。ていうかなぜお前は僕の部屋の扉の破壊をもくろむんだよ。いい加減にしろよ、僕のプライバシーだだ漏れになるじゃないか」
「そんなこと言うなよ、冷てえな。いいだろ、どうせ暇なんだろ?」
「暇じゃないよ。見ろよ、この数式。僕は今大好きな数学に熱中してるんだよ」
ああ、しまった!誰も突っ込んでくれない!このままじゃ本気で言ったんだと思われる。
「あ?字が汚くて読めねー」
「うるせえっ!!」
ショックだ!本気でショックだ!
「暇じゃねえなら暇をくれてやろうか?」
「お前は僕の上司かなにかかよ・・・」
雫は僕の椅子の背後に来るとバキバキと拳を鳴らした。
「一発で暇になるパンチ持ってるんだけど、いるか?」
「意識飛ぶわっ!」
僕は椅子から転げ落ちるようにして雫から距離を取った。
「ようやくやる気になったようだな」雫はにかっと笑う。
しょうがないな。どうやら向こうは折れる気はないようだし。
「さすがに一日に二回も折れるやつじゃないか」
「お前の骨をか?」
「なに?さっき僕の骨折れたのっ!?」
だからさっきからこんな痛いの!?
「で、何を教えてほしいんだよ」
「保健体育」
「ぶっ」吹いた。
「冗談に決まってんだろ。うわー、マジでエロいなお前」
「・・・・・・」
うぜー、こいつまじでうぜー。もうさっさと道場行って剣道してこいよ。
「もういいからとりあえず夏休みの宿題持ってこい」
「ったく、回りくどいよな。端から頷きゃいいのによ」
と言いながら部屋を出ていった。
ああーっ!むかつく!すっごくむかつく!
というわけで雫が持ってきた宿題は明らかに先生に出されたままのものだった。
「お前な・・・」
「しょうがねえだろ、忙しいんだから!」
「まあ、そうだけどさ・・・」
本人もこのままじゃまずいと思っているあたり、救いはあるのかもしれないけど。
「じゃあとりあえず少しずつでもできるドリルから始めようか」
「オッケーわかったちゃんと教えろよ」雫は僕の椅子に座った。
あー、殴りたい。
「で、この問題は」
「いいよ、わかる」
「あっそう、じゃあそれは後ででもできるから難しいやつからやろうか。こっちのやつは・・・」
「大丈夫だ、わかる」
「ああ、そっか。んじゃあこっちのやつは・・・」
「わかる」
「これは・・・」
「わかる」
「1人でやれよっ!!」
なんで僕の邪魔してまでやるんだよ!
「1人でやるとだれるだろ?だから教えなくていいからそこで見てろ」
「めんどくせっ、お前ひどくめんどくせっ」
というわけで僕はベッドを背にカーペットに座り、読書感想文用の本を開くのだった。