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自己中王に、僕はなる! 5

「ふう・・・」

どうしたものか。あの感じじゃマジで明日も稽古に行きかねない。ぶっ壊れるまで止まらないだろう。

「お、これ飲んでいいか?」さつきさんは雫が結局手をつけなかった麦茶を一気飲みした。

「さつきさん、どうすればいいと思いますか?」

ぷはあと息をしたさつきさんはコップを置いて僕を見た。

「わからないだろう。私にはあの従妹の気持ちがわからないし、もちろん君にもわからない」

僕らには「かけがえのない何か」がない。だから、わからない。あいつがどうしてそこまで固執するのかがわからない。怪我をしている、そのままやれば悪化する、だから休む。そんな単純な3段論法ですら食い違う。これではまるで全く異なる言語を使っているのと同じことだ。

「耕太、もう一杯」

「・・・・・・下僕じゃない下僕じゃない」

ブツブツとつぶやきながら冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いだ。さつきさんはまたしても豪快に一気飲みを披露してくださった。反った白い喉がたまらなく色っぽいなあとか考えながらその姿を見る。

「どうせわからないのだから考える必要はないと私は思うがな」

「そんな無責任な・・・」

確かに言う通りなんだけど。

「まあ、無責任ではあるな。あの従兄の意思など無視して君の意見を押し通せと言っているのだから」

「ああ、なるほど・・・」

正面衝突か。向こうも曲がるつもりはないし、こっちだって曲げるつもりはない。となるとぶつかりあって負けた方が折れる、それだけだ。

「でもなあ、あいつもあいつで頑固だからなあ」

「では諦めるのか?」

さつきさんは言う。

「いいえ」

僕は即答する。

もちろんそんな気はさらさらない。僕の髪質と同じようにさらさらない。

「む?つまりさらさらがないということだから・・・ハゲか!!」

「はっ、ミスった!!」

ハゲてない!まだ僕はぴちぴちの16歳だ!

「若ハゲか・・・」

「違う!」

どうしてさつきさんは僕をハゲに仕立て上げようとするのだろうか。

「事実を伝えるのが私の役目だからだ」

「ねじ曲がってる!その事実もさつきさんの根性もねじ曲がってる!ほんとにやめてくださいよマジでハゲだと思われるじゃないですか及川を二つセットなんてごめんだ!」読点なしで一気に突っ込んだ。

「すごい肺活量と滑舌だな」

さすがのさつきさんも感心したらしい。

「では決まりか?」

「ええ。僕らは従妹兄ではなく従兄妹何ですからね。人生で一回くらいあいつに従わせるべきだとは思います」自分の頭頂部を確認しながら僕は言った。

そんなこんなで始まり始まり

漆根耕太VS雲霧雫

戦力差で圧倒的に劣るこの僕は戦闘後に生き残っているのか、乞うご期待!!

「・・・って感じですか?」

「・・・・・・テンション高」

「ドン引きしている!?」

なんで!?さつきさんが好きそうな感じにしてみたんだけど!

「ああ、すまん、引いてしまって。今後気をつけよう」

「いや今改めろっ!」

「すまん・・・むりだ・・・」

「こんなの僕のさつきさんじゃない!!」

むしろノリノリを期待したのに!

「なに勝手に自分のものにしているのだ」

「やめて、いきなりそんな常識人ぶるのはやめて」

僕1人で変な人みたいじゃないか!もともと変だしほかの人から見たらいつも1人だけど!変人だけど!!

「ああ、さっき考えを改めた。今後は少し常識というものを持とうかな、と」

「無理だよ!今さらすぎるよ!!」

死刑囚が改宗して神父になって迷える人々を救おうとするかの如くのいまさらっぷりだよ!

「面白いことを言われたら元に戻るかもしれない」

「出た!ムチャ振り!!」

頑張れ、頑張るんだ僕。脳みそからぞうきん絞りのごとく絞り出すんだ。

「まあ耕太と言えば趣味がないというのがアイデンティティだから無理だよな」

「ちょっと待ってください!もう少し時間を」

「どうせいままで『これは面白いなあ』とか思ったことのあるものはないのだろう?」

「そのセリフ言わなきゃダメなんですか?・・・でもでもないわけでもないんですよ。ただ僕ってやっぱ飽きっぽいんで何をやっても続かないといいますか」

「ふむ、あるのか・・・。面倒だが聞いてやろう。今まで一番はまったのはなんだ?やはりゲームセンターか?」

なんだろう。さっきからさつきさんの顔に諦念が浮かんでいる。それがたまらなく恐ろしい。

「いえ、あれはどっちかって言うと短期間でおっきなブームが来て、去っていったって感じですから。言うならばルーズソックスとかたまごっちです。そうですね、中3の時のイレイズハンターが今までで最高でした」

「イレイズハンター?」

お、さつきさんの食指が動いた気がしたぞ。

「ほら、勉強してると机に消しカスが出るじゃないですか。それをシャープペンの先で何個まで刺し続けられるか、というゲームなんですけど」

「根暗だ!そんなゴミ集めみたいなことを趣味にするんじゃない!・・・しかし英語は偉大だな。そんなゴミ拾いでもカッコイイ名称をつけられるのだから」

よし、突っ込まれたぞ。この意気だ!

「中3と言えば受験勉強の時期なんですけど僕はむしろイレイズハンターをやっている時間のほうが多かったですね」

「君は異常だっ!!」

よし!!

「いや~、燃えましたね~。当時は新品のシャープペンの芯でも焼き鳥みたいに刺していくことが出来ましたからね。イレイズハンターが受験科目にあったら僕は違いなく合格でしたよ」

「人間として不合格というか失格だな・・・」

「それはそうと、いつも僕の無趣味を指摘するさつきさんはどうなんですか?」

「いよいよデリカシーが欠けてきたな。だが、まあ、わたしから振っておいて返さないわけにも行くまい。私は読書かな。文学は最高のエンターテイメントだと常々思っている」

「普通ですね・・・」

そろそろ確認だ。常識人と言うのならこの言葉で喜ぶはずだ

「いやっ、違う!違うんだ!待て、待ってくれ、タンマだ!」

「古いっ!」

よっしゃ、帰って来た!黄泉の世界からさつきさんが帰って来た!

「わたしにとっての最高の娯楽は耕太だ!」

「やばい、嬉しすぎて涙が出そうだ・・・」

「ああ、そうだろう。耕太をいじめて楽しむのは何よりも面白い。知的生物に生まれてよかったと心から思う」

「違う!それは他者を蔑んで自分を上位に見せるといういろんな生物でありがちな行為だっ!」ああ、涙が・・・。

「ははっ、楽しいなあ」

だけどいいんだ、さつきさんが帰って来てくれればそれで。

「大体な、耕ちゃ・・・いや、耕太」

「噛んだ!?」

かわいいし、なんだかすっごくかわいいし!

「す、すいません。もう一回今の呼び方で!」

「ふざけるな、拒否する」

「そこをなんとか」やばい、よだれ出ていた。

「しょうがないな・・・ゴミ」

「それもありだ!」

「気持ち悪っ!!」

嘘だ。マジで傷ついている。そういえば1週間前に春日井さんから突然そんな感じのメールが届いてたな。

「・・・・・・」

かわいそうなものを見る目。

わかってる。ちゃんとわかってますから。

「ところで「大体な」って、何を言おうとしてたんですか?」

「ああ、そうだった。従妹の親に言えばすべて解決するんじゃないのか?」

まあ、そうだ。雫は上下関係に弱いからな。絶対先輩に言われたから、とか言って後輩いびりするタイプだ。

「信用ないな・・・」

「でもだめですよ。それじゃあ意味ないんです。これから同じような怪我したときに今度は誰にも言わずに稽古するでしょう?」

「まあ、そうだろうな」

「僕は別にあいつを曲げてやろうってんじゃないですよ。ただへし折るだけです。怪我をしたら休むっていう当たり前のことを実行させてやるだけです」

「なるほどな。しかし1つわからない。どうして君がそこまでやるんだ?あの従妹とは会うのも2年以上ぶりだろう?従妹だからか?妹っていう漢字が含まれていれば何でもいけるクチか?妹尾さんっていう苗字に萌えてしまうタイプか?」

「僕はシスコンじゃない!」

断じて、違う!

「そんなの関係ないですよ。ただ僕はあいつに剣道を諦めてほしくない。それだけです」

別に雫のためじゃない。こんなのはただのエゴだ。だけど、なあなあにして後悔するくらいだったら僕は自己中でいい。

「自己中王に、僕はなる!」

「過去最悪なル○ィだな・・・」




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