わかった。あたしはもう金輪際勉強はしねえ! 2
「そんなことよりも聞いてほしい。あいつはきちがいだ!」さつきさんは突然身を乗り出して感情いっぱいに声を上げた。
「前線で敵を迎え撃ってるんですか?」
「基地外ではない!!分かりにくいボケをするなっ!!」
もう突っ込み回数とかはどうでもいいらしい。それほどまでに重要なことを言おうとしているようだ。やれやれ、平和を脅かすものはいつも突然現れる。ゲルマン人しかり、黒船しかりだ。
「たかが靴。たかが靴だぞ!家に帰った時に靴をそろえなかっただけでなんであんなに怒るんだ!あいつは一体何年間生きてるんだ!」
「・・・・・・」
ノロケである。某5歳児が主人公の漫画のミッチーとヨシリン状態である。こんなことが週に1度は必ず起こり、そのたびにさつきさんは実家(僕の家をそう定義しているらしい)に帰ってくる。
僕としてはもう・・・最高だ!
「大体年齢うんぬんを言うならさつきさんだって50年は生きてるじゃないですか」
生きてはいないけど、本人の実感としても僕の感覚としても生きているのと何ら変わりはない。
「ばっ、ばか者っ!私は永遠の19歳だ!いわば永遠の美少女だ!」
ちょっと危険なキャッチコピーだった。
「べっ、べつにあんたに会いに来たわけじゃないんだからな。単に実家に帰らせていただいただけなんだからな」
「・・・・・・?」
な、何を突然!?
「いや、美少女ということで最近流行りの萌え要素を取り入れてみたんだが・・・どうだろう?」顔を赤らめるさつきさん。少しチャレンジブル過ぎたようだ。
どうもこうも・・・最高だ!
「勘違いしないでよね。あんたは人間なんかじゃないんだからな。単に軟体動物なだけなんだからな」
え、あれ?それは違くない?
「勘違いするなっ!君は馬鹿だ!」
「う、うん。普通の罵倒になっちゃった!」
やはりさつきさんにはちょっと無理が過ぎたらしい。何事にも出来不出来があるからな。そもそもさつきさんは不器用な人だし。
「大体ツンデレはもう使い古された感がありますよね」
「ふん、まあ君にとってはそうかもしれんな。君にとっては」
「・・・・・・?」
何か含みがありそうな言い方だな。全く心当たりはないんだけど。
「まあいいや。僕はお姉さんキャラのほうが断然いいですよ」
「君はひどいな!」
ようはさつきさんがタイプだってことを言おうとしたら、普通に驚きと罵声が返ってきた。なんで・・・?
「・・・いや、なんでもない。そうだ、君はそういうやつだった。・・・お姉さんキャラだな、私に任せろ!」
「なんでそんなにアクティブなのか・・・」
さつきさんの中で萌え要素の順位が高すぎる。ていうかノリに対して貪欲すぎる。
「おいそこのチビ、ちょっとコーラ買ってこい!」
「お姐さんキャラ出ちゃった~~!!」
あ、でもこれも割といいかも。
「相変わらずのMだと・・・!?まったく、君ときたら・・・」
「あっ、すいません、ちょっといいですか?」
えっと、この二次関数の二つの曲線がここで交わるわけだから答えは・・・・・・。
「おい、こらっ!」
「ああっ、僕の問題集がっ!」ていっとさつきさんが僕の机から奪い去った。おかげでシャープペンの黒い線が解答欄に走ってしまった。
「こんなものっ!!」ピッチャーが大きくふりかぶった。そして壁に穴をあける金剛力士のごとき力で問題集を壁に叩きつけた。
開いていたページは無残にも折れてしまっている。なんて人だ!
「そんなことより乙女を金剛力士に例えるなっ!!」
あっ、この感じは本気でキレてるな。
「最初の巨人、ユミル?」
「化け物なのか、私は!?」さつきさんが本気でショックを受けていた。
しかしそれならこっちにも言い分がある。
「ならカーペットの下見せましょうか?」
さつきさんによる被害者、床。彼は鈍器(超頑丈な目覚まし時計)を叩きつけられるという暴挙の結果、陥没した。
「うう・・・。君は一体いつの間にSに・・・」
ちなみにその部分は母さんには巧みに隠している。しかし、母さんは毎年夏休みの終わりに大掃除をするのでばれるのは時間の問題だろう。なんだか必死に彼女を隠している気分。
「知らないだろうが、そんな気分は!」
「知らないけども!!」テレビ!テレビで見た感じだよ!