自己中王に、僕はなる! 4
さて、僕の住んでいる町がいかに田舎であるかはもう十分に伝わっていると思うけど、しかし田舎らしく老年人口だけは高いので個人経営の病院はそれなりにある。一番近くある病院は歩いて3分だ。
「でも耳鼻科へ行ってどうするんだよ、って話だよな」
突っ込んでくれる人はめんどくさいからと言って僕の部屋にこもってしまった。ていうか病院が嫌いらしい。彼女の生前のことを思えばわからないことではないけど、かわいいと思ってしまう僕はやっぱり変なのだろうか。
というわけで一番近い整形外科まで自転車で15分。歩いてもなんとかなる距離だが、けが人にそれは酷すぎるので僕が自転車をこぎ、雫は後ろに座らせた。二人乗りは不慣れなのでよろよろしたが、別に急ぐ必要もないし、それに、重いというほどでもない。
雫は終始ほとんどしゃべらなかったが、どうやら上級生と模擬試合をして押し切られたときにひねったらしい。そしてあの師範に帰るように言われたという事だ。
「その相手も大人げないよな。いくら女同士だからってそこまでしなくてもいいのにさ」
「相手は男だ。そしてあたしは漢だ。勝負となっちゃ手加減無用」
・・・ということらしい。まあ、本人がそう言っているのなら別に僕は何も言うつもりもない。
病院はおじいちゃんおばあちゃんでいっぱいだったけど、診察ではなくリハビリ目的の方々なので思いのほか早く名前を呼ばれた。一応僕もついていく。
診察中は面白くもなんともなかったので端折らせていただこう。
捻挫。全治一週間。それまで湿布を貼って安静。以上。
帰りに近場の薬局で湿布を処方してもらって家に帰った。帰りは全くの無言だった雫だが、家に入るととりあえずソファに座り、こういった。
「茶」
「・・・・・・」
不機嫌そうだったので以下略。
「下僕か!」
「さっきやりました!!」
お茶を注ぎながらさつきさんに状況報告。
「なるほど、ただの捻挫か。良かったな、足首切断とかにならなくて」
「どんな大けがっ!?」
剣道ってそこまでやばいの?まあ確かに武道だからある程度の危険は伴うんだけども。
「あいつにそのセリフを聞かせてやりたいですよ」
一週間で済むなら安いもんだ。診察代も湿布も安かったしな。
「あたしは休んだりしねえからな。明日も稽古なんだ」
「いやいやお前の脳みそは鳥並みか?さっき先生が一週間安静って言ってただろ。聞いてなかったのか?」
えらい人の話は聞いとくもんだよ。
「安静って言うのは安静って意味だ。動くな、って言う事だぞ。オッケー?」
「うるせえ!そんなに止まっちゃいられねえよ。痛いんだったら我慢すればいいだけだろ」
こいつは・・・。
「あたしは止まらねえ、じっと休んでるなんてできるわけねえだろ!」
耳がキンキンと痛む。それほど気迫を込めた言葉。
確かにそれほど打ち込んでいるものをやめろと言われても嫌だろう。あいにく僕にそんなものはないけど。
「たかが一週間じゃん」
「ふざけんなっ。一週間だぞ!7日間だぞ?時間にして・・・何時間だコラっ」
「計算しろよ・・・」
やっぱ鳥並みだ。
「こんなん唾つけとけば治るんだよ」
「捻挫なのに表皮に唾つけて何が治るんだよ。それとも切開してなめるのか?」
どんなプレイだ。いや、プレイじゃないな。むしろジャンルとしては猟奇殺人に近い。
「どんなフェチだ!」
さつきさん、そんな突っ込みはいらない。
「治る。あたしの足だから!」
「そんなこと言ってるとなめまわすぞ!」
僕がそう言い返すと雫の顔が赤くなった。いや、どんなセリフでキレてるんだ、こいつ。タイミングおかしいだろ。
「バカ、死ね、変態!」
ひどい3つの文句とともに繰り出されたのは全力の頭突きだった。軽くくらくらする。
「弱・・・」
さつきさんの率直な感想にめっちゃへこむ。
ようやく視界が元に戻るころには雫はゆっくりと階段を上っている所だった。
「とにかくあたしは明日も稽古に行くからな」そんな捨て台詞とともに2階へ消えていく。
直後に明らかな破壊目的でドアを閉める音が家中に響いた。