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自己中王に、僕はなる! 3

「で、なんでこんな早くに帰って来たんだよ。確か今日は夕方に稽古が終るって言ってたじゃんか」

家の鍵を開けると雫は荷物を置きに部屋に戻ることもなく、リビングのソファにどかっと座った。何という不遜な態度だお前、と言いそうになったけど、不機嫌そうだったのでやめといた。とりあえず疲れてそうだったので冷蔵庫から冷たい麦茶を出してやる。

「下僕か!?」と、さつきさん

違うっ・・・!

「べ、別にお前には関係ねえよ」

「確かに無いけどさ・・・」

所詮ただの従妹である。本人がそういうのなら別に深追いする必要もない。雫のバッグからおにぎりのごみを取り出し、ごみ箱に捨てる。

「てめえ、人のバッグをなに勝手にあさってんだ」雫は体をソファから起こす事もなく言った。

飛びかかってくるかと諦めていたが(身構えてはいない。身構えても無駄だから)、なんか拍子抜けだった。

「なんだよ、侍ってそんな細かいこと気にするのか?」

「ちっ・・・それなら、しかたねえ」

こいつの10年後が心配だ。絶対お金とか巻き上げられてる。

でもなんか変だ。不機嫌そうなのはいつものことだ。こいつは剣道のこと以外だいたい不機嫌だ。しかし僕がこうして雫の財布を手に持ってニヤニヤしているというのにどうして黙っているのだろうか。

「いや、何をしているんだ、耕太!」

ようやく突っ込んでもらえたので大人しくバッグに戻したけど。

とりあえず雫と自分の額に手を当ててみる。

「なにすんだコラっ」

鉄・拳・制・裁!

「ぐふぅ!」入った。これはマジで入った!腹を押さえてうずくまる僕。

とはいえ熱があるわけではなさそうだ。拳にも変化はない(こいつがここに来てからの鉄拳は初めてではない)。それでもなんとなく無理して気丈にふるまってる感じがする。ただの僕の気のせいだろうか。

それを証明すべく僕は雫から距離を取った。

「ばーか」

「~~~~~~っ!!」

本気でキレた。沸点低っ!

だが、それでも飛びかかってくることはない。つまり、飛びかかれない状態だという事だ。さらに熱があるわけでもないとなるとその理由は限られてくる。

「雫、とりあえずシャワー浴びてこいよ」

「やだ」ふい、と横を向いた。

「汗臭いぞ」

「い~や~だ」

ちょっとかわいかった。だが無視。無視無視。

「早く両足に体重をかけて立ち上がって足を踏み出して歩いて一歩ずつ階段を上って着替えを取ってきてさらに足首あたりに重力を感じながら階段を下りて月の人類のようにすごいジャンプかましながら風呂場に行ってシャワー浴びてこいよ」

喋るごとに雫の睨み顔が険しくなる。僕の勘はどうやら当たりらしい。

「それとも昔の侍と違ってシャワーも浴びれないのか?」

まあ、昔の侍には絶対無理だったけどね。シャワーないもん。

「できるぜ、やってやる。馬鹿にしやがって、二度とそんな口きけないように全力でシャワー浴びてきてやるよ」

馬鹿だった。馬鹿にするまでもなく馬鹿だ。

そう言った雫はよろめきながら立ちあがって、不自然に左に傾きながら歩き、手すりに体重を預けながら階段を上り、着替えを持って下り、やはり左に傾きながら風呂場に入って行った。

「どうした耕太、あの娘はバイオハザードごっこでもしているのか?」

「なにその恐怖心煽りそうな遊び!?」

こええよ!噛みつかれるの、僕!?

「あ゛ーーーー」さつきさんは頭を一度下げることによって髪を前に集中させ、両手をあげて襲ってきた。どっちかって言うと貞子さんみたいだったが。

「あああああ~~~~~!!」

マジで怖いから。だがなぜだろう・・・

「噛まれたい!!」

「なんだその全力主張は!?」

一瞬にしてさつきさんが素に戻った。どうやら今のがTウイルスを撃退する魔法らしい。

「そうか。じゃあ後で雫にも『お願いだ、噛んでくれ』と言っておこう」

「通報されるぞ!!」

「確かに」

僕なら絶対通報する。そんなやつと一つ屋根の下で暮らしてたまるかっ!

「・・・・・・」

「なんですかそのかわいそうなものを見る目は!」

心外だ。実に心外だ。僕はまだそんなことを言っていない。

「まだ?ということは言う予定があるのか」

「しまった!そういう引っかけか」

この世界は落とし穴だらけだ。

「どうだ!さっぱりして来てやったぜ」雫が出てきた。

「早っ!」

こいつ女子のはずだろ?つむぎの5分の1の時間で出てきたぞ。

「これが侍だ。二度とでかい口を・・・って何してんだよ」

「別に」

ただ雫の足元に座って右足首を眺めているだけである。決して舐めたいとか蹴られたいとか考えていない。

「どけよ」

そういう雫を見上げてみる。眉間にしわを寄せたいつも通りの表情だ。しかし僕がにやりと笑うと、ひるんだ。

「えい」右足首を押した。

「ひゃん!」と可愛らしい声をあげ、そのまま後ろ向きに倒れた。

「言ってえな、コラ!」

繰り出される左足の蹴り。僕は顔面に向けられたキックを首を左に曲げることによってかわした。だてにさつきさんの攻撃を避け続けてはいない。そしてそのまま右足首を掴んだ。

「っ!!」雫の顔が痛みに歪む。

それもそのはず、足首の外側が見ればはっきりそうわかるように腫れていた。近くで見れば内出血も見える。

「いつまで触ってんだよ、変態」

「へぶし!」

次の蹴りは避けられなかった。どんだけ僕は顔を怪我するんだと考えながら立ちあがったが、雫はまだ立ち上がらない。痛みは相当あるらしい。そりゃ飛びかかったりしない筈だ。

「病院行くぞ」

いまだにリビングに置いてあったバッグの中の財布から雫の保険証を取り出し、自分の財布に入れた。

「やだ」ふい、と横を向いた。

「早くしろよ、行くぞ」

「い~や~だ」

かわいくない。まったくもってかわいくなかった。

「悪化したらどうするんだよ」

「気合いで治す」

「気合いで怪我が治るか」

「治す。あたしは侍だから」

「侍だって無理だよ、そんなの。それに、お前は侍じゃないだろ」

ただの剣道が強いだけの女子中学生だ。

「・・・・・・」

「行って何ともなかったら湿布でも張ってそれでいいじゃんか」雫に手を伸ばす。雫はそっぽを向いたまま僕の手を取った。

「しかたねーな」

「・・・・・・」

その声は雫の声とは思えないほど小さかった。



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