なにを言っているんですかさつきさん。彼女は春日井若菜ですよ? 5
「あ、そうだシュウ君、お昼食べてく?」
一仕事終え、階段を下りながらシュウ君に聞いてみた。躊躇いながらも肯定が返ってきたので僕はキッチンに入った。
ご飯はないのでパスタ。ソースはレトルトで。残念ながら僕はつむぎの様に料理に対してそこまでアクティブになれない。
「そういえばつむぎの手料理って食べたことあるんだっけ?」
つるつるとパスタをすすりながら軽い気持ちで聞いてみた。ちなみにさつきさんは部屋に戻ってゴロゴロしている。曰く、人が食べているのを見ると腹が立つ、だそうだ。減るのではなく立ってしまうらしい。
「・・・・・・」
あれれ?シュウ君がなぜか宿敵を見るような目で僕を見ているぞぉ。
「・・・まだなんだ」
頷かれた。喋れ。
「デートに弁当作って持ってきそうなやつだと思ってたんだけどな」
なんでだろ。ご飯は温かいものじゃなきゃダメ的なやつだろうか。
「まだ人に食べさせられるようなものが作れない、だそうです」
「どういうことっ?」
あいつ以上って、もうプロじゃん!
「それまでおあずけらしいです・・・」
「そっか・・・」
まあ、照れ隠しだろう。僕の妹は相変わらずだ。
「じゃあ今度うちに泊まりに来ればいいよ。僕の友達ってことで抜き打ちにさ」
「いいんですかっ!!」
ものすごいスピードで立ち上がられた。
「うん、いいよ・・・」
テンション高いなあ、このリア充は。
「ああ!でもでもご両親にお会いしたらなんていえばいいんだろう!」
変な心配をする子だった。
「決まってるじゃん。『娘さんを僕にください!』だよ」
定番中の定番。この絶好のタイミングを逃す手はない。
「わかりました!あっ、でもその前に・・・妹さんを僕にください」立ったまま深々と頭を下げるシュウ君。
「あぁ?」
「すいません・・・」僕の剣幕に押されたのか、シュウ君は急に青ざめた。
おかしいな、そんな不動明王みたいな顔してたかな。
「えっと、何の話だっけ。そうそう、手料理の話だ」
「いえ、お泊りの話で・・・」
「えっと、何の話だっけ。そうそう、手料理の話だ」
「・・・・・・そうです」
「へえ、じゃあ手料理一度も食べたことないんだ。話変わるけどさ、普段つむぎとどんな話してるの?」
「僕からはテレビの話やらスポーツの話やらいろいろですね。つむぎさんは、えと・・・」
「なに?」
「基本的には漆根先輩の悪口です」
「ええっ!?」
いや、わかるよ!気持ちは凄いわかる!そしてシュウ君もどうせ必要以上に親身になって聞いてるんだろ!
「やっぱ噂のこともありますしね。実を言うと会うまでずっと漆根先輩のことを恨んでるところがありました」
「ぶっちゃけるね、そーなの?」
ま、それもまあ仕方ないと言えよう。
「まあ、つむぎさんがいつも悪口言ってましたからね。そんなにひどい人なんだなあ、と思ってましたし」
「ショックだ・・・」
いつも言ってるのか・・・。
「あ、でもでもあれってただの照れ隠しだと見ることはできませんか?そもそも僕はつむぎさんが誰かを本気で褒めるのを聞いたことがありませんよ」
「基本的に人に厳しいやつだからね。でもさ、フォローは嬉しいけれど、多分それはないでしょ。あいつは隠れてでも面と向かってでも僕をけなすよ。というか斬り捨てるよ」
朝会うとそれだけであいつは不機嫌になる。僕ら兄妹の険悪さはそのレベルだ。
「ええ、2人の時はけっこう『昨日こんなふうにけなしてやったわ』みたいなことを嬉しそうに語っています」
「・・・しかも嬉しそうなんだ」
「ええ、僕にはなかなか見せてくれない笑顔ですよ。だから今の僕は漆根先輩のことを尊敬してますけど、同時に嫉妬もしてます」
「僕と同じ扱いうけても?」
「あ、やっぱいやです」
「だよねえ・・・」
僕だってごめんだ。